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17 庭園

そんなわけで、やって来ました皇立庭園!!

 

 今私は、馬車を下りて庭園に入る門を潜っていた。

 

 メンバーは私、両親、兄様、そしてお手伝いとして連れてきたコニーちゃんの5人である。

 

 庭園に行くことが決まった次の日に早速来てしまったのだから、お父様の甘やかしぶりにも嬉しいやら恥ずかしいやらだ。

 

 ちなみにお父様は、家族の仲が戻ってしばらくは「療養期間」と称してお母様や私とイチャイチャしており、執務をお休みモードにしている。というか、アルフォンスさんに出来るだけ任せているそうだ。

 

 ……最近、そのせいかアルフォンスさんの目の下に隈ができ始めた気がするけれど、大丈夫なのだろうか。

 

 そんなことを気にしつつ、お父様の皇立庭園についての解説に耳を傾ける。

 

「ここの通称は皇立庭園だが、正式名称は皇立遺跡保護区と言うんだ。その保護区の中に薬草園、薔薇園、湖などの庭園があるといった感じだね」

 

 えっ、なにその中二病全開な感じ?!素晴らしい!

 

 私が目をギラギラさせて不思議ハンターモードに入りお父様を食い入るように見つめると、お父様は真剣に話を聞いてもらえるのが嬉しいのか「ふふん」という顔で解説を続けた。

 

「ここの歴史は古くてね、この国の最初の王宮があったと言われていて、その遺跡が残っているんだ。一度首都が変わってからまたこの地に戻って来た時、現王宮が今の場所に建てられて、こちらは保護区として管理されることになったそうだよ」

 

 私が「歴史ロマンですね!」と小さく叫ぶと、ヴィル兄様が難しい言葉を知っているね、と頭を撫でてくれた。

 

「一度遺棄されたせいで、今ではなんのための施設だったのか分からない区画もあるそうだ。ほとんど原型を残していない所もあるね。あと、進入禁止になっている建物もあるらしいから、そういうところに入っては駄目だよ?」

 

 ふんふん、と情報を頭に刻んでいく。そして、いつか必ずこの庭園を探検すると決意した。素敵すぎるだろ皇立庭園。

 

「ふふ、お嬢様ってばそんなにワクワクしたお顔をして。そういうお話が大好きなんですねぇ〜」

 

 コニーに微笑ましいものを見る目で見られ、ちょっと恥ずかしくなる。そんなに鼻息荒かったかな?

 

 少しクールダウンして辺りを見回してみる。

 

 今私達は、守衛さんのいる門を抜けて最初の広場にいる。

 石畳が模様を描くようにぐるりと敷き詰められ、中央には彫像をいくつか使った大きな噴水がある。周囲は背の高い常緑樹で囲まれていて、それを割るように大きな道が三本伸びていた。

 てか、ホントに木の大きさが凄い。分かりやすいスケールとしては古い神宮とかにあるやつ。見上げるような大きさの巨木だ。

 

前にはお父様&お母様、お母様に日傘を差すコニー。後ろに私と手を繋ぎ、反対の手にランチバスケットを持った兄様という並びの私達一行は、広場の右手の道に入っていく。

 足元は灰色の大きな石畳で、道は10人並んで歩けそうなほど広い。入口広場から続く真ん中の道と左へ行く道は先に何があるのか良く見えなかったけれど、こちらは道の先に開けた場所が見えていた。


「わぁっ……!」

 

 わいわい喋りながら巨木の道を抜けて視界に飛び込んできたのは、青や紫の花を散らしたトレニアの花畑だった。

 日陰でも良く育つ花なので、巨木の日陰が多いここでも柔らかな茎と葉が地面を覆っている。

 

「綺麗……」

 

 こういうのを見るのは前世で南房総に旅行したとき以来だなぁ。綺麗だったなぁ……。

 

 ……そもそも前世って言っちゃってるけど、ホントに死んだのかな私。睡眠中に死ぬとか過労死だったのかな。

 確かに社畜極めてたしなぁ……。

 

 そんなことを思いながらぼんやり花を眺めていると、兄様に手を引かれた。

 

「ここも綺麗だけれど、先に行くともっと開けた良いところに出るよ。さ、行こう?」

 

 はぁいといい返事をして着いていく。

 なだらかな丘になっている花畑の中には遊歩道のようなものがあり、そこを辿って上へ歩いていった。

 

 そうして巨木とトレニアのエリアを完全に抜けて出てきたのは、芝生と低木が多い場所だ。

 辺りをきょろきょろと見回してみてこっそり嘆息する。

 

「……アリス、足が辛いのかしら?」

 

 うっ。気付かれた。

 

 かなりなだらかとは言え丘を登っているので、お母様に指摘された通り早くも体がしんどくなってきていた。しかし、五歳児の体を抱っこして傾斜を登らせるのは憚られるので言えなかったのだ。

 

「気付かなくてごめんね?」

 

 私が返事を迷っていると、ランチバスケットをコニーに託したヴィル兄様にひょいっと抱き上げられた。

 

「ひゃっ!に、兄様、良いのですか?」

 

「ちゃんと鍛えてるんだから落としたりしないって。安心して任せなさい」

 

 ふんすと胸を張るヴィル兄様。確かに兄様、思ったよりがっしりしてるね。13歳で身長伸び盛りなのにもやしじゃない。あとなんか良い匂いする。美少年力凄い。

 

 申し訳なさも忘れて、おお〜!と声を漏らしながら兄様の胸板を撫で撫でしていると、後ろの方から「私だって……」とお父様の悔しそうな声が聞こえた。

 お父様もなかなか引き締まった体つきをしているので、今度撫で撫でしてあげようと思う。


 ◇

 

 そんな感じで抱っこされ丘を登りきった先は、広く空が見渡せる開放的な場所だった。

 雰囲気で言うとイングリッシュガーデンに近い。その中で様々な品種の花が育てられているようだ。

 

「ここですね、お母様!」

 

 一目見てわかる。薔薇アーチとその奥の丸い広場、パーゴラが自宅のそれに似ていた。

 

 赤、桃、白の花を基調とした空間で、広いパーゴラから藤棚の藤のように降りて来るつる薔薇が豪華な雰囲気だ。

 

「ええ、正解ですよ。そして実は、お父様と私の思い出の場所でもあるのです」

 

お母様がはにかむようにそう言うと、お父様も微笑んだ。

 

「ここでプロポーズしたんだったね。あの時のお前の喜んでくれた顔は忘れられないよ」

 

 おお!そんな秘話があったのか。つる薔薇のパーゴラの下でプロポーズって、お伽噺っぽくて素敵だな。

 

 しかし、思い出の場所を自宅にも模して作るって凄いな。あの時の奇跡をずっと側に的な感じか。ラブラブか!ラブラブだな!

 

若干砂糖を吐きつつ両親の仲の良さを実感していると、きゅぅぅんという子犬の鳴き声が聞こえた。

 

 おや?という顔で皆がきょろきょろすると、コニーが顔を真っ赤にしている。おや。

 

「コニー、もしかしてお腹空いた?」

 

 私がそう言うと、コニーはこっくりと頷いた。

 

「私も小腹が空いたな。ここらでランチとしようか」

 

 お父様がフォローするように自らも空腹を訴えたので、パーゴラの近くにあるガーデンテーブルでランチとなった。

 

 

 

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