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60 大食堂と言いがかり

「なんって卑劣なのかしら!!」

 

 ……。

 

「不正を働くなんて、貴族の風上にも置けないですわ。同じ空気を吸っているのも不快!!」

 

 …………。

 

 現在地、大食堂。

 

 現在、お昼時。

 

 …………目の前にいるのは、某ゲームのヒロイン様、ガブリエラ・ユーストス・ヴィランデル。

 ……と、その取り巻きらしき少女達だった。

 

 お勉強会を約束したローリエ様とレティシア様の3人で、お腹ペコペコな状態で大食堂に入った瞬間。

 なんだか知らないが金髪ドリル軍団に罵倒されていた。

 

「ぅぇ、ふえ、あ、アリスさまぁ……」

 

 勢いに押され、オロオロしながら涙声のレティシア様。

 

「…………っ?! ……っ」

 

 突然のことにびっくりして、感情を押し殺しながらも一瞬震えたローリエ様。

 

 私としても、扉を開けるなり飛んできた罵倒には驚いた。

 

 だが、既にこの子がこういう性格であることは判明している。所詮小学生の罵倒などにアラサー女のメンタルは小揺るぎもしない。

 

 上級生を含む大人数の前で突然不正を働いたと宣言された訳だが、後ろ暗いところの無い私は特に動揺しなかった。

 

「一体、何をおっしゃっているのか分かりません。不正とは何のことですか?」

 

 堂々とそう言うと、ガブリエラ含む5人の金髪集団は面白くなさそうな顔をした。

 そして、代表としてガブリエラが1歩前に進み出てくる。

 

「決まってますわ。あなた、先程の入学時試験で不正をしたそうね!」

 

 不正……?

 

 はてな、という顔をすると、ガブリエラは顔を真っ赤にして食ってかかってきた。

 

「惚けないでちょうだい!高学年用のテストを一人で黙々と解いていたって聞いてますのよ!!そんなの、異常ですわ!!」

「はぁ……」

 

 どうやらアウルム区クラスにはエドムンド派と通じている子がいるらしい。情報早いねと感心する一方で、その間諜の存在を惜しみなく開けっ広げにする姿勢に驚いた。

 この大食堂にいるとしたら、今頃その子真っ青なんじゃないかな?

 

「で、不正というのは?」

 

 問うと、ガブリエラは顔を真っ赤にした。

 

「なにを白々しい……!!高学年の問題を1人だけ解くだなんて不正の証拠もいいところですわ。問題用紙を事前に見ているか、カンニングしていたとしか思えないわ!!」

 

 はぁ……。これはこの子の「悪役風主人公」という特性からくる謎の正義感ゆえの発言なのだろうか?それとも別の何かか……。

 分からないが、とりあえず応える。

 

「既に習っている事を書いたのみです。何かおかしいことでも?」

「は……?!いやだから、まだ習ってないって……」

「あなたも侯爵家の令嬢ならば分かるでしょう?あのくらいは当然、自宅で予習済みですよね?」

 

 ひとまずそう言ってやると、なにやら狼狽えた風のガブリエラはよろめきつつこちらにビシッと指を突きつけた。

 

「あ、当たり前ですわ!我が高貴なるヴィランデル家では数年先の予習など当たり前!で、でもそれを無駄に見せびらかしたりはしないですわ!ふんっ、目立ちたがりで嫌なこと!」

 

そう言うと、金髪軍団を引き連れて尻尾を巻いて逃げ……いや、退出して行った。

 

 はぁ、何だったんだ……。最後は論点をすり替えたつもりだろうけど、全然出来てないぞ。

 そして目立ちたがりナンバーワンは、間違いなく君だ。

 

 そんな風に考えていると、入れ替わりのようにして入口から入ってきたユレーナ、マチルダ、ヨハンの三人が駆け寄ってきた。

 ローリエ様とレティシア様に簡単なカーテシーと礼をすると、慌てて話し出す。

 

「アリス様、先程ガブリエラ様の怒声が聞こえました!何かあったのですか?」

「通りすがった時、奴ら凄い形相をしていました。また暴力を振るわれてはおりませんか?!」

 

 安心させるようににっこり笑ってやる。

 

「よく分からない言いがかりをつけられて困ったけれど……特に問題はありませんよ」

 

そう言うと、三人ははふ、と息を吐いた。

 

「昼休憩と放課後は誰かが必ずお供すると話していたはずですよ、アリス様。教室にいらっしゃらないのでびっくりしました」

 

 心配しつつむう、という顔をしたマチルダに素直に謝る。色々あったのでそのことをすっかり忘れていた。

 

 学園の中だしそこまで密着しなくても……と思ったが、やけに側近としての意識が高い三人は譲ってくれなかったのだ。

 

 ちなみにヴィル兄様はアブデンツィアに自宅から通っており、しかもそれが毎日ではない。生活圏と生活時間帯にズレがある。

 なので側近らしい仕事は、学園から外出する時の護衛、頼み事の遂行などだ。

 

 

 ヨハンは眉間にシワを寄せて唸る。

 

「ヴィランデル……くそ、またアリス様に無礼を……!」

 

おや、と思った私はヨハンを落ち着かせるよう話す。

 

「ヨハン、私なら大丈夫ですよ。そんなことよりそんなに眉間を寄せては、せっかくの綺麗な顔にシワがついてしまいますよ?」

 

 ヨハンは非常に将来有望な顔をしているのだ。そうなっては勿体無い。

 そう思って眉間を人差し指で軽くぐりぐりしてやると、ヨハンはぽかんとした一秒後におでこにバッと両手を当て、ズザッと距離をとった。顔が真っ赤だ。

 

「もっ、ももももも、申し訳ありませんっ」

 

 あらら、びっくりさせちゃったかな。

 

 そんなヨハンにおいでおいでしつつ、周囲の反応を見てみた。

 

 木の長テーブルがいくつも置かれた大食堂にはちびっこ達が集り、わいわい食事をしている。

 殆どの子達には先程の騒ぎは聞こえていなかったようだ。

 だが、入口周辺にいた者にはバッチリ見られている。

 まぁ、今度はしっかりと言い返したし。そんなに悪評が立つことは無い……と思う。放置でいいかな。

 むしろ、反撃されて狼狽えたガブリエラの方に悪評が立ちそうだ。

 

「一先ず食事にしましょう。ヨハン、人数分の席を確保して来てくれる?」

 

 そう言ってやると、ヨハンはハッとした顔で頷きテーブルの方へ向かった。

 なんか、なんて言うんだろう……。忠犬っぽいよな、ヨハン。

 

 そうして確保してくれた席に座り、ユレーナとマチルダに食事を取りに行ってもらった。

 

 ちなみに、学園の食事は朝・夕と昼でタイプが違う。

 朝・夕は時間が決まっており、寮ごとに分かれて座る。そして大皿を皆で分け合って食べるのだが、その配膳や後片付けは学園の使用人たちがやってくれるのだ。

 しかし昼食は、用意されている時間帯は決められているものの、各自で自由である。

 バイキングのように用意された食事を選んだ後は大食堂で食べるもよし、持ち出してもよし。そのため、サンドイッチなど簡単に持ち運びして食べられるものがほとんどだ。

 

ローリエ様とレティシア様はまだ側近が決まっていないので、まとめて持ってきてもらう。

 

 それにお礼を言って食事を始めた。

 

 ちなみに一応上下関係があるので、側近とテーブルは別だ。

 本当は一緒に食べたいんだけどねー。

 



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