28 緑リボンのポプリ
さてさて。スーライトお姉様の弟子になることが決定して大変ハッピーな訳だが、オルリス兄様の事も忘れてはいけない。
私は、結局どんな効果があるのか聞けずに終わったあの緑リボンのポプリについて、お姉様に聞いてみることにした。
「あの、お姉様。魔術にお詳しいのでしたら、お聞きしたいことがあるのですけれど……」
「うん?なにかしら」
私がおずおずと切り出すと、お姉様は上機嫌に請け負ってくれた。
ポケットから緑リボンのポプリを取り出し、お姉様に渡す。
「これは訳あって、ある人から私を経由して友人へプレゼントする品なのです。タイミングが合わなくてどんな効果が付与されているのか聞けなかったのですが…… お姉様ならわかりますか?」
私がそう言うと、ふむ、と呟いたお姉様はポプリの香りを確認する。
そうして数秒目を閉じていたのだが、突然カッと目を見開いたかと思うと、妖艶な唇をニヤリと歪ませた。
「これ、バージルのお坊ちゃんからでしょう」
「うぁぇ、あの、いやあのそのっ」
秒で正解を出されてなんとなくうろたえた声を出してしまった。
お姉様はそれにくすくす笑いながら続ける。
「この香り……。こんな貴重な霊草をメインに惜しげも無く使った上で、他人経由でプレゼントなんてことを考えそうなオーキュラスの関係者なんて、私の知る限りであの子しかいないわ。……ふふふ、それに、この守護の魔術……。引きこもってどうなったかと思ったけれど、むしろ磨きがかかっているわね」
なにやら嬉しそうにポプリを見つめている。
「スーライトお姉様とオルリス兄様は、面識があるのですか?」
思わずそう言うと、お姉様は当然よ!と興奮し出した。
「あんな才能の塊、放っておけるわけがないわ!おまけに幅広く薬草、霊草の仕入れまでできる立場だもの。数多くの研究所から声がかかっていたはずよ」
「そ、そうだったのですね……」
実は、オルリス兄様の金薔薇での設定である「クールで排他的な学者」にはずっと違和感を覚えていたのだ。
クールとか排他的とかは置いておいても、とにかく社会復帰はしていたのだ。あんな状態から、どうやって引きこもりを脱したのかと。
答えはつまり、「周囲が引きずり出すほどの才能を持っていたから」だ。恐らく長男ということもあるが、それらに抗えず、しかし素面では無理で設定のキャラ付けになってしまったのだろう。
「あの……それで、これにはどんな効果があるのですか?」
おずおずと聞くと、スーライトお姉様はニッコリと笑った。
「そうねぇ……。これがなんなのかも調べられないのなら、私の本当の弟子には今後なれない、とだけ答えておこうかしら?」
「ふぇっ?!」
超いい笑顔でさっくりと返された。
待って、私まだ6歳前の幼女なんだけど??
「ふふ。貴女のおうちには、沢山の書物があるはずよね。その中には霊草・薬草の辞典もあるんじゃないかしら?」
「は、はひ……」
辞典で特徴をしらみ潰しに探せと言うことか……。はい。
「2つだけヒントをあげるとしたら、そうね……まず一つめは、このポプリを開いてはダメよ。魔術が解けてしまう可能性があるわ。二つめは、香り。恐らく内容物は三種類あるから、心を研ぎ澄ませて感じるのよ。きちんと調べればきっと正解にたどり着けるわ」
「うう……わかりました。やってみます!」
ひとまず納得して大きく頷く。
お姉様がこう言うのだ。おそらく、今の私にも出来ないことではないのだろう。
そんな会話をして、本日のお勉強会は終了となった。
魔術も究極コースになったので、さっそく宿題ができました。




