169 アリスのお茶会
「えっ、そっちも」
思わず素で呟いたところ、私の言わんとするところが伝わったらしい。アベルさんは信じられない、と再び額に手を当てた。
「……まさか」
「えーと……たぶんその危険な魔術……特に〝魔法陣〟についても、存じております」
別にアベルさんの知識を強奪しようとしてる訳じゃないよ、こちらも知っていて、協力してほしいだけなんだよー、というアピールにそう告げる。
しかし。
明り取りの窓から風が入ってきて、二人の間にざわりとした風が吹いた。
「君は……何者なんだ?」
あれ。
なんか、物凄く警戒されてる?
どうせチート魔法のことは多少知ってるんだろうし、いっそのこと秘密を共有して研究仲間になれば、アベルさんもきっと楽しいし、私もこの絶好の実験場である廃塔でタロット研究できるぞ! と思ってペラペラ喋ったのだが。
アベルさんの私を見る視線が、なんというか……怪物とかやばい人を見るそれになりつつあるような……?
それは心外だ。私はただの善良な幼女である。
「私はただの幼女……じゃなかった、学園生ですよ?」
「嘘を吐くな」
一秒で反論された。いやほんとにただの学生だよ?
「ホントですって。飛行魔術を開発したいだけの、善良な学生です!」
ばばん! と胸を張ると、きょとんとされた。
「飛行魔術? ……タロットを知るのなら、タロットを使えばいいだろう」
「いやいやいや、そんな気軽に使っちゃ駄目でしょう、あれ」
「気軽に使ってはいけないという分別はあるのか……」
「ありますよ!?」
なんだこの謎コント。ちょっと不謹慎にも吹きそうになってしまった。
「……そこの分別はあるのに、何故あの分野を研究しようなどと思う? あんなものは闇に葬った方がよいに決まっているだろう」
「そうも言ってはいられないから、ですよ」
私がそういうと、アベルさんは器用に片眉を上げて見せた。
段々面倒になってきた私は、一気に説明することにした。
「もうまもなく、タロットの使用者が現れ、世間に秘密が暴かれる時が来る……可能性があるんです。理由は詳しく言えませんが、その使用者は生まれつきあの秘密の魔術を知っている可能性があるのです」
「俄には信じ難いが……。それにしても生まれつき……? まさか、全てをか」
アベルさんが微かに慄いた。
まぁ、もうまもなく現れる使用者ってのはアベルさん自身の事なんだけどね!
生まれつき知っているというのは、私や、場合によってはガブリエラのことだ。その二つを組み合わせてちょっとふかしてみただけである。
そしてこの様子だと、アベルさんは生まれつき知っている訳ではないらしい。第三の転生者の可能性もちょっと考えてカマをかけたのだが、そうではないようだ。
だとすると、それはそれで情報源が非常に気になるが……。
「あの魔法陣には表と裏のようなものがありますよね。私には目標が二つあるんですが、その一つは、あれが危険なことに使われた時、相殺できるものをぶつけられるよう、あらかじめすべてを把握しておくというものなんです」
「……なるほどな。それで、もうひとつは?」
「飛行魔術を開発して、皆で空を飛ぶことです! それだとタロットは危険すぎて使えないから、アルヘオ文字……あの古い文字の方を使ってできないかって、皆で研究してるんです」
えっへん! と再び胸を張ると、アベルさんが若干呆れた顔をした。
「目標のスケールが違いすぎるだろう」
「でも、どっちも本気で、本当ですよ。古い文字の方はルーン文字の強化版みたいなものですから、いずれは公表するつもりですし。文字がこの世に実在する以上、変に放置してた方が危ないですからね」
きちんとした使い方を研究して、しかるべき機関に委ねる。この国の発展にも役立つだろうし、技術が発達すれば困っている人が助かることもあるかもしれない。
でもその研究の途中経過として、研究の第一人者たる私の願望……飛行魔術が少しだけ優先されても、罰は当たらないんじゃない?
そんなことをふんすふんすしながら語ったところ、アベルさんは目をぱちぱちとしてから、一拍置いて特大の溜息を吐いた。
「欲があるのか、ないのか……。しかし、研究は手伝わない」
「えっ」
今の、なんとなく完全に口説き落とせた感じだったと思うんだけど!?
いっそのこと子供らしく駄々をこねたり泣いてみようかと思ったが、アベルさんは無表情でこちらをじっと見てきて心が死にそうな予感がしたので、やめた。
「君が願望を叶える事と、私がそれを手伝うことの間に因果関係が見いだせない」
な、なんか難しいこと言ってる。
もういい、こうなったら強硬手段だ。
「じゃあ、とりあえず今は研究仲間じゃなくてもいいです。その代わり、この隣の空いてる空間を使わせてください!」
「……私の所有する建物ではない、好きにすればいい」
「じゃー好きにします。あと研究で疲れたら、ここにお茶しに来てもいいですか? いいですよね? お隣さんってことで!」
「は」
「美味しいお土産をいーっぱい持ってきますから。ね?」
アベルさん意外とツッコミだし、巻き込めば楽しいお茶会になりそうだ。
そう思って必殺幼女スマイルを見せると、アベルさんは再び額に手を当てて、大きな溜息を吐いた。
やれやれ君は押しに弱いってばっちゃが言ってた。
評価ボタンポチッとをありがとうございます!
引き続き連続更新頑張りますので、そっとポチッていただけると活力になります!|ω・๑)




