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131 前世


 オルリス兄様の言葉に、視界がくらりと揺れた。

 

 銀色の建物、空飛ぶなにか、見慣れない服。私の周囲に現れたというその映像が示すものは、どう考えてもひとつだ。

 

 銀色の建物は、高層ビル。空飛ぶものは飛行機。見慣れない服は、私が働いていた東京の人々……。

 バフォメットが現れた瞬間、走馬灯のようにして脳裏に走ったもの。それしか、ありえない。

 

「僕にも見えたよ。色々な場面が一瞬で過ぎるような感じだったから、よくは分からなかったけど」

「わ、私も見えましたぁ」

 

 ……特別に隠したり、大きな嘘をついてきたわけじゃない。でも、転生のことは誰にも言わずに来た。

 

「あ……」

 

 緊張して口が乾く。絶対に隠さなきゃいけないわけじゃない、と思う。

でも、なんだか言うのが少し怖い。

 

 緊張して顔を青くした私に、オルリス兄様が手を伸ばした。

 

「……無理して言わなくても、良いんだよ。責めてるわけじゃないんだ」

 

 そう言って優しく抱き寄せられる。

 その言葉に、手つきに、一拍置いて体の緊張が少し緩んだ。

 

「危ないことはダメだけど……。さっきも言ったけれど、誰にだって隠したいことがあるのは、わかるから」

 

 大きな手が頭を二、三度撫でてから、離れていく。

 見上げたオルリス兄様は昔の自分を思い出したのか、少し切なそうな顔をしていた。

 

 ヴィル兄様も、同じ顔をして口を開く。

 

「だから、無理強いはしないよ。……でもアリスは、僕らの問題を解決に導いてくれただろう? だから、できるなら力になりたいんだ」

 

 そんな風に心配気な兄弟と無言で頷くコニーの顔を見て、私は深呼吸した。

 

「…………三人が見たものは、……私の、前世の視界です」

「!」

 

 流石に想定外だったのか、驚きが広がる。

 その顔を見ながら、私は自分の思考を落ち着けて整理した。

 

 私が覚醒した時、転生を誰にも言わなかったのは、あの時の家族にさらなる動揺を与えたくなかったから。そして、言う緊急性を感じなかったからだ。

 

 でも状況は変わった。タロットのこともあるけれど、その前段階として、言うタイミングはあったのだ。

 それこそ空飛ぶ計画だとか、食の改革だとか。前世の知識を持ち込みたいのなら、実際の例や知識を情報共有するためにも、話した方が手っ取り早いはずだったのだ。

 それでも話すかどうかを考えすらしなかったのは、どこか怖かったんだろう。

 

 何が怖いのかに向き合って分析してみれば、それは「5歳までのアリス」と「前世を思い出した今のアリス」を別もの=別人として捉えられる事だったり、おかしな存在として距離を取られないかという、酷く漠然とした不安がほとんど。

 

 でもそれは、このメンバーの前では杞憂でしかないと断言出来る。

 

「順を追って、お話します」

 

 

 意を決して、私は話し始めた。

 

 

 

 

「ふぎゅぅ」

 

 ……口からおかしな声が出ているが、私はひとまず大人しくしていた。

 

 状況は限りなくカオスである。

 

 コニーにさめざめと泣かれ抱きしめられ、崩れ落ちたヴィル兄様とオルリス兄様が鼻を啜りながら顔を覆っている。

 

 前世がちょっとブラックだったこと、気づいたら死んでたこと、目覚めたら呪われてて家族が激ヤバ末期だったことなどに始まり、できるだけ私の体験の流れを簡潔に話したのだが……。

 まず過労で死んでるという時点でヴィル兄様が悲鳴をあげ、ついでに話したブラック企業での労働の話でオルリス兄様が崩れ落ち、目覚めた瞬間に家族が末期だったあたりでコニーが思い出し泣きした。

 まぁ確かに、文章にすると散々な流れである。わりと脳内ハッピー人間というか、なんとかなる精神の持ち主なのであまり深く考えてこなかったのだが……。

 純粋に人生ハードモードだったな、うん。

 

 もっとこう、オーバーテクノロジーな世界の話に驚いたり、シリアスな感じになると思ったのだが。

 現実はコントじみた阿鼻叫喚の場となった。

 

「お、おちちゅ、落ち着いて、ってかコニーちょっと緩めて? ね?」

 

 私をぬいぐるみのようにむぎゅむぎゅしながら泣くコニーの腕からなんとか脱出し、皆をなだめて回る。

 

「えっとですね、それに、そんなに言うほど悲しい過去って訳でもないんですよ?」

「いやだいぶ悲しいよ……!? 何、過労死って。そんなの今どき兵士とか傭兵でもならないと思うよ!? しかも、死を経験してるって……僕ならおかしくなるよ……!!」

 

 泣きながら突っ込むヴィル兄様をどうどうしつつ答える。

 

「いやまぁそうなんですけど……まぁ、死んだ瞬間のことは覚えてませんし、未練少ないですし、わりと趣味を楽しんで生きてましたし……そんなに暗い話じゃないんですよ、ほんと」

 

 すると、今度はオルリス兄様がぐすぐすし始めた。

 

「そうは言っても、あ、扱われ方がひどいよぉ」

「うーん……確かに12時間労働とかザラでしたし、残業代はゼロですし、月の休みは5日な上にその日も仕事の連絡してましたし、家に帰るのはいつも日付変わる直前とかで……売上悪いと一時間おきに社長から電話かかってくるからプレッシャーとストレスで頭痛と胃痛がクライマックスでしたけど…………あ、思い出したら胃が……」

「アリスううう!!!」

 

 ひいと悲鳴をあげたオルリス兄様が震え上がった。現代用語多いけどニュアンスで感じ取ってくれたらしい。

 

「お、お、おまけに、魂一つでこちらの世界に来るなんて、正真正銘の天涯孤独みたいなものじゃないですかぁぁ! それなのに、それなのにいつも前向きで強くて明るくて、たまに残念系だけど天使で……ううう!」

「残念系」

「そこも可愛いんですうう!!!」

 

 微妙にディスられたよ!? まぁ、コニーの前ではベッドでダラダラしたりオタク丸出しにしてるからなぁ。確かにおしとやかで裏表のないご令嬢とかではないわな。

 

 ごほんと咳払いする。ひとまず収拾をつけて、タロットとかの話を進めなければ。

 

「ええっと、その、私のために怒ったり悲しんだりしてくださって、ありがとうございます。……でも、本当に悲観はしていないんですよ。ね? なにしろこんなに三人に愛されてますからね、私!」

 

 元気アピールにあえてフフン! と胸を張ってみると、うっ! と呻いて胸を抑えた三人が地に沈んだ。

 

 ……なんでだ。

シリアスが続きすぎてたので、ちょっと息抜き?を入れてみました(笑)

ちなみにブラック企業での話は作者の前職での実体験w


次回はタロット関係の話になる予定です!

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