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234 天窓

「アリス様ぁー! なんで逃げるんですか!?」

「そうですよ! 一緒にやりましょうよぉ!」


 こ、この声はイヴァン様とフレッジ様!

 しまった。この二人も「三人で天体観測しよう(意味深)」と言い出す感じか?

 事前にやんわり断っておいたが、どうやら理由を説明しなかったので納得していないようだ。

 トフェルで階層をショートカットしてきたのでまだ周囲に生徒はいないのだが、恐らく二人は音と匂いを辿って走ってきたのだろう。


 なんか怖いし、とにかく逃げなければ……と思ったところで、風を切る音と共にガシッと両側から手首を掴まれた。


「捕まえたぁ♡」

「ひぇ」


 語尾にハートマークがついてる可愛いしゃべり方なのに、なんでゾッとするの……?

 そう突っ込みたくなるが、これアレだ、肉食動物に狙われた草食動物の気持ちでは。


「逃げちゃ駄目ですよ、アリス様。追いかけたくなるじゃないですか」


 うっとりと笑いながら、すり、と猫の様に近寄ってきたイヴァン様に続き、フレッジ様もいつになく楽しそうに言った。


「そうですよ。僕たち、夜の方が調子が良いんです……だから逃げるのは諦めましょう?」


 うわぁ、やっぱり獣人って夜に本調子になるのか。オモシロイナ~。

 そんな風に思わず現実逃避しかけたところで。


 今度はなんと、レティシア様の声がした。


「いました! オルガ、カリナ! やっちゃってくださぁい!」

「はーい!」

「あいあいさー!」


 レティシア様が号令を出すと、廊下の闇に乗じた黒猫女子二人がしなやかな動きで疾走し、転がる様に目の前へ飛び出した。

 二人に飛びつかれて、イヴァン様が悲鳴を上げてごろごろと転がって遠ざかっていく。


 それを呆然と見送ったところで、今度はローリエ様の冷静な声がした。


「ユディト、ルシア」

「参ります!」


 きりっとした号令にユニゾンで答えたユディトちゃんとルシアちゃんは、瞬きした次の瞬間には金色の毛並みを靡かせて跳躍していた。

 二人の金狼女子にあっという間に組み付かれたフレッジ様が、成す術もなくドサッと倒れる。

 しばらく抵抗してがうがうと吠えるが、多勢に無勢であっという間に沈黙した。


「あー、間に合ってよかったです……」


 そう言いながら、胃の痛そうな顔をしたイヴァン様の側近ユージン君と、フレッジ様側近のヴォルヤ君が姿を現した。


「皆さん。……これ、一体?」


 全体的にスピード展開すぎて戸惑っていると、ローリエ様が説明してくれた。


「アリス様が、なにかお考えがあって一人で行動すると言っているのに……あの二人が暴走しだしたので、後を追って鎮圧しに来たのです」


 ち、鎮圧。暴動か何かか?


 しかし確かに、先ほどまで妙に楽しそうだったダブルリーダーは「ちーん……」と言う感じで静かになっている。目がぐるぐるだ。


「さ、お行きくださいませアリス様」


 達成感溢れる笑顔の桃紫コンビに送り出され、ひとまず私はお礼を言って歩き出した。


 ◇


「とは言っても、どこに行こう」


 いよいよ困ってしまった。このまま本館の屋上に行ってもそのうち人がいっぱい来るしな。

 前日までペア問題とゲームイベント問題でぐだぐだ悩んでいたせいで、正直、当日の動きは殆どノープランだった。

 しかし、少し悩んだ末に私は閃いた。


 この学園は本館と別館に分かれている。

 大部分の教室や特別教室がある別館棟は、真ん中をくり抜いたような四角い形になっていて、その北西の角にある本館に繋がっている。それらの真ん中に中庭があり、逆に四角形の外側に寮や温室、校庭、資材塔や廃塔、裏庭と森がある形だ。

 別館は大体三階建てなので、抜きんでて一番背の高い本館(ここ)から下を見るとその屋根が見える。


「屋上やバルコニーには皆行くだろうけど、三角屋根によじ上ってくるお転婆な子は流石にいないよね?」


 むふふ。これだ。

 窓から身を乗り出して見ると、闇の中にぼんやりと長い屋根が見える。何か所か張り出した天窓があるようなので、帰りはそこから室内へ入ればいいだろう。


 下降ならそれほど負担もないだろうしということで、再びトフェルを呼ぶ。

 またかいなという顔をされている気がするが、こんなに鳥遣いが荒いのは今夜だけだ。すまん、トフェル。

 窓から体を出した私はトフェルの足に掴まり、思い切って夜空の滑空を始めた。


「ひゃあああ……」


 上昇に比べてかなりスピードがある。気分は紐なしバンジーに近いが、いざとなれば飛行具召喚か、あるいは懐にアーレフの魔石があるので一応安全策はあったりする。というか、なければ流石にやらない。

 別館の屋根の天窓に近づいてきたところで、頃合いを見て降ろしてもらうことにした。


「よし、じゃあここらへんでいいよ……って、は、うわあ!?」


 ――足場にしようとしていた天窓が、ぱかりと開いた。


「……は!?」


 そこからひょっこりと顔を出したのは、何を隠そう……この国の皇位継承者、アギレスタ皇子その人だった。


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