32 バージル家の教育
緑リボンのポプリの正体が判明した翌日。
「よーし、じゃあ第1回お勉強会、始めようか」
「はい!よろしくお願い致します!」
私とヴィル兄様はバージル家の書庫で机を挟み、向かい合っていた。
ちなみに、ポプリはひとまず「私からです。お守りになるので、肌身離さず持ってくださいませ!」と言って既に渡してある。一瞬不思議そうな顔をしたものの、ヴィル兄様は喜んでそれを受け取ってくれた。
「基本的な家庭教師はハイメ夫人に頼んだんだって?」
「はい、そうなんです。なので、魔術としての霊草術の基礎については、スーライトお姉様から教わることになりそうです」
「なら僕からは、素材そのものの知識や扱い方、あとは学園の先輩としてのアドバイスとか……少し踏み入ったワンポイントみたいなことを教えていこうかな。幸い資料なら沢山あるしね」
「はい!……あぁ、楽しみです」
頬に手を当ててうっとりすると、ヴィル兄様は苦笑した。
「珍しいよね、予習が好きなんて。僕がアリスくらいの頃なんかは、どちらかというと体動かす方が好きだったけどなぁ」
そう言いつつ、立ち上がって一冊の本を棚から取り出してきた。
椅子に座りなおし、私の前に置いてくれる。
「それがウチで一番見やすい図鑑だよ。まずは一緒にこれを見てみようか」
そう言って兄様が開いたのは「基本の薬草・霊草彩色図鑑」だ。
「わぁ……!」
私は開かれた本に感嘆の声をあげる。
中には様々な草花が美しいカラーイラスト調に描かれ、その横に4行ほどの簡単な説明が書かれたものだった。1ページにつき二種類ずつ解説されている。
「ふふ。これ、絵が綺麗で見てて楽しいよね。まずはこれで全部覚えようか」
「はい!ぜん…………ん?」
んん?とヴィル兄様を見る。
「ん?」
にこっと笑ってこちらを見返すヴィル兄様。
「ぜんぶ…………ですか?」
「うん」
え?!
「あの、ちなみに兄様……この図鑑は、何ページあるのでしょうか?」
「うーん、200ページはあるかな?」
「にひゃ……」
つまり、200ページ×2種類。
「よんひゃく……400種類、特徴を含めて暗記する、ということですか……?」
「うん。まずはそれが出来ないと先に進めないだろう?」
「へぁ」
気の抜けた声が出てしまう。
スーライトお姉様の時にも思ったんだけど、この世界の教育水準って、もしかしてめちゃくちゃ高いの……?
貴族の子供って、みんなこうなの……?
もしかして私、チートどころか相当出遅れてる……?!
「大丈夫だよアリス、バージル家ではこれは普通だから!僕でもできたのだから、賢いアリスなら1年以内に詳しく暗記できるよ!」
にっこり笑ってそう言われてしまえば、できませんとは言えない。
それに、これができねば霊草術や魔法薬作りの道は開けないと言われたら、やってやろうという気にもなる。
魔法使いに、俺はなる!!という勢いで「わかりました!」と敬礼すれば、ヴィル兄様はより一層キラキラした笑顔で頷いた。
これが標準なのかは……お察しです。




