303 病める星の子
真ん中の道をしばらく歩いていくと、光が折り返すように元来た道を指し示した。
どういう事かと見遣れば、壁にでっぱりがある。
恐る恐るそれを押すと、少し離れた場所から「ガコン」という仕掛けの音がした。
戦々恐々としつつ元の場所に戻ると、今度は別の道を光が指し示す。
そんなふうに何度か仕掛けを作動させ、最後に再び真ん中の道を進むと、狭い小部屋に出た。
「ここは……?」
「待て、何かある」
手で制されて立ち止まる。
アベルさんが奥の壁際を照らすと、そこには小さな子供の像が並んでいた。
「子供の像……でも、天使ではないんですね」
「ああ。翼がないな」
子供の像は三つだ。左から石造り、土を固めたようなもの、そして風化した銅で出来ていた。
愛らしい子供の像は器を捧げ持つようにしている。
そして真ん中に、お約束の石板があった。
「“病める星の子に硫黄を与えよ”、って書いてあります。……い、硫黄?」
「なにかの暗喩だと思った方が良さそうだな。しかし、硫黄か」
二人でふむと頭を悩ませる。
病める星の子と硫黄、ふたつの言葉は額面通りではない……。
思い当たる事がないかと考えていると、アベルさんがぽつりと呟いた。
「仮に、ここが皇族が有事に利用する脱出・侵入通路だとすると、着の身着のままでここを通る可能性が高い。つまり、入手しにくいものでは無いはずだ」
「となると、魔術で作れるものでしょうか」
流石に硫黄を作り出すことは出来ないが、土や水なら可能だ。火や風、種があれば草花も育てることが出来る。
と、そう思ったところで私は閃いた。
「これってもしかして、錬金術の硫黄のことじゃないでしょうか!?」
「錬金術……ということは三原質か!」
この世界にも錬金術は存在する。前世の錬金術と違う部分はあるようだが、それでも「三原質」は同じ。
すなわち「塩」「硫黄」「水銀」。
この三つは名前そのままの物質ではなく性質のことだ。
ということは、「病める子」も自ずと分かってくる。
錬金術において、金以外の金属は「病気の状態」と呼ばれている。
更に、金属は大地がその中に内包する地球の子どもであるという考え方をされていた。右の像は銅製だから、それに硫黄を与えろと言っているのだ。
「硫黄は確か、火と土を象徴しているはずです」
「……本当に君の魔術関連の知識は底なしだな……」
呆れたように言われてテヘペロする。錬金術は厳密には魔術とは違うが、オカルト業界では重要視されていたのでそれなりに齧っていたのだ。
「激論!!オカルト」を読み込んでいて本当によかった。
気を取り直し、像が捧げ持つ器に二人でアサメイを向ける。
簡単な呪文を唱えて土と火を出現させると、薄緑をしていた像が淡く金色に光った。
するとズンと重い音がして、目の前の壁が下がっていく。奥には階段があった。
「やりました……! さ、行きましょう!」
「ああ」
アベルさんの手を引いて階段を上がっていく。
知識があれば危険はないという事を肌で感じて、正直なところ、私は少しばかり楽しくなってきていた。
その気持ちは階段を上がったところで雲散霧消するのだが、まだそれは知らないことである。




