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221 進級、そして冬季休暇へ

たまにそんな騒動がありつつも、日は淡々と過ぎていく。


進級試験は初めてだが五大教科免除試験は二回目ということで、思ったよりも慌てずに臨むことができた。

そうして二つの試験は大きな事件もなく終わり、秋の終わりの気配が濃くなってきたころに結果発表となった。


「やった、やりましたよアリス様!」

「ひゅ~ひゅ~!」


ケモっ子達が勢揃いで小躍りしている。

この一年こつこつ頑張ってきた結果、軒並み成績が大幅にアップしていたのだ。


「歴代の獣人先輩方より、平均がずっと高いです。これなら里帰りの時も胸を張って歩けます!」

「おめでとうございます、頑張りましたね!」


試験結果が発表された夜、消灯前の時間に自習室に集まってのプチ打ち上げ会。

それぞれの結果を報告しあう場はそんな風に賑やかだった。

もちろん勉強が苦手なメンツは満点ではないが、少なくとも進級試験の方で危ない点数の子は一人もいなかった。

とはいえ、そんな中でも自分の点数に落ち込む子はいる。


「はうう、まさか達成できないなんて……」


そのうちの一人は、レティシア様だった。

レティシア様は五大教科全クリアを個人目標にしていたのだが、思いがけず点を落としてしまった教科がひとつだけあった。

そのため小研究室活動が再開されても、全ての時間で参加することができないと言って涙目になっていたのだ。

……まぁ、あのタレ目皇子のせいでいつ再開できるかも分からないのだが。


「レティシア様、そんなに気を落とさないでください。今回の試験勉強では教える側に回っていたっていう事情もあるわけですし」


先生役の手が回らないところは私とローリエ様も教える側になってフォローしていたのだが、今回はレティシア様も自信のある分野で参加していた。

「私も役に立ちたい、お二人に並びたいんですぅ」とうるうるとした瞳で言われてしまえば止めることもできず、任せていたのだが……。

最後の試験で寝落ちしかけて点を落としたらしいので、恐らく睡眠不足だったのだろう。

やはり、ちょっとだけ早かったらしい。


「これじゃまた……」


俯いたレティシア様がなにか呟く。え、と聞き返す前に、レティシア様は顔を上げてふんすと腰に手を当てた。


「いえ、後悔しても仕方ないですよね! 次は完璧にできるよう、頑張るです!」

「レティシア様……」


ふんすふんす、と気合いを入れるレティシア様を見て、ローリエ様と目を見合わせる。

その目線には、心配の色が濃かった。

ううーん。自分で自分を鼓舞して元気を出しているのは純粋に凄いんだけど、なんか……。なんだろう?

どこか心配になる様子にそわそわする。


しかし声をかけてきた他の団員と話し込んでいるうちに、聞き出すタイミングを失ってしまったのだった。



試験が終わるとやってくるのは、進級式。


晴れて二年生になった。

とは言っても、クラスはそのままだし担任もレイ先生のままなのであまり変わった感じはしないのだが、ひとまずこれで二年生である。


進級してひと月半もすればあっという間に冬期休暇だ。

今年は秋に免除試験があったため、代わりに学期末試験がなくなった。

去年の休暇は親族を巻き込んで大移動することになってしまったので、今年は領地で大人しくする予定である。

その……はずだった。


「この子達と長期間離れるなんて、考えただけで無理です~!」

「大声はやめなさい、動揺させている」


私の叫びにびくりとしたイリーヴをどうどうと宥めるアベルさんに睨まれる。ごめんねイリーヴ。


「まぁ、どちらにせよ残れるのなら、よかったんじゃないか」


一応という感じでそう声をかけてくれるが、心底どうでも良さそうである。アベルさんの目線はすでにイリーヴのブラッシング中の毛並みに戻っていた。

そう、私は皇都残留が決定していた。


私も手元の餌の配合を秤で調整し、記録をつけつつ、経緯を喋った。


「本当に良かったです。バージル上屋敷の温室で、年明けの頃に咲くハーブを新作お菓子に使いたいとかで、私のお母様は皇都で年越しってことになりまして。それなら私も一緒にってなったんです」


つまり、お父様だけ別行動である。

例の辛辣なお父様の側近さんが「お前は逃がさんぞ」とお父様の首根っこを掴んだらしい。

そのため昨日、「抱っこする度に成長に合わせて増えていく身体の重みを……この手に感じたいよアリスぅぅ!!」という、なんとも言えない感じの涙に濡れた手紙が送られてきた。

年越しくらいはいいのではと思ったが、今は滞っていた領地内での社交にも力を入れだしたらしく、そこは外せないらしい。

余裕があればお母様と一旦帰っても良いのだが、お母様とフレシアおば様の手作りお菓子サークルは最近、衣装やアクセサリー方面にも食指が向いているので、多分きゃっきゃしながら作り込んでいるうちに新学期になると思われた。

……そうなったのも「マチルダにお裁縫教室をしているうちに触発されたから」らしいので、お父様のぼっち年越しは全体的に私のせいかもしれない。


すまん、お父様。

今度会ったら肩たたき券をプレゼントしよう。


心の中で合掌しつつ、そんな感じで私の冬季休暇はスタートした。



明日は二回更新予定です。

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