20 待ってました
さてさて。庭園で一悶着あった私たちだが、無事に帰宅した。
馬車の中ではお父様もお母様も何か考え込んでいるようで、ヴィル兄様も何かを気にしている様子だった。一応私とおしゃべりしてくれたが、あの金髪ドリルちゃんとヴィランデル夫人の事で頭がいっぱいの様子だ。
お屋敷についてから兄様と別れ、一旦部屋で体を休める。
夕食は家族全員で取ることが多いので、食事がひと段落したところでお父様とお母様に思い切って聞いてみた。
「あの、お父様、お母様。昼間に出会った人達って、どういった方々なのですか?」
「ヴィランデル夫人とその娘だね。彼女らはそうだな……」
少し言いよどむ顔をするお父様。それに対してお母様がおっとりと声をかける。
「アリスは聡明な子ですし、もうお茶会に出るのですから知っておいた方が良いと思いますよ」
「そうだね、そろそろいいか」
うん、と1度頷いたお父様はゆっくり話し始めた。
「エレオノーレの実家が、この前行ったハイメ公爵家だというのは分かるね。そのハイメ公爵家というのはとても古い家で、王家の血も入っているくらい由緒正しい貴族の家系なんだ。そして我がオーキュラス侯爵家もまた歴史の古い家で、見ての通り二つの家は仲が良いんだ」
「はい」
お父様は私にも理解できるよう、言葉を噛み砕いての説明をしてくれている。
それに適度に相打ちをしながら情報を頭に入れていく。
「そして、それに対してあのヴィランデル侯爵家というのは非常に新しい家だ。といっても100年ほどの歴史はあるけれどね。そのヴィランデル家と仲良くしているのが、エドムンド公爵家だ」
新しい名前が出てきた。エドムンド公爵家……。
「エドムンド公爵家も比較的新しい家だが、昔、大きな手柄を立てた時に姫を貰って公爵家まで成り上がってね。商売に成功して貴族になった新興貴族達の中でも最も力がある。そして、……ハイメ公爵家とエドムンド公爵家は、仲がとっても悪いんだ」
「あぁ、なるほど……」
思わず5歳児らしからぬうなり声を出してしまった。
「新しい貴族はエドムンド派を応援し、古い貴族はハイメ派を応援している。中立もいるけれどね。それがこの国の二大派閥なんだよ」
つまり、オーキュラスとヴィランデルは敵対派閥のNo.2同士といったところなのだろう。しかもお母様はそのトップの娘だ。そりゃ、ああなる訳だ。
「一番偉い人は、どっちと仲がいいのですか?」
ふと気になって聞いてみると、今度はお母様が答えてくれた。
「今のグリエルムス陛下は、板挟みですね。右大臣と左大臣が綺麗にハイメとエドムンドに分かれているし、古い貴族の心が離れると内乱の可能性や国境防衛の危険性が高まって、新しい貴族の心が離れるとお金がなくなってしまうから……」
うわぁ、大変そう。私だったら胃に穴が開きそうな位置だ。皇帝に転生しなくてよかった。
「アリスもこれから人前に出ることになるから、派閥の事や、力関係を考えて動かなければならないよ。最初のうちは私たちや側近、護衛が教えるからね」
「はい、分かりました」
よかったぁ。人の顔覚えるの苦手だから、教えてくれる人がいるのはありがたい。
「それにしても、ヴィランデル侯爵の娘は随分と気性が激しい子でしたね」
「あぁ。アリスと同学年になるから、突っかかってこないか心配だ……」
はぁとため息をつくお父様。同学年?
「同学年と言うと、学校ですよね。そう言えば、私はどんな学校に通うのですか?」
学校については聞いたことがなかった。小学校はちびっこの相手なんて面倒だから通いたくないなぁ……。
「うん?ああ、アリスが通うのはローヴァイン離宮魔術学園という所だよ」
…………え?
り、り、りきゅ……っ。ま、ま、ままま……?
「一年後にはもう1年生ですもの。楽しみですね」
まじゅっ……
魔術学園っっっ?!?!?!
穏やかな両親の会話が頭に入ってこないくらい、私は衝撃を受けていた。そして、心の中で盛大に叫ぶ。
なんっっっだその素晴らしいウキウキファンタジー要素?!?!
ネーミングも心に刺さる。グッとくる。いい具合に厨二くさい。
最高じゃん!?!?!
「懐かしいですね、私達が婚約したのも学園生時代でした」
「うんうん。エレオノーレを狙う輩は多かったから、奪われまいと牽制に明け暮れていたなぁ」
「まぁ……」
うふふあはは、と思い出話でいちゃいちゃしている両親。だが、そうして違う世界に旅立ってくれているおかげで私の尋常ならざる様子に気付かれないので良しとする。
人前でなければ、涙を流して両手の拳を振り上げ、腹の底から獣のような雄叫びを上げているところだ。
某魔法学校みたいな授業があるのかな、ミステリアスな先生とか怪しい部屋とか魔法の道具がいっぱいあるのかな?!
神様ありがとう、転生よありがとう!!世界よありがとう!!ヒャッハー!!!!
……そんな異様なテンションに病み上がりの体は、普通に耐えきれず。
日中の疲れも相まって目を回した私はパタリと倒れ、お母様に悲鳴をあげさせてしまったのだった。




