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29 初めての研究


 ベッドに倒れ込む私。周囲には辞典や薬草学の本の山。

 

「ふふ……ふふふ、特定した、ついに材料を特定したぞー!!」

 

 倒れ込みつつ、思わず素でガッツポーズをキメてしまう。近くで本の整理をしているコニーは私のキャラぶれには慣れているので、にこにこしながらお仕事をしていた。

 

「良かったですねお嬢様!明日のお勉強会に間に合いそうですね!」

「ええ、多分……!ほんと、どうなるかと思ったわ……」

 

 ◇

 

 スーライトお姉様から宿題を出されてからのこの数日、私はお屋敷に篭ったりお父様の書庫に篭ったりして、調べまくった。

 

 ちなみにスーライトお姉様のお勉強会は「アリスちゃんに相応しい教材を領地から取ってくるわ!」と意気込んで旅立ってしまったお姉様が不在のため、自主トレのみである。

 

 緑リボンのポプリの中身特定には、少々手こずった。

 

 なにしろハーブの集合体みたいなものを匂いだけでまず分析するのだ。人によって感じ方もズレてくるので、家族や使用人全員に嗅いでもらい、それぞれが感じる特徴をメモしてから該当するものを書籍で探した。

 両親は探知の魔術を使えば1発で中身がわかるらしいのだが、私のお勉強のために正解はお口チャックしてもらっている。

 

 ちなみに、両親はオルリス兄様が引きこもっていることは知っているが、事件の詳細は知らない。なのでポプリの話の時は不思議そうな顔をしていた。

 だが、貴族の家の問題というのは基本的に秘すべきものだ。当然私もその時一緒にいたコニーも、他言無用をお願いされている。

 

 フレシアおば様とヴィル兄様は、私という幼女相手だから気が緩んで喋っちゃったんだろうが……貴族的な意味でちょっと心配になる二人である。

 

 さて、そうして特定したこのポプリに使用されている薬草・霊草は以下の通り。

 

 ・カレンデュラ

 ・セージ

 ・コルツフット

 

 そして、この中でメインで使われているのはコルツフットだ。

 

 コルツフットというのは、前世で言うところのフキタンポポである。お姉様が言っていたのはこれだった。

 

 まさかであるが、この世界ではタンポポの一種が僻地に咲く貴重な霊草として扱われていたのだ。最初は何の間違いかと思って随分調べ直したものだ。

 あるひとつのものが、前世と完全一致することもあれば、全く違うものになっていることもあるのが転生世界のミステリーである。

 

 ともかくこうして特定できたので、次はどのような魔術的な意味があるのかを書き出していく。

 

「コルツフットの学術名の一部のlogoは、古代ロイン語で、私が運び去る、を意味する……支配星は金星、象徴は水、と」

 

 古代ロイン語というのは、お父様曰くこの世界にかつて存在した巨大な帝国の言葉だという。

 現在の言葉の基盤になっている感じからして、前世で言うところの古代ローマに似た存在だったのではないかと私は推測している。

 

「セージは木星、風、救う、死への抵抗を意味する……ふんふん」

 

 セージは前世でも、ラテン語で死の力に対抗する的なことわざがあったはずだ。

 私の愛読書だった「激論!!オカルト~魔術とハーブの素敵な関係~」 ……略して激オカにそう書いてあった。

 

 この激オカ……、社畜時代に魔法使い気分に浸りたくて通勤時に熱心に読んでいたのだが、電車で隣に座っている人にそっと席を一つ横にずらされた思い出がある。

 うん。目の下にクマを作ったボロボロの社畜がそんなの熱心に読んでたら怖いよね。怪しい趣味だったのはわかってる。誰を呪い殺そうとしてるんだってなるよね。

 まぁいいんだ、今、良い方向に活かされようとしているし!!

 

「カレンデュラはそのままロイン語の名前である。夏の日が始まる最初の日を意味する……、西の大国の魔術師がお守りとして持ち歩き、月桂樹に包んだ狼の歯を持って花を摘むことで効果を発揮する。ふんふん。支配星は太陽、象徴は火、と」

 

 いくつかの文献から同じ考察を拾い上げ、ひとつの羊皮紙にまとめていく。

 あとはこれを元に、どんな魔術がかけられているのかを調べればいい。

そこは流石にお父様に魔術書をピックアップしてもらおう。

 

 ちなみに難しい単語や言い回しは、その都度お母様やアルフォンスさんに聞きに行って勉強したので、語学力も上がった気がするぞ。

 

 てか、読めない言葉があると思い出すんだが……本来私は5歳なんだよな。もうすぐ6歳とは言え、前世ならまだひらがなとか練習してるところだぞ。

 こんなことを入学前にやらされるって、貴族って大変なんだなぁ。よその子達はこんなのを普通にやってるのか。

 

 ――――まぁ当然普通ではないのだが、そんなことを知るよしもない私はどんどん資料をまとめていく。

 

「こうして調べてみると、見事にお守りとしての効果しかないね。超過保護、オルリス兄様」

 

 思わず呟くと、コニーもうんうんと頷いた。

 

「私だったら、家族にそんなお守りを貰ったら嬉しくって泣いちゃいますよう!絶対、ヴィルヘルム様も分かってくださいます!」

「うんうん、そうだよね!」

 

 コニーの太鼓判で私も前向きな気持ちになってくる。

 

「ちなみにコニー、好きな色ってある?」

「へっ?!ええと、黄色……でしょうか。どうしてですか?」

 

 きょとんとしたコニーに、私はにっこり笑って告げた。

 

 

「いつかコニーにも、黄色いリボンを結んだこういうお守りを作ってあげる」


「……!!」

 

 

 ふわああっ!と花が咲くように笑ったコニーが、涙目になりながらたまらずと言った風にむぎゅうと抱きついてきた。可愛いーなぁ。

 

 それを受け止めつつ、いっぱいお勉強してうんと良いのを作ってあげよう、と思うのだった。  

 

 

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