128 力ある言葉
発売からしばらくは、ちょいちょい宣伝させてくださいませ。
「転生したら乙女ゲーの世界? いえ、魔術を極めるのに忙しいのでそういうのは結構です。」1巻、発売致しました!
店頭でお見かけの際は、ぜひお手に取ってみてくださいね。
「羊皮紙と書くものが欲しいってのは、全然構わないんだけど……」
ヴィル兄様の困惑した声に申し訳なさを感じつつ、私は頼み込んだ。
「少しだけ。ほんの少しだけで良いので、お部屋にひとりにして下さいませ」
道中のバフォメットの件以来、より過保護な雰囲気が加速しているヴィル兄様とオルリス兄様、そしてコニーを前に、私はお願いのポーズをしていた。
ランプに照らされた宿屋の室内は暖色に染まり、馬車旅に疲れた体をすぐさまダイブさせたくなる様なふかふかリネンのベッドが目の前にあるのだが。
私には、確認しなければならないことがあった。
「部屋の前で、待機しているのはいいけど……誰も入らないで欲しい……っていうのは、流石に、うん……怪しすぎるかな?」
難色を示すオルリス兄様の意を汲んだように、コニーがうんうんと頷く。
「今から危ないことしまーすって言ってるようなものですよぉ!」
「うぐ……」
安全性は不確かなので強く否定できない。
しかしどうしてもひとりで確かめたいので、私は「秘密の手紙を書きたいから」と、皆に強く頼み込んだ。
その結果として、私は多数の羊皮紙と羽根ペンとインク壺を前に、宿屋の部屋にてひとりで座っていた。
「あれって……“悪魔”のタロット……だよなぁ」
私が確認したかったこととは、何を隠そう。
バフォメットが手のひらで隠すようにしていた、黄金色に輝く魔法陣のことだ。
それは円形をしていたが、外周部はスカスカで……それよりも、ほとんどを手で隠された中心部が私には衝撃だった。
それは長方形の複雑な絵柄だったのだが……恐らく、私が「前世」で見たことがあるものだったのだ。
「確か……こう描いて、こう」
オカルトマニアの記憶を頼りに、それを描き起こしていく。
昼間に垣間見たものと、わたしの過去の記憶が確かなら。
あれはライダー社から発行された、アーサー・E・ウェイト版……つまり、世間一般に最もポピュラーなタロットとして知られるバージョンの、“悪魔”のカードで間違いなかった。
ちなみにタロットには、様々なバージョンが存在する。
代表的なものだけでも、マルセイユ版、トート版、ウェイト版……その他数え切れないくらいの独自解釈やイラストのバージョンがある訳だが、私が今日、バフォメットの手の隙間から目にしたものは恐らくウェイト版に近いものだった。
それと言うのも、タロットはその神秘的な絵柄や数字から、暗示を読み取る占いに使われることが多く、それ故に細部の描写を細かく定められている。
例えば“魔術師”のカードならば、そこに描かれた人物は右手に道具を持って上に掲げ、左手を下に下げて地面を指さしている。
これは魔術を少しかじっているならば聞いたことがあるであろう、「上の如く、下も然り」あるいは「内の如く、外も然り」といったキーワードを表しているとされる。あるいは天のエネルギーを意図的に地に流しているとも。
そんな風に、持ち物から指先の動きに至るまで意味があるとされている訳だ。それ故に、特徴を見ればどのバージョンなのかを特定することは容易い。
さて、ここで私の話だ。
果たして、「激論!!オカルト」を熱心に読み込み、あらゆる魔術に関する本を読み、魔術師の知識を身につけて魔法学校の授業内容を妄想した~いと本気で思って行動していた前世の私が、タロットの絵柄とその細部、意味を知らないなんてことがあるだろうか?
「まぁ、知ってるし覚えてるよね 」
暗記するためにカードを手書きしたり注釈を書き込んだことがあったために、私は“悪魔”のタロットカードを四苦八苦しつつ羊皮紙の中に描き起こした。
「んん……」
目の前に描き出した“悪魔”のタロットを前に、私は唸る。
改めて目にしてみて、昼間にバフォメットが使用した魔法陣の中心が“悪魔”のタロットであると確信した訳だが……。
「だから何、ってわけでも無いんだよね」
こんな意味深すぎる前世知識を大披露する訳にもいかないから、皆には部屋を出てもらったんだけども。
しかし、何も起こらない。完成させた瞬間にバーンと悪魔が現れるとかそういう感じでもない。
「ん~……魔物専用?むしろバフォメット専用とか?いやそれはないか」
タロット……って言ったら、やっぱ占いだよな。ぼんやりと知識を思い返してみる。
色々な置き方があって……オラクルとかケルト十字なんとかとか、そう言うのを総称してなんていうんだっけな。
あぁ、と間抜けな声を出しながら手をポンと打って、私は口を開いた。
「“展開”」
―――その瞬間。
部屋は、魔力の奔流と暴風、そして膨大な光に、包まれた。
はい。
皆様お待ちかねの魔術要素、入りまーす!!(笑)




