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贈り物を貴女へ

ファニールくん視点です。5章と6章の間あたり。

 

「女性が贈られて、喜ぶもの……?」


 反芻するようにそう言ったのは、僕ら金狼族の次期族長、フレッジ様だ。


「なになにファニール、ぷれぜんとってやつ!?」

「わぁー、なになに?」


 話を聞きつけた獣人の仲間がわさわさと集まってくる。ちなみに今はお昼の時間だ。


 今日は夜明け団のみんなでまったり屋上ランチしようという話だったので、食堂で持ち運びしやすいものを選び、わいわいご飯を食べてから食後の日向ぼっこをしているところだった。


 少し離れた所にアリス様やその側近達がおり寛いでいる。コニーさんは仕事でいない。

 人間も含む仲間たちは入れ代わり立ち代わり、アリス様の傍に寄っておしゃべりしたり甘えたりしていた。


 そんな長閑でふわふわとした雰囲気の中まったりしつつ、ご飯を食べている間に思いついたことがあって。

 それを口にした結果が、冒頭のフレッジ様のセリフだ。


「女性っていうか……まぁファニールがそう言うってことは、コニーさんの喜ぶものはなにかってことでいいよね」

「……」


 こっくりと頷くと、周囲を取り囲む仲間達がニヤけるのがわかった。

 頬が熱くなるのを自覚する。……あれだけの人の前で「貴女の騎士に」なんて言ったんだから仕方ないし、後悔はしていないが、やっぱりちょっと恥ずかしい。


「うーん、コニーさんの喜ぶものかぁ。アリス様に聞くのが一番確実な気はするけど、アリス様って嬉しいことについては全然隠し事出来ないタイプだからなぁ……」

「すぐバレちゃいそうだよね~」

「ね~」


 フレッジ様の言葉にうんうんと同意する一同。そしてくふくふ笑うフルダルとニルファル。


 確かにアリス様は、そういう所がある。

 とっても頭が良いし、普段は穏やかで綺麗な表情をしているけれど……新発見をした日とか企みがある時なんかは、一日中ニコニコしてたりニヤニヤしてたり、鼻歌を歌ったり、無意識にスキップしてたりするので丸わかりなのだ。

 ……そう言う時は側近がさりげなく隠したり阻止するので、夜明け団以外の人にはそんなにバレてないと思う。多分。


 ともかく、アリス様と長い付き合いのコニーさんには、何かあるということがバレてしまうだろう。それではあんまりサプライズにならない気がする。


 そんな風に悩んでいると、離れた所にいるアリス様が僕達の笑い声に気付き、こちらに視線を向けた。


「皆さん、楽しそうですね。何かありましたか?」


 こてんと首をかしげて微笑んだアリス様。

 その温かな雰囲気に、ついつい悩みを打ち明けそうになったが……焦った仲間達に大声で阻止された。


「ううん!! ぜーんぜん何もないですよ!!」

「そうそう! なんにもないです!!」

「なんにもなさすぎるぅ~!!」


 ……その激しい否定により、アリス様とその側近達は「そ、そうですか?」と納得してくださった。

 少し強引だった気もするが……。しかし背に腹は変えられない。


 アリス様はコニーさんと僕が関わると、何故かいつもの二倍以上物凄く楽しそうになってしまう。申し訳ないが、仲間達の行動はファインプレーだと言えるだろう。


「それで、プレゼントだよな。まずプレゼントって言ったら、王道はアクセサリーじゃないか?」


 フレッジ様の側近、ヴォルヤが耳をぴんと立てながら自信満々に提案した。

 しかしそれを、同じく金狼のユディトが否定する。


「コニーさんの好みを知らないんだから、それは早いんじゃない? それに高いし……」


 確かに。僕達はあんまり自由にできるお金が無い。


「じゃあじゃあ、お菓子は? カジカジはどうでしょう?」

「それいーな! 詰め合わせパックなんかどうだ!?」


 よだれを垂らしそうなキラキラ顔で提案したのは、食いしん坊の金狼ランスレー。黒猫の食いしん坊ティザも同意する。


「うーん、食べ物についてはコニーさんが上じゃないかな。何を贈ってもコニーさんの方が美味しいものを用意できると思うし……カジカジはコニーさんには硬すぎるよ」


 冷静に分析したのは、おっとり屋の黒猫サージュ。一理ある。


「うーん、じゃあ洋服?」

「それも高いし、ボク達にはコニーさんのサイズがわからないよ」

「あ、そうだねぇ」


 うんうんと会話しながら悩んでいるのは、黒猫のオルガとカリナだ。確かに、洋服はサイズが分からないと贈れない。


 そんな風に皆でうんうん悩んでいると、イヴァン様とその側近のユージンが「あ!」と同時に声を上げた。


「どしたの、イヴァン、ユージン」


 フレッジ様がそう声をかけると、イヴァン様がこれだ!と声を上げた。


「お花! お花はどうだ!?」

「お花?」


 皆で一斉に検討してみる。うーんうーん。


「確かにプレゼントには適してるけど……意外性がなくないですか?」


 そう言ったのは、金狼のルシアだ。さっきまでずっとむっつり黙っていたが、何故か焦りながらそう言う。

 それに対して、イヴァン様が堂々と反論した。


「いや、絶対に喜んでくれるはずだ。コニーさんが自分で校庭の野草を摘んでるところを見たことがある!」

「はい!僕も見ました!」


 イヴァン様の発言に、ユージンも力強く頷く。どうやら本当らしい。


「多分、自分の部屋に飾る用だと思う。アリス様の部屋に飾るなら百合とか薔薇とか、もっと良いものを買ってくるはず。コニーさんが摘んでいたのは野草だった」

「なるほど。それは確かに、自分用かもしれないね」


 黒猫主従の発言を受けて、フレッジ様も頷いた。みんなもうんうんと頷いている。


 そんなこんなでプレゼントは花に決まった。


 どうせなら皇都市街の花屋で綺麗な花を買っていきたいが、学園から出るのには申請や許可がいるし、基本的に週末になってしまう。

 しかし、コニーさんは週末になるとアリス様の実家に戻って仕事をしている時もあるから、タイミングによっては新鮮な花が渡せないかもしれない。

 せっかくみんながいい案を出してくれたのだから、いい状態の花を早くプレゼントしたかった。


 そんな訳で。

 この日は仲間達の助力を得て、学園の中で綺麗な野花が咲いている場所を事前に探しておき、次の日に備えた。


 ◇


 翌日。


 仲間達の情報を元に、僕はお昼休みになるやいなや走った。


 花を集める途中、学園の温室の近くで、アリス様と親しいあの綺麗な人……オルリス様と偶然出会った。

 そこで「これも良かったらどうぞ」と大ぶりの綺麗な花を何本か譲ってもらったのもあって、思った以上に綺麗な花束が出来た。


 ……どうして僕がお花集めをしているのを、滅多にいらっしゃらないオルリス様が知っていたのかは分からないが、後日お礼をしなければ。


 そんな事を考えつつ、コニーさんを探して走る。


 よくコニーさんがいるのは、厨房、食堂、使用人の宿舎近くなどだ。……しかし、いない。

 あんまり知らない人と話すのは得意じゃないから、使用人達に聞いて回るのもできなかった。その代わり、全力で走って探す。


 でも、お昼休みの時間が半分以上過ぎてもコニーさんは見つからなくて……。僕は酷く焦っていた。

 食堂にいたアリス様と仲間達のところを再度覗いて見ても、いない。

 事情を知る獣人の仲間達が目線でどうしたと訴えてくるが、それに返事をする余裕もなく、僕は再び走り出した。


 どうしよう。このまま渡せず放課後になったら、せっかくの花束が萎れてしまうかもしれない。

 お花を長く綺麗に保つ方法を、僕は知らなかった。


 再びコニーさんを探してうろうろ走り、情けなくも泣きそうになりながら、とうとう屋上まで来てしまった時だった。


「ふぁ、ファニール様!!」

「っ!?」


 ぴくんと自分の耳が動いたのが分かった。思わずしっぽも揺れる。

 聞き間違えるはずもない、優しくて温かい声。


 振り向けば、青空を背景に、コニーさんが息を切らせて屋上の扉を開けていた。


「はぁ、はっ、流石、あ、足が早いですう……っ!」

「こ、コニーさん……!?」


 ぜえはあしているコニーさんに何故ここにいるのか問うと、意外な答えが返ってきた。


「アリス様が、ファニール様が私にご用があるようだとおっしゃって……。それで、ニコラス様とヨハン様が手分けして、ファニール様の現在地を突き止めて教えて下さったんですが……っ、凄い速さで移動されるので、お、追いつけなくて」


 なんと、まさかの逆追いかけっこになっていたらしい。

 しかもプレゼントのことは、どうやらアリス様達には筒抜けだったようだ。オルリス様のご協力もそういうことだったらしい。


 それら全てに赤くなるやら恥ずかしくなるやら、複雑な思いをしつつ、息を整えたコニーさんに思い切って花束を差し出した。


「あの……っ。えと……。……お、お花、を」


 贈りたくて。までは、恥ずかしくて言えなかった。


 ずいっと差し出した花束を見て、コニーさんは一瞬きょとんとした。

 でもそれから、ふわっと、それこそお花のように柔らかく笑って。


「……ありがとうございます、ファニール様」


 僕の手からそっと花束を受け取ってくれたコニーさんは、花束を優しく抱きしめてから、すっと香りをかいだ。


「わぁ、いい匂い……! こんなに沢山、大変でしたよね」

「……っ! べ、別にそのくらい、どうってことない……です」


 プレゼントを喜んでくれていることが、そしてたくさん会話しているのが嬉しくて恥ずかしくて、つい、ちょっとぶっきらぼうな事を言って俯いてしまう。

 それに後悔しそうになったところで、コニーさんがふふふ、と優しく笑った。


「本当に、とっても嬉しいです。そうだ、なにかお礼をさせてください!」

「!?」


 ただ喜んで欲しかっただけで、お礼なんて……と思った。

 でも、いい案が浮かんで。


「……じゃあ、僕の事は、様をつけないで……呼んでください」

「……えっ!?」


 一拍置いて目をぱちぱちして驚くコニーさん。

 でも、僕はずずいっと身を乗り出して迫った。


「ぼ、僕も一応貴族だから……ホントはダメかもしれない。でも、前に一度呼んでくれた時みたいに……。もっと近いのが、いい」


 ちょっと勢い余ってしまったし、上手く言えなかったが、本音をぶつける。


 以前、アリス様の呼び方に釣られてか僕のことを「ファニール君」と呼んでくれたことがあったけれど、立場を気にしてかその時以外は「ファニール様」に戻ってしまっていたのだ。


 1度呼ばれてしまえば、親しげな呼び方の方が嬉しいに決まっている。


 すると、コニーさんは頬を真っ赤に染めた。


「え……っ、えと、……じゃあ……。ふぁ、ファニール、くん? とお呼びします、ね」

「!!!!」


 ぶわっと耳と尻尾が膨らむのを感じる。言いしれない感情が爆発して、ついでに顔の熱さも爆発した。


「あっ!? え、ファニールくん!?」


 ……いい加減、キャパシティオーバーするとぶっ倒れる癖を治したいと思いつつ。


 視界の端に、慌てて物陰から飛び出て駆けつけてくる仲間達を認めながら、僕は幸福のさなか意識を手放したのだった。 

リクエストその1でした。

以前、コニーには1度「ファニール君」と呼ばせているのですが、アリスのセリフにつられて子供扱いしてた&一応身分差があるので……。ここから正式に君付けという感じです。


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