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26 スーライト


【とあるエピソードが原因で悪役令嬢になってしまったヒロイン。

王子や教師、騎士にスパイに魔術師など多彩な攻略キャラクター達とのラブ・ストーリーが盛り沢山です。

魔術学園をメイン舞台に繰り広げられる恋愛やファンタジーをご堪能ください】

 

 そんなパッケージの説明書きが脳裏を過ぎる。

 

 ……なぜ今更こんなことを思い浮かべているかというと、地獄のブートキャンプ真っ最中だからである。

 

 今の私は、オーキュラス邸の広ーいお庭の、決められたコースを5周しているところだ。

 それが終わったら腹筋3セット、スクワット3セット、その他筋力トレーニングが大量に待ち受けている。

 

 いやいや、普通じゃん?と思うなかれ。

 ほんのちょっと前まで寝込んでいた身だ。

 今やもりもりご飯を食べて1日動けるようにはなったものの、筋力なんて皆無。

 あえて体に負荷をかけるのなんて今生に生まれて初めてである。

 

「はぁ、ひぃ、はぁ」

 

 情けない声を上げつつ姿勢を崩さないよう注意してゆっくり走る。

 

「ふぅ、ふぅ、ふふふ、ふふふふふ。全てはファンタジーのため、魔法使いになるため……ふふ、ふひひ」

 

 金薔薇のパッケージにあった魅惑の言葉「ファンタジー」「魔術学園」が実在する世界に来たことに思いを馳せ、現実逃避でもしていないと、やってられーん!!なのである。

 

 いや、ある意味では望んだとおりの状況なのだか……。

 

「脇を締めなさい!!フォームが崩れているわよ!!」

 

 怪しい笑いを漏らしながらひいこら走っている私に発破をかけているのは、スーライトお姉様だ。

 

 スーライトお姉様は、お母様のお兄様の妻、つまり伯母にあたる人だ。

 ダークピンクの瞳に艶やかな黒のロングボブヘアを揺らした、銀縁メガネの女性だ。

 実年齢は30代なのだが、一見しただけでは20代半ばという年齢不詳の美女である。……おばさんと呼ぶのはご法度らしいので、お姉様と呼んでいる。

 

 この国の女性の典型である結ったロングヘア&ドレスではなく、切った髪に茶色の乗馬用パンツ、ベスト、ブラウスという男っぽい服装なのだが、それが見事にきまっていた。

 

「歩幅!」

「はいい!」


ぴしっと乗馬用のムチがベランダに叩きつけられる音にビビり、しゃきっとフォームを直す。

 

 なぜこんなことをしているのかと言うと、話は一週間前に遡るのだった……。

 

 

 ◇

 

 

「アリス、ハイメのお姉様からお返事が来たよ。会ってみて大丈夫そうなら受けてくれるそうだ!」

「お姉様にお任せすれば間違いないわ!よかったですね、アリス!」

 

 伝神霊を飛ばして数時間後、ハイメのお姉様という人からそんな返事を受けた両親は小躍りして喜んだ。

 

 

「会ってみて大丈夫、とは……?」

  

 

 謎の条件に首をかしげつつ、約束を取り付けた2日後。

 私はその意味をよくよく思い知ることになった。

 

 

「ふうん。アリスちゃん、随分と変わったのねぇ……」

 

 

 ハイメの上屋敷にて、男っぽい服装にもかかわらずどこか妖艶な女性・スーライトお姉様と対面した私は戦慄していた。

 

 

 た、……タカ○ヅカだ……!!!!

 

 

 スーライトお姉様を見た最初の感想がそれである。

 

 男装ではないが、行動的なパンツスタイル。

 しかし、長いまつげや赤く美しい唇から感じられる、匂い立つような色気。

 スタイルも抜群で、銀縁メガネから垣間見えるタレ目が何とも悩ましい。

 

 そんなタカラ○カ・スターの登場に、私は営業用の笑顔も忘れてぽかんとしてしまった。

 

 ちなみにお母様の兄・オイディプスおじ様は、スーライトお姉様の横で額に手を当て、なんとなく疲れた顔をしている。

 ……なんで疲れた顔してるのかな?と思っていると、スーライトお姉様が話しかけてきた。

 

 

「私のこと覚えているかしら?アリスちゃん」

「あ……えっと……。寝込んでいた時のことは記憶が曖昧なところがあって。申しわけございません」

「そう。まぁ、お見舞いは幼い頃に1度しか行けなかったからね。仕方ないわ」

 

 オイディプスおじ様は主に城に勤めているので、皇都にいれば比較的会える。しかしその分、妻のスーライトお姉様は自主的に領地を飛び回っていることが多いそうだ。

 そのため、あったことがあるのは1歳の時と、朦朧としている3歳頃にお見舞いに来てくれた時のみ。

 アリスとしては対面した記憶が無いのだった。

 

 私は念の為、挨拶し直すことにした。

 

「改めて……アリス・リヴェカ・オーキュラスです。これから仲良くしてくださいませ、お姉様」

 

 にこっと笑ってそう言うと、スーライトお姉様もにこっと笑って返してくれた。

 

「礼儀正しい良い子ね。ぜひ仲良くしましょう。……鍛えがいがありそうだわ。良い付き合いになりそう。ふふふ」

 

 ……なにやら不穏な言葉が小声で付け足されたが、とりあえずお眼鏡にかなったようだ。

 

「スーラ……程々にするんだぞ?アリスはつい最近まで寝込んでいたし、元々花のようにか弱く繊細なんだからな!」

 

 なんとなく頭の痛そうな顔をしつつ、オイディプスおじ様が私を優しく抱き上げた。私に対する形容詞はちょっと突っ込みたいが、とりあえずお口チャックしておく。

 

「アリス、スーラにいじめられたらすぐに私に言え。飛んで行って止めるからな」

「え?ええと……」

「あら、人聞きの悪い。あなた、私が女の子をいじめたことがあったかしら?」

 

 何故か複雑そうな顔をするオイディプスおじ様。前科……あるの?

 

「お前はいじめはしないが、鍛えすぎて別人にしたり、付いてこれなかった者の精神を容易く折るだろう。しかも、アリスを気に入ったようだし……本当に程々にするんだぞ」

「ええ、勿論よ。丁寧に扱うから安心して下さいな、あなた」


 精神を、折る……??

 鍛えすぎて別人……???

 

 不穏すぎるワードが飛び交っている。

 しかし、思わず心細くなり振り向いて見た我が両親は、ほのぼのと頬を染めてこちらを見ていたのだった。

 

 

 

魔術師への第一歩は、まさかの基礎トレから始まりました。

入学前にどこまでやれるでしょうか。

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