52 寮
インパクトの強い入学式を終えた私達は、それぞれの入る寮へ向けて案内されながらぞろぞろと歩いていた。
今は大広間から出た所で、芝生が美しい中庭の見える廊下を歩いている。古い石造りがはちゃめちゃにワクワクするイイ雰囲気である。
「離宮魔術学園という特殊な名は、元々この場所にあったローヴァイン離宮が由来よ。この離宮は皇立庭園にある旧王宮遺跡と同時代の城で、今私たちが歩いている大広間の区画と、一部の寮と教室区画などがそれに当たるわ。それ以外の教室や寮、施設はここが学園になってから増設されたから、比較的新しい建物なのよ」
先頭に立って案内してくれている若い先生は、レイ先生という。
豊かな長い黒髪はつやつやと波打ち、キュッとくびれた腰と赤い唇、ネイルが艶かしい。なんていうか……お色気担当的な人物だ。
しかしまぁ、凄い美人ではあるが、とても小学生の担任とは思えない。
あ~……。来たかぁ。
と、いうのが私の正直な感想だ。
それというのも、このレイ先生。
私の予想が正しければ、女性ではなく男性なのである。
もちろんアレだ。金薔薇の攻略対象。……後輩の声の記憶を手繰り寄せる。
『先輩先輩、オネエキャラとか、女装を解いたらイケメンとかは……え、別に? んもう、何なら好きなんですか先輩ー?!……ちぇっ、レイは私のイチオシなのにぃ……』
うん。思い返してみると、某有名カードゲームの例の次回予告ばりに、ごりごりなネタバレをかまされていた。
しかしレイ先生は、どっからどうみても女性だ。変装スキルがカンストしているとしか思えない。
パッケージ裏でも、なんで1人だけ妖艶な女性がいるんだ?ってちらっと思った記憶があるし。
……なんで女装するようになったんだろうな?
でもま、今はそれより断然学園が気になる。雰囲気満点の古城って時点で内心はテンション爆上がりなのだ!
レイ先生の学校案内を熱心に聞いているうちに、新入生一行は寮区画に到着した。
「では、入寮よ。この広間から、その階段を上がった先に続いているのが宵闇寮。そこの廊下を渡って別の塔にあるのが月光寮と金星寮よ。全員、自分の寮は分かるかしら?」
その問いかけに頷く新入生逹。
この学園では、身分と性別で寮と使える部屋の大きさが変わる。
まず、宵闇寮。
これは長男長女、身分によっては次男か次女までが入ることを許される寮だ。
小さいながらも一人一部屋割り当てられており、そこには更に、使用人や側近が寝泊まりしたり作業するための小さな部屋まで備わっている。
ちなみに元々城だった名残で、この宵闇寮は部屋ごとに大きさや形が少しずつ異なっているらしい。
建前としては、派閥ごとに分かれている訳では無い。
だが宛てがわれる部屋のエリアでグループを小分けされるために、自然と派閥ごとになっている。
私が入るのはアウルム区。ここには主に古貴族が振り分けられる。
反対に、新貴族はディアマンテ区だ。
力の弱い貴族や中立派、裕福で魔力のある豪族、留学生などはプラティナ区らしい。
次に、月光寮。
これは通称騎士寮というそうだ。いわゆる男子寮で、2人か3人の相部屋。ヨハンはここだ。
最後の金星寮。
これは言うまでもなく女子寮。私の側近の中ではユレーナとマチルダがここに入る。
とは言え、2人は普段は私の側近部屋に寝泊まりすることになる。
側近になることが決まっている者にとっては、ここはほとんど私物置き場で、休日や体調不良時の拠り所程度になるらしい。それは男主人を持った月光寮の男子もそうなるそうだ。
各寮の名前の由来は、宵闇を始まりの神に例え、月光と金星はそれを照らし助けるものとしてつけた名前だ。
ちなみに宵闇寮も男女はしっかり区分けされている。しかも高貴なものの部屋にはそれぞれの側近が宿直する上、廊下には警備が巡回するそうだ。
…………はぁぁ、このごてごての設定感。すごく、すごく魔法使いの世界。魔法使いの寮って感じするぅぅ…………。
思わず身悶えハァハァしてしまいそうになったが、ぐっと耐えて表情を引き締めたのだった。
……多分、引き締められてたと思う。うん。
思わず荒ぶりそうになった主人公でした。
そして、先生登場です。
 




