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15 神話



 世界は長く闇に閉ざされていた。

 


 闇は時を経て意思を持った。

 闇は孤独から変化を求めた。

 

 「変化」が生まれた。

 

 「変化」は 初め光であった。

 

 光は、闇の孤独を癒すためにすべてを変化させはじめる。

 

 光が力をあまねく世界に届けることを願うと、太陽の神が生まれた。

 

 原初から存在した氷は、太陽の光で溶かされた。

 

 その頃、闇が光と太陽の休まる時を願うと、柔らかに光を反射する月の神が生まれた。

 


 光はさらに創造を行った。

 


 光を美しくきらめかせるさざ波、水の神を作った。

 光を届ける空として、風と気の神を作った。

 力を受け止める場として、土の神を作った。

 


 光は存在するだけで更に世界に変化をもたらし続ける。

 


 力を集めた場所から炎の神が生まれた。

 光の去った場所から冷気と氷の神が生まれた。

 光の軌跡に雷の神が生まれた。


 豊かになった世界に闇は歓びの涙を落とした。

 土から草花が芽吹き、生物が動き出した。


 繁栄した世界を見て闇は、光にお礼の贈り物をした。


 闇と光の世界を駆け巡る子供、自ら変化をし産み出すもの。

 「ひと」を作った。

 

 ひとが成長する為に、闇はひとを害するものも、逆に力を与えるものも生み出した。

 

 こうして闇が恐れる無の世界はなくなった。

 

 世界は動き出した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 優しいコニーの声で神話が語られる。

 

「孤児院で毎週復唱させられるんです。しっかり覚えてしまいました」

 

「そうだったんだ。きっちり暗記しているなんて凄いわ」

 

 そう誉めるとコニーはえへへ、と笑った。 


「この神話、素敵ですよね。まるで光と闇は恋人みたいだなっていつも思ってたんです」

 

「恋人?」

 

 そう問い返すと、コニーは頬を染めて続けた。

 

「闇は力強いけど一人ではなにもできないんです。そこに光が現れて、新しいものを沢山見せていく。闇は嬉しくなってそれに応える。そして子供、つまり人が生まれて、ハッピーエンド。なんだか人間の恋物語みたいだなって」

 

 言われてみると確かにそうかもしれない。

 

 まぁ、アラサーの荒んだ目線で見ると、闇が物凄いヤンデレ感あるけど……。光にめっちゃ依存してそうだし、自分の子供の敵とか創造しちゃってるし。

 

「確かに、ロマンチックね」

 

 無難にそう返す。

 

 その後は祭壇や彫刻を見て回ったり、ステンドグラスに描かれた物語をコニーに解説してもらったりした。

 

 余談だが、中世において教会のステンドグラスの絵というのは、文字が読めない町の人々に対する布教の手段でもあった。

 コニーはほとんど文字が読めないのだが、孤児院で口伝された物語をよく知っているので、それをステンドグラスから読み取って解説してくれた。

 

「こっちの絵は、英雄ジークフリートの物語で……」

 

 ジークフリートかぁ……。わりと、前世の神話とこちらの神話って、名前とか物語がリンクしてんだよなぁ。地域や時代はごちゃ混ぜだけど。

 

 そんな風に参列者用の椅子に座って説明を聞いていたのだが、柔らかな日差しに照らされながら穏やかな声を聞いていれば、自然とうつらうつらしてくる。

 そんな私を見てコニーはくすりと笑い、抱き上げて部屋に戻してくれたのだった。

 

 それからしばらくお昼寝をして、かなり軽めの昼食を食べてまたうとうとしていると、お茶の時間が近いからと起こされた。

 今日は裏庭のガーデンテーブルで集まるらしい。

 

 家族団欒な予定が嬉しくて、起こしてくれたコニーを連れて一足先に裏庭でぶらぶらすることにした。

 

 

 ◇

 

 

裏庭に行くにはいくつか道がある。

 

 ひとつ目は、私室区画の裏口から出る道。

 次に公的区画の裏口から中庭を通って出る道。

 最後に、公的区画の正面玄関から建物の横を通っていく道だ。

 

 今日は出来るだけ歩くのも目的なので、1番遠回りな正面玄関から出ることにする。

 

 私室区画から大廊下で繋がっている公的区画へ歩く。途中でお掃除中のメイドやお茶会の準備をしているアルフォンスさんにすれ違って手を振ったりした。(ちなみにアルフォンスさんは口元を押さえてぷるぷるしながら手を振り返してくれた。まだ私が元気になったことへの感動が薄れないらしい)

 

 公的区画に入りやっと正面玄関に着いたので、コニーの助けを借りて玄関前の小広場へ出る。

 

 秋晴れの空は清々しい空気に満ちていて、思わず深呼吸する。

 

 うーん。目覚めたときから思ってたけど、日本とは大違いだわ。

 

 東京で働いていたので、空気の匂いはかなり酷かった記憶がある。

 

「お嬢様、どうなされました?」

 

 私が深呼吸する様子を見てコニーは不思議そうな顔をした。

 そうか、コニーにとっては産業に汚されていない綺麗な空気って、むしろ普通すぎるのよね。

 

「えーっとね、空気が綺麗だなと思って深く呼吸したくなったの。綺麗な世界が有り難いなぁって」

 

「まぁ……!」

 

 コニーは目をキラキラとさせた。

 

「普段意識しない様な自然にすら感謝されるなんてぇ……!お嬢様は本当にお心が美しいですぅぅ」

 

 なにやら胸を両手でぐっと押さえて震えだした。いや、そんな拡大解釈しなくても……。

 あのルージ討伐以来、なにやらあっちこっちから神聖視され過ぎているような気がする。

 

「ほらコニー、行きましょう?」

 

 

 離されてしまった片手をくいくいと引いて歩き出そうとしたところで、こちらに向けて正門の方から大きな声がかかった。

 

  

 

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