14 コニーの事
「コニーは……コニーは嬉じいですぅぅ」
お父様&お母様と別れた後の私は、ぴすぴす鼻をすするコニーに手を引かれて歩いていた。そんなに泣かないで、と言うと逆効果なので慰めるのは止めた。
「お嬢様がお元気で……奥様と旦那様もお元気で……お屋敷の中が明るくて楽しくて……ううう、素晴らしいですぅ」
「ん……ありがと、コニー」
そう、素直さと純朴さがカンストしているコニーは、荒んだお屋敷の中の状況に心を痛めていたそうなのだ。
上っ面の会話すらほぼない夫婦。
異常に塞ぎこみ、今にも死にそうな娘。
確かに、仕える主人がこれでは心も痛むだろうが……。
「ねえコニー、その……今まで色々あったけど、辞めないでくれてありがとう」
当時を思い出した私は、思わずそう言ってしまった。
「アリス」でしかないときの私は、それはもうコニーに迷惑をかけた。
まだ本に対する恐怖症が発覚していないとき、コニーが善意で持ってきた本をバシンと叩いて落としたり。
朝ですよ〜と覗きこんできたコニーに、目が合いそうになって悲鳴をあげたり。
トラウマスイッチの宝庫になっていた私は、コニーの心にもトラウマを植え付けしてまったのではないかと言うくらい酷いことを沢山した。
自分の心を守るために、親しげな距離感のコニーを反射的に拒絶したのだ。
私が苦しい気持ちで謝罪と感謝を述べると、コニーはきょとんとした後しゃがみこみ、優しい瞳で私に目を合わせた。
「いいんですよ、お嬢様。……コニーは言っていませんでしたが、孤児院の出身なのです」
いつも通りの声で、コニーは唐突に意外なことを言った。
家族を持たないということだ。それなのに、掛け値なしにこの屋敷の家族の幸せを望むと言う。
「お嬢様が産まれることが分かって、私は人員増強で雇われたのです。そして、お嬢様がお生まれになって、お屋敷の中は喜びで満ち溢れました」
コニーはしみじみと思い返すように語る。
「コニーは、最初は羨みました。こんなに望まれて生まれる方もいるんだと。……でも、生まれたお嬢様にお会いしてわかりました。本当にお可愛らしかったのです」
小さな手のひらでコニーの指を握ってくださったのですよ、と私の手を取って再現する。
「その上、奥様と旦那様は私達使用人にもとても気を配って下さる方でした。身分の差がありますから家族とまではいかないけれど、お前達はこのお屋敷の一員であると言って大切にして下さいました。お屋敷が不穏だった時期もその扱いは変わりませんでした」
「コニー……」
その時を思い返すかのようにコニーは目を潤ませる。
「ですから……ずびっ……コニーは心から幸せな気持ちになれたのです……そして今、お屋敷はあの時のように華々しく幸せで……ふびゅぅっ」
だばっとコニーが涙腺決壊した。
慌てて慰める。
「わっ、コニー!泣かないで、ね?」
どっぱ。
あ、逆効果なのだった。
いよいよ脱水症状が心配になる状態のコニーを前に私は慌てた。とりあえず、廊下の窓辺にあった近くの椅子に座らせる。
「お゛、お見苦しいところをす゛み゛ばせんっ……」
ぴすぴす言っているコニーの腫れた目元を冷やすため、おしぼりを近くのメイドに頼んで持ってきてもらい冷やしてやる。
「ううん、いいのよ。コニーはお屋敷の皆のことを思って泣いてくれたんでしょう」
そう言うとまたコニーはうりゅっとしたが、なんとか踏みとどまった。
「うぅ……お嬢様、尊い……」
「え?」
何事かコニーが呟いたが拾えず聞き返すと、コニーはなんでもありませんと慌てて誤魔化し立ち上がった。
「……ふう、お待たせしてすみません。さ、行きましょうお嬢様!」
ぱあっと笑ってそう言ったコニーにようやく私も安心して、再び手を繋いで礼拝堂に向けて歩き出した。
◇
一階の公的区画の端から礼拝堂に入る。
先ほどコニーが言っていたように、礼拝堂へ続く廊下は途中から石造りになり、がらりと年代が変わる。
石造りの廊下は二回屈折している不思議な作りで、なんとなく、元々はお屋敷がある場所に礼拝堂の付属の施設があったことを窺わせた。礼拝堂だけが残り、そこにくっつけるようにしてお屋敷を建てたのではないだろうか。
「ふぁ〜、いつ見ても綺麗ですねぇ」
そうコニーが呟く通り、小さな礼拝堂は綺麗の一言だった。
現代の旅行番組で見るような、海外の大聖堂とは違う。大きさのイメージとしては、日本の結婚式で使われる礼拝堂の2倍くらいの大きさだろうか。
しかし天井が高くふんだんにステンドグラスを使用しており、石造りの古風さと相まって荘厳な雰囲気を持っていた。
「お嬢様、あの天井の絵は何の物語が描かれているか知っていますか~?」
そうコニーに言われて天井を仰ぎ見ると、一面にフレスコ画が描かれている。
パッと見は暗い部分と明るい部分に分かれている画面だ。その中に植物、雷、水、炎などの自然と人の群像が描かれている。
これは恐らくあれだ。
「創造の神話、だったかしら」
「流石お嬢様、当たりです!」
コニーが誇らしげににこにこする。
そしてお伽噺を語るように、柔らかい口調で語りだした。




