76 回想と目的
あれは私がバ○スして学園長室に呼び出され、魔力についての説明をし、ユーダ石をもらった時だ。
大方の話が終わったかなと思い退出の挨拶をしようとしたところで、オルテンシア様に呼び止められたのだ。
◇
「アリスよ。お主は魔術を相当好んでおるそうじゃな」
「はい。好きですが……?」
好きと即答した私に、オルテンシア様はにこっと笑った。
「なら、私と賭けをしてみないかの」
「賭け……ですか?」
うむ、と頷いたオルテンシア様は、人懐っこいような悪戯な笑みで言った。
「賭けに勝てたならば、私の知る魔術の叡智の中で最も面白いものを教えてやろう」
「?!?!」
お、お、おおオオオオルテンシア様の知る最もすげー魔法。
やっべぇなんだそれ。オラ、ワクワクしてきたぞ?!?!
思わずキャラ崩壊しそうになる。私のテンションは一瞬でメーターを突き破った。
「くくく、どうじゃ?」
「やります。どんな賭けですか?!」
目の色を変えて食い気味に答えた私にくく、と楽しそうに笑ったオルテンシア様は、人差し指をぴんと立てて提案した。
「なに、簡単じゃ。老い先短い私が死ぬ前に、この国の本来あるべき素晴らしい姿を見せてくれたならば、お主の勝ちじゃ」
「へっ……?」
唐突な大スケールについていけずぽかんとしてしまう。
そんな私に対して、オルテンシア様はこほんと咳払いをする。
そして、すっと無表情になった。
白髪、白磁の肌、そして幼い顔立ちながら紫眼の美貌であるオルテンシア様の、神秘的な見た目と相まって。
急に、自分が今どこにいるのかわからない気持ちになるほど、部屋の空気が変わった。
「お主は恐らく、類まれなる星の元に生まれたのであろう。一目、見てわかった。……そしてその特異さ故に、お主を中心とした何かの変革が、すでに始まっておる」
「……」
語るオルテンシア様の瞳は不思議な色にきらめき、厳かな語り口はまるで預言者のようだ。
「お主は聡明じゃ。それ故に、障害となるものや邪魔者を冷静に切り捨てる事も出来るであろう。……しかし、どうか救えるものは救ってやってほしいのじゃ。今や貴族も平民も、皇族に至るまで抱える問題は根深く、多い。それでも、人も国も、救える限りを……。その手で救い、より豊かな未来を私に見せて欲しいのじゃ」
「…………仰っている意味が、よく、分かりません」
言葉の意味が分からない訳では無い。
何故そんな大それたことを「私」に言うのかが、分からなかった。
しかし、その疑問の意図を汲んだオルテンシア様は、静かに首を振った。
「勘じゃよ。別にテストの点が良いからでもなければ、高位貴族の娘だからでもない。なんとなく、じゃが確かにお主なら……私の望む未来を見せてくれる気がしたのじゃ」
そこまで言って、神秘的な表情からにぱっと人好きのする表情へ切り替わったオルテンシア様は、へらりと笑った。
「ま、貴族というものはやたら揉めたがる。その上無知の知すら自覚せぬ者が今は多い。障害は多く、ぶっ飛ばしたい奴ばかり出てくるじゃろうが、賭けに勝てるよう頑張るのじゃぞ。……手始めに、数週間以内に学園内で大きな動きがある。まずはそれをお主自身の望む方向へ誘導して見せよ」
「は、はぁ……。わかりました」
なんだか良く分からないが、とりあえず魔術大好きっ子であり続け、ちょっとばかし人に優しくしてやってくれよな!という事だろう。それなら殆ど現状維持だ。
「ちなみに、私がその賭けに負けた場合はどうなるのですか?」
そう聞くと、オルテンシア様は極悪人のようなイイ笑顔を浮かべた。
「別に罰はないぞ? じゃが、超絶面白い魔術の叡智を知ること叶わず、むしろ私が妨害に回る事で魔術のなんたるかも一生知ることが出来ず、モヤモヤもだもだし、ハンカチを噛みながら泣いて暮らすはめになるじゃろうな」
い、一生モヤモヤもだもだ……。
くそ、私にとっては地味に一番ダメージがでかいかもしれない……!!!!
だってオルテンシア様って絶対すごい魔術師だ。
なんか不老不死っぽいし、真○の扉開いてそうだし、賢者の石とか持ってそうだし。
そんな人物が秘匿している情報を開示してもらえるんなら、改めて頑張ってみるのもアリ……。否、大アリだ!
ふんすと鼻息荒く「その賭け、受けて立ちましょう!」と言うと、オルテンシア様は実に楽しそうに笑った。
◇
さて、そんなこんなで思考を現在に戻す。
レイ先生が最低限の情報しか私たちに渡せなかった理由だが、オルテンシア様の話の中にもヒントはあった。
「揉めたがる貴族」「貴族も平民も問題だらけ」「(私にとって)ぶっ飛ばしたくなる障害」のあたりだ。
要するに、恐らく貴族の集う三校会議とやらは紛糾したのだ。
一介の貴族でもある教師達の意見は恐らく割れている。そのせいであんな訳の分からない縛りプレイになったのだ。
レイ先生がまともな情報を開示できないのは、反対派の圧力があるからなのだろう。
反対派の目的は授業免除&研究活動の妨害。対象がアウルムクラスだけなのか学校の生徒全体なのかは情報が足りないが。
先生方はなんらかの方法で監視されているのか、生徒の中に間諜がいないとも限らないから慎重になっているのか……。それも、情報が必要だ。
こうした結論に達した私は、今日の朝のホームルームの後、教室を出たレイ先生の後をつけて聞いてみたのだ。
「レイ先生。先生が仲良くしていらっしゃる先生って、どなたなのかお聞きしても良いでしょうか?」
人気の少ない廊下でそう声をかけたのだが、レイ先生は驚きもせずに振り返ってこちらを見た。
そして、その回りくどい質問に、実に面白そうにニヤァ~と笑った。
「そうねぇ……学園長先生にはとても良くしていただいてるし、魔術の先生と音楽の先生とも比較的良好な関係ね。歴史の先生と文学の先生はちょっと疎遠かしら……。算術の先生はほとんど話したことないわねぇ」
……つまりはそういうことである。
シーンの時間軸がバラけすぎてちょっと読みにくいですかね……。なんにしても書きたかったシーンのひとつでした。
オルテンシア様のシーンは、ゲームでいうと主人公が旅立ちの村で長老から運命を知らされる……系のイメージです(笑)




