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217 伝神霊の術・その②

 夏休みの最終日となった。


 ここは廃塔の地階。目の前には、悲喜交々な瞳。


「只者ではいらっしゃらないと思っていましたが、これほどとは、ですわ……!」

「くっ、歳の差だと……」

「なんだか、おとぎ話のようで実感がわかないですぅ」

「ふぐう」


 喜んでいるのはマチルダとユレーナ。

 慰め合っているのはヨハンとニコラス。

 不思議そうにしたり納得しているのは、桃紫コンビ。

 失意体前屈で激しく悔しがっているのは、フレッジ様とイヴァン様である。


 なにがどうしてこうなったのかと言えば、さっくり言って前世バレである。

 バレっていうか、きっちりバラしたんだけどね。


 バージル兄弟&コニーと話し合った結果、魔獣の世話だのタロットだの、周囲に隠れて実験しなければならないことが多すぎるからこそ。

 常に行動を共にしている子には、情報の出どころについてなど、ある程度真実を伝えたほうがいい、ということになった。


 大人数に言うつもりはないが、少なくともアルヘオ文字を扱う小研究室組には知っていてもらった方がいいという判断だ。

 ……ダヴ先輩はうっかり誤爆しそうなので、ちょっと保留だが……。


 まぁとにかく。「中途半端に隠したところで、彼ら八人はアリスと行動を共にすることが多すぎるから、不信感しか与えないだろう。信頼を得るためにもこちらから打ち明けたほうがいい」と言われて納得し、話した。

 その反応は色々だった。


 首輪を取り、姿を現した状態のカロちゃん……今は咆哮を意味する「ハディール」と名付けた通称・ハディに全力でうりうりされるのを踏ん張りながら受け止めつつ、彼らの様子を見る。


「信じ難いですし、驚きですが……かえって納得しました。ね、マチルダ」

「ええ! アリス様が提案する素敵なお洋服の出どころもはっきりしましたし、これからどんなことを教えていただけるか、楽しみですわ!」


 女性側近組は特に私と過ごす時間が長いせいか、割とあっさり納得。マチルダに至っては興奮している。


「兄さん、まずいんじゃないか。年上のバージル家に圧倒的有利だ」

「ああ、ヨハン。でも、年下だからこそ有利なこともきっとあるはずだ……!」


 何故か慰め合うデュカー兄弟。別に信頼度を年齢で分けたりしないって。


「不思議ですけど、でもでも、アリス様が頼りになる理由が分かりましたぁ」

「そうですね。実感は湧きませんが、アリス様が嘘を吐くとも思えないですし……」


 それぞれゆっくりと事態を飲み込んでいる桃紫コンビ。


「もふもふされるのは僕たちの特権だったのに……」

「アリス様の浮気者ぉ! にゃああん!」


 ケモっ子二人は……話聞いてたか? と言いたくなる勢いで観点がズレていた。

 ハディに嫉妬しているらしい。そんなところも正直めちゃ可愛いのであとでモフモフの刑だが。


「なんというか、あっさりですねぇ」


 コニーが意外そうに呟いた。確かに、過労死など聞かせたくない部分はぼかしたものの、思ったよりも普通に受け入れられた感がある。純粋な子供だからだろうか?


「それだけ前世がにじみ出てたって事じゃない? 僕らも驚きはしたけど、すぐ納得したし」

「そうだねぇ。むしろ知らない方が、違和感が強かったかもね」


 兄様達がうんうんと頷いている。そんなに幼女の擬態下手くそだったかな。

 ……いやまぁ下手くそだね。自覚あり。というかぶっちゃけ、身の危険に直結するわけじゃないからあんまり真剣に隠してなかったし。

 改めねばなるまい……。


 首元へのうりうりからお腹への突進ぐりぐりになってきたハディをどうどうしつつ、改めてお願いする。


「私の事、そして魔獣のこと、タロットの事、アルヘオ文字の事、そして、もう一人の協力者の方の事など。秘密の誓いを立てて下さいますね?」


 そう問うと、全員が姿勢を正して頷いてくれた。


「もちろんです、主の秘密は何があってもお守りします」

「僕たち獣人も、一番大切な友人であるアリス様の秘密は洩らしません。誓います」


 キリッと宣言してくれたヨハンとフレッジ様に続き、全員が誓いの言葉を述べた。

 そんな頼もしいメンツに感謝の言葉を述べ、儀式の準備をする。


「〝羽根、風、青き場にて。さながら鳥のごとくに天高く引きあぐべし〟」


 詠唱して伝神霊を召喚する。現れた半透明の鳥にいつものように魔力を散らして食べさせてから、追加の言葉を唱えた。


「〝隠れ潜み、雪の下にありしもの。夏(きた)れば陽の元に明白たらん。然らばその陽をひと時ここに隠したまえ」


 伝神霊の姿が解けて、ふんわりとした光の玉になる。

 その光をこの場の全員で取り囲み、指を差し出す。

 各々が目を閉じ、自分の魔力を指先から光の玉へぽとりと落としたところで、「秘密の誓い」は完了して伝神霊は去って行った。


 これは詠唱内容から察せられるとおり、秘密を守ることを約束する時に行う魔術だ。

 拘束力はまったくないので、喋ってしまう事は出来る。しかしそれをすれば、使用者、つまり私の元へ伝神霊が現れ秘密の漏えいを伝えてくれるというものである。

 強制力も罰もない低コストな魔術のため、コニーのような魔力の少ない人も参加できるのが利点だ。


 しかし頻繁に使えば、相手の誠意を疑っているととられても仕方のない魔術だ。そのため、やたらに乱発しないのがマナーである。私も使ったのは前の前世バレの時など、数えるほどだ。


 ……見るたびに伝神霊という妙に高性能な不思議存在について研究したくなるが、ひとまずそれは後回しだ。


ぎりぎりになってしまいましたが、本日分です。

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