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237 自問自答

「すまなかった、って」


 今までの侮辱か、決闘か、獣人への態度か。もしかして全部?

 だとしたら私よりも皆に直接謝って和解してほしい所だが……と思いつつ、私は屋根の上にごろりと寝っころがった。


「ああいう姿を見ちゃうとなぁ……」


 正直なところ、酷い事を言ってしまえば、アギレスタ皇子に関わるのはリスクが高すぎる。

 しかも今までは敵意を向けられていたから、あえてこちらからは一切コンタクトを取らずにきたのだ。


 ――私は、決して博愛主義者ではない。


 むしろやりたいことを制限されると途端に不機嫌になるような人種で、人によって関わり方を変えるようなタイプだ。

 皇子に関わることで負う何かが自分の枷になるのではと恐れているから、今までは積極的に関わろうと思えなかった。


 私は、損得を前提として関わってくる人の気配や、自分の損になる関係に異様に敏感だ。

 イレ皇子を避けるのは貴族として得策ではないと分かっていても、秘密を暴かれたら自由を失いそうだから避けてしまう。

 獣人を重用しているのだって、純朴で素直な彼らばかりを可愛がる、臆病で傲慢な人間の証なのかもしれない。


 前世で散々、上司や同僚、周囲に利用されて死んだ経験が私をそうしたのか。それとも元々そういう打算的な気質だったのかはもう……わからないけどね。

 でも多分、元々だろう。


 ともかく、面倒事の気配を少しでも感じると一歩引いて対応してしまう。例え打算以上に好意を示してくれても、その奥にリスクを感じ取れば本能的に心の距離を置く。

 シン様やアーサー様、マリア様達には正直そうだ。彼らは問題を抱えているから、それを前提として私の傍にいる。そして、彼らを受け入れた私にはそれに関わる義務がある。

 そのくせ、その問題たちが私を縛るのではないかと恐れている。だから完全には心を開けない。


 皇子に感じるうっすらとした忌避感も同じ理由だろう。彼の事情に関わることで自由がなくなったり、それに掛かりきりになったりすることを恐れているのだ。だから自分から会いに行かない。


 自分が損をする可能性を常に意識しているなんて、どれだけ臆病なのか。自分に嫌気がさす。


 皇子と決闘した時は「自分は人を救済できるのにしない嫌な奴だ」と自己評価していたけど、実際はそれより、もっと性質が悪い。

 私は、「誰かを救済するより自分の願いと安全を優先したいと感じる人間」なのだ。


 アギレスタ皇子に関わると、こういう自問自答がいつも襲い掛かってくる。

 皇子を憐れんで手を出すことはガブリエラにちょっかいをかけることと同義で、そうなればどんな攻撃をしてくるかわからない。おまけに、皇子は思った以上に闇要素の濃いこの「金薔薇」ベースの世界のメインヒーローだ。

 オルリス兄様というメインではない攻略対象ですら、「兄弟に対する殺害未遂」という重い事故が背景にあった。

 皇子ともなれば、どんな過去や事情を抱えているかわからない。 

 人格者でもなく、策士でもなく、ろくな転生知識もない私がこれ以上抱えるには、あまりにも重荷……。そもそも改善なんかしてあげられないかもしれない。


 うかつに手出しすれば、今、手の中にある関係や居場所や自由もきっと零してしまう事だろう。


 瞬きの間に落ちていく星々を見詰めながらそんなことを考えて、しかし、辿り着いた自分の結論に溜息を吐いた。


 私は博愛主義者ではない。

 私は、この上なく偽善者だ。だから土壇場になれば困っている人を見捨てられない。

 もし皇子が明確に私に助けを求めてきたとして、皇子を好きだからじゃなくて、皇子を……手の届くところにいる普通の子供を見捨てる自分が認められないという、自分のために私は動くだろう。


 なら今、私がすべきことは……いつも通り生きることだ。

 ただしより力を蓄えて、より人脈や機動力を確保して、情報を収集して、対応したい何かが起こった時対応できるようにして……もう少しだけ彼らにも関わっていく方向で。


「でも結局力を入れるのはチート開発という自分のやりたい事なんだから、なんにも現状変らないっていうね。……もういい、アベルさんとこ行こう」


 堂々巡りの思考にいい加減嫌気がさしてきたので、一旦考えるのを止め、モフモフしに行こうと立ち上がった。


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