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55 波乱の入学時テスト その②

「ちょっと質問させて。……あなた、予習はいつから始めたの?」

 

 んん?

 

 はてな、と思いつつ正直に答える。

 

「諸事情で寝込んでいたので……きっかり一年前くらいでしょうか」

「ん゛んっ?!う、ごほん。い、1年……」

 

 どうしたレイ先生。なにやらびっくりしたのか、凄い声が出てしまってるぞ。

 

「あー……家庭教師は誰についてもらってたのかしら?」

 

 喉の調子を調えたレイ先生はゆっくりと声を出した。

 それに首を傾げながら答える。

 

「ハイメ公爵夫人です」

「ハイメ公爵夫人…………って、あの人か……!!」

 

 レイ先生は、あ~……みたいな声を出した。なんだその「あいつかー」みたいなノリ。

 

「えと……私、何かいけないことをしてしまったのでしょうか?」

 

 不安になって聞く。とりあえず、どんなことであっても師であるスーライトお姉様の顔に泥を塗ることはしたくない。

 すると、レイ先生はなんとも言えない顔をした。

 

「いけないことは何もしてないのだけど……あのね、例えばこれ。この問題、第何学年でやる問題だと思う?」

 

 そう言ってレイ先生が赤い爪で指差したのは、ついさっき解いたところだった。

 

「え……?第何学年でって、これ、一年生用のテスト……ですよね?つまり一年生の問題……ですよね??」

 

 頭上に盛大なハテナを浮かべながら答えると、レイ先生は何故か青筋を立ててツッコミモードになった。

 

「いや……いやいやいや!?『クリーバーの根とメドウスイートの葉から作られる召喚薬の属性と効果を推測しなさい』なんて、第一学年でやるわけないでしょう!あなた、まだ素材の暗記にすら悪戦苦闘するはずの年齢なのよ?!」

「えっ……も、申し訳ありません??」

 

 なにやらすごい勢いなので、なんとなく謝ってしまった。

 レイ先生は「こんなテストを続けるわけにいかないし……いやでも、解ける子がいるってことはこれが学園の新方針?むしろ私が遅れてる?ってそんな訳あるか!!……とにかく上に確認しないと」などとぶつぶつ呟いて頭を抱えている。

 

 どうしたもんかなぁとぼんやりしていると、なんの前触れもなく、教室前方のドアがバーン!!と開いた。

 

「どうじゃ、諸君!!これから学園で学ぶ事になる叡智の深さに、しっかり慄いておるか?!」

 

 なんと、ロリバ……じゃなかった、オルテンシア様が高笑いしながら入ってきた。続けて、眉間のシワを揉みながら頭の痛そうな顔をしたダヴィド校長も入室する。

 

「オルテンシア学園長、また勝手な事を……」

「なんじゃ、ダヴィド。私の学園で私が勝手をして何が悪いのじゃ。文句でもあるのかの?んん?」

「…………」

 

 あ、ダヴィド校長とレイ先生がチベットスナギツネ顔になった。ぶふっ。

 

 生徒達は何が起こっているのかと目を白黒させている。

 

 どうやらオルテンシア様が新入生をビビらせるために、こっそりテスト用紙をすり替えたらしい。

 

「ん?レイよ、その手に持っているのは解答用紙じゃな?見せてみよ」

 

 こちらまで上機嫌でてこてこと歩いてきたオルテンシア学園長は、私の解答用紙をレイ先生から受け取って目を通し始めた。

 

「ほぉ……解けておる、……こっちは惜しいな…………、おお、これも解けて……ん、んん?これも解けておるぞ?!」

 

 テスト用紙からガバッと顔を上げたオルテンシア様は叫んだ。

 

「なんと……!!今年の新入生は見込みがある、素晴らしいのじゃ!!ダヴィドよ見てみろ、ここなど第四学年の問題を解いているぞ!!」


 解答用紙をダヴィド校長に押し付けたオルテンシア様は、はっはっは!と高笑いした。

 

 え、今第四学年の問題って聞こえ……?

 

「諸君!侮ってすまなかったの!どうやら学園のカリキュラムの見直しが必要なようじゃ。今年度からは諸君らに合わせたより高度な教育を用意するゆえ、期待しておくのじゃ!」

 

 ざわ……

 

 オルテンシア様の不穏すぎる言葉に教室がざわめいた。

 

「して、この解答者は誰じゃ?」

 

 うえ?!くそ、今の流れなら聞かれないで済むかと思ってたのに……!

 

「……私、です」

 

 恐る恐る、小さく手を上げる。

 すると、オルテンシア様はキラキラした紫色の瞳をバッとこちらに向け、うむ!と頷いた。

 

「アリス・リヴェカ・オーキュラスじゃな。素晴らしい!これからも励むのじゃぞ!」

「は、はひ……」

 

 1発で名前を当てられてびっくりした。どうやら全生徒の名前を覚えているらしい。

 固まっていると、私の肩を楽しそうにばしばし叩いたオルテンシア様は颯爽と引き返し、胃のあたりを押さえているダヴィド校長に楽しそうにカリキュラムの見直しを提案しながら去っていった。

 

「あー、くそめんどくさい事になる……」

 

 レイ先生が超小声で、ドスの利いたつぶやきを漏らした。ちょっと素が出てるよ、レイ先生。

 そして、なんとなく恨めしい目で生徒一同から見られた。

 

 そ、そんな目で見なくてもいいじゃないか……。私は何も悪いことはしていない……!!

 

 ……よね?

 

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