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87 新貴族の悩み


 ガブリエラと私が随分違う、と呟いたシン様に反応したアーサー様が、そっと伺うように声を出した。

 

「シン様も、まさか……」

「ええ、そのまさかです。……くそ、悔しいなんてもんじゃない……っ」

「それは……」 

 

 なにやら通じあっている。

 目線で話を促すと、シン様は苦々しい顔で自嘲しながら話し出した。

 

「私の家は今でこそ大きな商いはしておりませんが、元々は東の大国シンハライトの豪商だったそうです。それが、とある功績を讃えられて爵位と永住権を与えられたんだとか。そのため、商人上がりの新貴族が多いディアマンテに振り分けられたのですが……。どうやら私は、彼らに同じ貴族だとすら認められていなかったようで」

「……」


 ううーむ。これは、やはり……。

 

「その、もしかして。ガブリエラ様主催の薔薇の会で行われているという、“グループ分け”で不当な扱いを……?」

「……。グループにすら、入れなかったのですよ」

 

 oh……。

 

 このグループ分けというのは、「高貴なる薔薇の会」における階級組織のことを指す。

 「尊き身であられる皇子は多忙なお方。全ての希望者と平等に交流は出来ない」という建前の元、生徒達は身分やコネ、納めた“会員費”によってグループ分けされる。それによって、サロンで共にいられる時間が制限されるというのだ。

 

 情報によれば、第一位グループ、第二位グループ、第三位グループと分かれ、更にその下に“薔薇候補生”なるものが置かれているそうだ。てかどんだけ薔薇好きだよ……。

 

 ごほん。

 

 要するに、シン様は元々豪商の家系だったにも関わらず候補生だと言われてしまい、大いにプライドを傷つけられているわけだ。

 

「しかし、その……。シン様の家は子爵家でいらっしゃいますよね。会員費を払おうと思えば、第3グループに入る分くらいは払えるのでは?」

 

 私がそう言うと、シン様は顔を強ばらせ、ガタンと立ち上がって叫んだ。

 

「会費がラーミナ教に流れているのは一目瞭然だ。ラーミナ教に資金を流す様な真似をしろというのか!!」

「ひゃっ」

 

 突然の怒声にびっくりして小さく飛び上がってしまった。すると、ヨハンとヴィル兄様がザッと前に出て私とシン様を隔てた。

 

「押しかけて来ておいて、更に我が主の前で突然怒声を上げるとは。一体どういうおつもりか」


 ピリリとした雰囲気のヴィル兄様がそう言うと、シン様はハッとしたような顔をしたあと謝罪し、慌てて座った。

 私も慌ててヨハンとヴィル兄様を抑える。

 

「い、今のはシンハライト出身の家のシン様に対して、私の配慮が足りなかったのです。心配してくれてありがとう、大丈夫です」

 

 ね?と宥める様に言うと、2人はやや不満げな顔をしつつも下がってくれた。しかしさっきよりも距離が近い。

 やはり、ディアマンテの生徒ということで警戒しているというか……心象は良くないようだ。

 

「た、大変失礼しました、アリス様。取り乱しました。……その、先程仰られた通りなのです。我がユーレン家はシンハライトにルーツを持つため、ラーミナ教ではなくハスタ教を信仰しています。そのため、ラーミナ教に金が流れると分かっていて会員費を払う事は出来ないのです」

 

 なるほど。そう言う微妙なラインなのね。

 

 要するに、ユーレン家はすでにこの国の貴族になっているから、権力者としての皇子にお近づきになりたいとは思っている。だからサロンでお喋りはしたい。しかし宗教的な理由から、金銭が絡むとなるとラーミナ色の強い会に投資はできない……という所か。

 

 微妙な立場というのも大変そう。とため息をつくと、今度はアーサー様が口を開いた。

 

「じ、実はぼく……じゃなかった、私もそうなんです。私の家も、ハスタ教で。皇子と同じプラティナクラスなのに、会に入ってないってことで目も合わせてもらえないんです」

 

 こちらもかなり居心地の悪い思いをしているらしい。

 

 みんながみんな何かしら問題を抱えている。どれもこれも重大だったり、放置しておけない問題だ。

 階級組織だの会員費だの……。まったく、めんどくさいことをしてくれる。

 

 こういうことは大切だから疎かには出来ないけど。出来ないんだけど。

 

 そろそろ、ファンタジー禁断症状で、手が震えだしそうなんですけど……。と、私は遠い目になってしまった。

 

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