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41 決闘終了


 突如出現したオルリス兄様は、よく目を凝らさないと分からないくらい半透明で、幽霊のようだった。

 霧に映し出された映像のように、ゆらゆらとしている。

 

 無表情のソレが両手を前にかざす。すると地面から鋭い風が吹き上がり壁となった。

 勢いよくその壁に激突した氷の狼は砕け散り、空中で霧散する。

 

 狼の消滅と同時に、オルリス兄様の姿もふわりと消えた。

 

 「なっ……?!」

 

 驚いた声を上げるヴィル兄様。

 私もギャラリーに混じって驚きの声をあげた。

 

「なにごと?!って…………あれは……アレか!」

 

 オルリス兄様が半透明な姿だったことで、アレの存在を思い出す。

 

 アレとは、そう。

 

 例の緑リボンのポプリである。

 

 何を隠そう、あのポプリに秘められた魔術の名前は「幻影守護」だ。

 名前の通り「術者の姿を借りた精霊が使用者を守る術」であると本には書かれていた。

 

ギャラリーの、特に女性からはめちゃくちゃ黄色い声が飛び交う。

 

「なんですの、今の殿方の姿は?!」

「精霊の姿なのかしら……?!なんて麗しい……!その上、氷の狼をものともせず……!」

 

 逆に男性からは、バリアのような魔術の腕前に感心するような声が飛んだ。

 引きこもっているためか、今のがオルリス兄様だと分かる人はほとんどいないようだ。

 

 しかし試合はまだ終わっていない。

 動揺したヴィル兄様だったがすかさず立ち直り、地面を蹴ってお父様へ向かっていく。

 

「はぁっ!!」

「はっはっは。守られているようじゃ、娘の護衛は任せられないぞ!!」


 動揺しつつも真剣に剣を繰り出すヴィル兄様。それに対してお父様は余裕だ。

 ヴィル兄様の繰り出す短剣の技は、素人目ではかなり素早く多彩なように見える。

 しかしその上を行くお父様は、それをひらりひらりとかわした。

 

「ま、これは勝てなくて当然の恒例行事だからな。悪く思わないでくれ、ヴィル君!」

 

 そう言ったお父様は一気に加速して回り込むと、ヴィル兄様の腕を取り、短剣を首に当てた。

 

「そこまで!」

 

 アルフォンスさんの声が飛ぶ。

 するとお父様とヴィル兄様は離れ、お互いに一礼した。

 ギャラリーにも礼をすると、こちらに歩いてくる。

 

 ヴィル兄様はなにやら複雑そうな顔をしていた。

 

「お疲れ様でした、お父様、兄様!」

「おふたりとも、お見事でした!」

「ヴィル、頑張ったわね!」

 

 観戦中に合流したお母様とフレシアおば様と一緒に、ぱちぱちと拍手して迎える。

 お父様はキラキラした顔で「どうだった?お父様かっこよかっただろう?!」 と話しかけてきた。

 

「確かにかっこよかったですけれど、なんですかあの大技は!ヴィル兄様との年齢差を考えてくださいませ!」

 

 私がぷりぷりそう返すと、お父様も兄様もウッと言ってどんよりしてしまった。

 

「アリスに怒られた……」

「主にフォローされる護衛……」

 

 あ。しまった。

 

 しかしいち早く復活したヴィル兄様は、困惑した顔を私に向けた。


「アリス、あのお守りって言ってたポプリ、兄上からだったんだろう」

「……はい。嘘ついてごめんなさい、兄様。……その、でも、オルリス兄様のものだと言うと受け取ってくださらないと思って……」

「はぁ……まぁね。でも、どうして……」

 

 それについては、オルリス兄様から直接聞いた方が良いだろう。

 そう思ったので、返事に困りつつ曖昧に微笑んでいると、次の決闘が始まった。

 

 次はハイメ派の高位貴族同士で手合わせしている。

 

 もの言いたげな視線になんと返そうか悩みつつそれを見ていると、屋敷の庭に馬の嘶きと蹄の音が響いた。

 

 何事かと見やると、庭に走り込んでくる影。

 

「あっ…………、兄上?!」


 素っ頓狂な声を上げるヴィル兄様。

 

 

 そう。

 

 

 まさかの、本物のオルリス兄様の姿がそこにあった。

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