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72 側近部屋にて その②

ユレーナ視点です。


 二段ベッドの下で寝息を立て始めたマチルダの様子を窺い、私は安堵の息を吐きました。

 最近、マチルダはなにやら思い悩んだような顔をしていることが多いのです。

 

 その傾向は側近になって半年経ち、ヴィルヘルムの稽古を受けるようになってから見られるようになりました。

 私達の動きや様子をじっと見ていたかと思うと、自らの手のひらに視線を落として暗い顔をすることが増えてきたのです。

 

 しかし、聞いてもその内容は打ち明けてくれません。

 

 ……一緒に側近として働き始めてから一年経ち、私はマチルダのリーダーシップや、細やかな所に気がつく性格にたくさん助けられてきました。

 だからこそ、そんなマチルダの悩みが心配で仕方ありません。

 

 ……いいえ、それは、マチルダだけではありません。

 

 実は、ヨハンやヴィルヘルムにも言えることなのです。

 

 ヨハンは強気な性格で、私たちといる時は弱音を吐いたりしません。

 稽古でヴィルヘルムにコテンパンにされても、無言で立ち上がります。

 しかし、ふとした瞬間に切なそうに虚空を眺めることがあるのでした。

 

 そしてヴィルヘルム。


 伊達に私達の二倍生きていません。実家のバージル家の影響もあり魔術素材について知識が豊富で、力強く剣の腕も立ちます。

 

 でも、そんな風に護衛側近として有能な要素を持ちながら、時折納得していないような……どこか悔しげな顔をしていることもあるのです。

 

 能力についてでしょうか、それとも側近として接する時間の差でしょうか?……もしくは、お手本になる誰かを想像している?

 なんにしても、側近としてもっと出来ることが無いかと模索しているようです。

 

 これらの事を、私はアリス様に報告し相談しました。

 

 するとアリス様は、彼らのそういった様子を元々ある程度把握していたようで。話を聞いて確信を深めた様子で、対応を考えていらっしゃいました。

 

 ……私は、この一年アリス様と近しい場所で共に過ごし、アリス様が私たちを思いやり、よく見てくださっていることを知りました。

 そのアリス様が私たちの状況を把握し、聡明な頭脳でなにか考えてくださっているのです。

 

 だから……。

 マチルダ、ヨハン、ヴィルヘルム。

 

 

 きっと、大丈夫ですよ。

 

 

 そんな風に思いながら、お布団を被り直して眠りにつきました。 

ちょっと短めですが、ユレーナ視点でした。


次回はアリス視点に戻り、ヴィル兄様とお話する予定です。

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