151 年越しの光景
ケモっ子&メトロ兄弟の来襲でてんやわんやした日から数日後。
私達は年越しの瞬間を全員で迎えるべく、準備万端にしてエイルダート辺境城の屋上に集まっていた。
「眠いですね……」
「はふ、そうですねぇ」
私達ちびっ子組は一度、夕食の後に眠って仮眠を取っている。
しかし今は、普段なら熟睡しているような日付が変わる直前の時間だ。かなり眠い。
「それでローリエ様、年越しの瞬間に見られる良いものって、一体なんですか?」
「……ふふ。アリス様が大好きなものですよ」
「ふわぁ……レティシアも知らないんですぅ。楽しみですねぇ~」
そんな緩い会話をしつつ、三人で目を擦りわくわくとその瞬間を待つ。
他のちびっ子達や大人達も近くで思い思いに集い、年越しの瞬間を待っていた。
「……来ました!」
「え?」
にわかに興奮し出し、くいくいと私の手を引っ張るローリエ様。その指さす方向を見る。
そこに広がっているのは、先程までと変わらない一面の星空だ。
濃紺の夜空に、きらめく星々。前世とは違う天の川が流れており、電気の明かりに侵食されていないそれは確かに美しいが……一体?
そう、疑問符を浮かべた時だった。
「え……!? ローリエ様、あれって!?」
レティシア様が悲鳴をあげる。それと同時に、私もそれに気がついた。
「あれは……!!」
誰かの声が響く。
……私はそれを、夢見心地で見つめた。
初めは小さな点だった。
しかし、月の明かりを反射してちらちらと光るそれは、みるみるうちに近づいてきて、あっという間に全体を視認できる距離になった。
それは、星空を泳ぐようにして飛翔する、巨大な白い龍だった。
素晴らしく優美な形をしている。立派な一本角や硬質な鱗が月と星の明かりを受けて輝き、その圧倒的な力強い肉体を闇夜に浮かび上がらせている。
アジア系の絵画に描かれるような細長い体をしているが、背には巨大な翼が何枚も生えていた。しかし重力系の魔法で浮いているのかなんなのか、その体は羽に頼らず滑るように中空を飛んでいく。
「年越しの時間になると、どこからともなくこの辺りへやってきて、国境沿いを飛んでいく不思議な龍なんです。……これを、お見せしたくて」
どうでしたか、と少し不安げなローリエ様に、私は大興奮して太鼓判した。レティシア様もきゃぁきゃぁはしゃいでいる。
「凄い……!!すっごいです、ドラゴン系の生き物は初めて見ました!! うわぁぁ、かっこいい……!!」
「レティシアもですぅ! ビックリしましたけど、綺麗ですねぇ~!」
周囲の反応を見ると、大人達は事前に知っていたのか感心するようにそれを眺めていた。
ちびっ子達は怖がったり驚いたりしているが、概ね大興奮だ。
一番はしゃいでいるのは「あれはどういう原理で飛んでいるんだ!?」と騒いでいるダヴ少年か。
聞けばあの龍は、大昔からこの付近で観測されているらしい。
しかし一度も国境を超えて入って来ておらず、人を襲う姿も見られていないことから、ちょっとしたスリルを味わえる年越しの風物詩みたいになっているらしかった。
他の小型ドラゴンなどは入ってくるのに何故入ってこないのかとか、そもそも何故ぎりぎりまで近寄って来るのかなど謎はあるらしいが、害のあるものではないらしい。
そんな話をしながら様子を見ていると、一際、城に近い場所へ寄ってきた龍が天高く頭を上げた。
そして、咆哮。
オオォ、オオン、と何度か巨大な声を響かせる。
それからしゅるりと体を翻し、あっという間に星空の彼方へ消えていった。
「……鳴いたのは初めて見ました」
少々ビックリしているローリエ様。ちょっとレアな現象だったらしい。
しかし首をかしげつつ気を取り直した様子で、くるりと私とレティシア様の方へ向き直った。
そして、惚けていた私とレティシア様へ、静かに笑った。
「……今年も、よろしくお願いします。これからもずっと仲良くしてくださいね、アリス様、レティシア様」
「!」
ふわりと浮かんだ、花のようなその微笑み。
一瞬見とれた私とレティシア様は、同時に満面の笑みで同じ言葉を返したのだった。
ひと足早く、アリス達の年越しでした。
恐らく次話から、冬休みの終わり&新学期ですヽ(*´∀`)ノ




