180 フライト中はお静かに
新年あけましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願い致します!
コツをつかんだという事なのか、まぐれなのかはわからない。しかしとにかく、私はニコラスのいる崖目がけて降りていく。
私の影に気付いたらしいニコラスが、降りてくる私をぼんやりと見上げる。ゆるゆると意識がはっきりしてきたらしいニコラスは、驚きの表情を浮かべた。
そうして、本人の前に降り立った。
◇
「はぁ、はぁ……ニコラス、大丈夫?」
全力で制御したので、消耗が激しい。ニコラスを連れて降りるまで持つか分からないが、とにかくやるしかない。
「え……、え?」
先ほどまで目の焦点が合っていなかったニコラスだったが、どうやら驚きでまっとうな意識を取り戻したらしい。
私を見て、弱弱しいながらも驚いて口をぱくぱくしている。
「説明は後、早く降りるよ!」
「お、降りるって」
そう狼狽えて身じろぎした瞬間、ニコラスが顔をしかめた。やはり大怪我をしているのか。
「やっぱり怪我してる? どこが痛いの?」
そう言って覗き込んだが、ニコラスは首を振った。
「いや……。これが下敷きになってくれたおかげで、落下の怪我はほとんどしなかったようです」
そう言われてようやく気づく。なんとニコラスの下や周辺には、サーリエの花が群生していたのだ。
「これ、サーリエの花!? そうか、崖の岩棚に風で運ばれた柔らかい土と、それに密集して生えたサーリエがクッションになったんだ……」
そういえば、その可能性に思い至って崖を見上げたのだった。
しかし、感心している場合ではない。危険な場所であることは変わらないのだ、早く降りなければ。
「とりあえず話は後。連れて行くから、来て」
「連れて行く……?」
ニコラスはまだ少しぼんやりした様子だったが、問答無用でその手を取って立ち上がらせる。
「この道具で、私が貴方を安全なところまで連れて行くから。道具の後ろに跨って、私の腰に手を回して」
「手……。ん!? こ、腰!?」
なぜかここでバチンと完全に目が覚めたらしいニコラスは、途端に真っ赤になった。
ええい、こんなところで小学生男子の恥じらいを見せられても困る。まだるっこしい!
「はよ! 手!!」
「はっ、はい」
びしっと言うと、ニコラスは反射の様にひしっとくっついてきた。よし、行くぞ。
集中して、今度は丁寧に飛行具を発動させる。すると、幸いなことに先ほどと同じようにすんなりコントロールできた。
「うわっ!?」
足が地から離れて、ニコラスが狼狽える。
「大丈夫大丈夫、落として怪我させたりしないから。ちゃんと掴まってて」
「な……」
落ち着かせるようにそう言うと、ニコラスは一瞬黙ってからぎゅうっとしがみついてきた。
ふふふ。なんだ、可愛い所もあるじゃないか。
ちょっと愉快な気持ちになりつつ、ゆっくりと飛び立つ。
ニコラスの体重の分重くなったため少しふらついたが、魔力の消費量が増えただけでなんとかなっている。
よし、下降するか。
そう意気込んだ瞬間、ニコラスが呟いた。
「……貴女はいつもそうだ。そうやって、入り込んでくる」
「ん?」
ニコラスがなにやらごにょごにょ言っている。聞き返すが、いいえ、と遮られた。
「なんでもないです。それより、それが素の口調なんですか」
「えっ。んんっ、いやぁ、何のことでしょうか? うふ」
「普段は……。ヨハンには、いつもその口調なんですか」
おうふ、一刀両断。ニコラスの中で私が「敵対派閥のご令嬢」から「がさつ令嬢」にランクダウンしたようだ。まーもういいか。
「いや、んー、たまにうっかり? でも聞こえないふりしてくれるから、最近は甘えてるかな」
「……くそっ。じゃあ、俺にもそうしてください」
「ええ!? なんで?」
がさつ口調をご所望とはこれいかに。
なんだなんだと振り向こうとしたが、ますますぎゅうぎゅう抱き締められて後ろを見られない。というか不安定な空中なのを忘れてた。
今度こそ下降を開始したところで、ニコラスが顔を肩に押し付けてきたまま呟いた。
「貴女は酷い。忘れっぽいし隠し事が多いしヨハンを手元に置くし」
「な、なんでいきなりディスられてるの私!? どういうこと?」
「別に……。言ってもまた忘れるんでしょう」
「だから何を!?」
ぎゃあぎゃあ(私が)騒いでいるうちに、がくんと高度が下がった。
ま、まさか。
今年はもっと面白く書けるよう、精進して良いものをお届けしたいなと思っております。
拙い所の多い作品ですが、なにとぞお付き合いいただければ幸いです。ヽ(*´∀`)ノ




