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126 聖女様?

「レリック!」

 

 気を失ったレリックに駆けつけた、もうひとりの馬車の護衛……長いから便宜上、金髪君とレリック君とするか。

 金髪君は、駆け寄ってレリック君を抱き上げた。

 その横で、オルリス兄様が燃え残った灰や延焼した草地を魔術で濡らしたり冷却している。

 

「な……」

 

 わななく声が聞こえて目をやると、オニキスお兄様が顔を青くしていた。そしてぶるりと震える。

 

「な、なんだ今のは……ここは領都から1日もない距離だと言うのに」


 その反応も頷ける。あんな、生まれた瞬間からおぞましい程の悪意と殺意を持った……それも人を操る術を持った魔獣が生活圏内にほいほいといたら、怖くて外など出歩けない。

 私を抱えあげて退避していたヴィル兄様も不安げな声を出した。

 

「街道沿いだから早期発見できましたが、もう少し奥まった場所に芽吹いていたら開花していたかもしれませんね」

 

 確かに。馬車の御者席が高い位置にあるから偶然見えたが、そうでなければスルーしていた位置だ。そう思い至ってぶるりと震えてつぶやく。

 

「産まれたてであの凶悪さですから、もし成長していたらと思うと……恐ろしいですね」

 

 プランタの早期駆除は貴族の義務ということだが、これは思ったよりも重要な使命のようだ。

 

 そうして戦々恐々としていると、延焼の後処理が終わったオルリス兄様が金髪君に声をかけた。

 

「えと……だ、大丈夫、ですか?」

「……っ!! も、ももも、申し訳ございませんっ!!」

 

 金髪君はオルリス兄様に声をかけられたことに飛び上がって驚き、レリック君を放り投げて土下座した。

 ちょ、頭からゴンッて凄い音したけど。レリック君大丈夫かな??

 

「あっ、その人、今、頭ぶつけ……」

「この度は!!俺の相棒であるレリックがとんだ不始末を致しまして申し訳ございませんっ!!なにとぞ、なにとぞ、こいつはアホでせっかちでどうしようもないミスをするやつなんですが気のいいやつなんです幼馴染なんです、どうかお命だけは!いやむしろ罰するなら俺を!!」

「えっ、いやっ、罰とかそんな」

「罰では足りないということでしょうか……!?!?かくなる上は俺のお命でなんとか……!!」

「えっ!?お、おいのち!?!?」

「お命でぇぇぇ!!!!」

 

 落ち着け二人とも。特に金髪君。

 

 そもそも親しくない人と会話してる時点でオルリス兄様のキャパはパンク寸前だ。

 おまけにまくし立てられたせいで、体がうさぎのように震え出し、涙目がうるうるしてしまっている。

 しょうがない、と私はヴィル兄様の腕からぴょんと飛び降り、とことこ歩いて金髪君の頭に必殺・幼女ハンドチョップをかました。

 

「はぐうっ」

「落ち着いてください」

 

 端的に告げ、オルリス兄様にレリック君の気つけを頼む。

 すると兄様は安心したように頷いて、金髪君からさりげなくすすすと距離を取りつつ、しゃがみこんでレリック君を抱き抱えた。

 オルリス兄様のライトグリーンの長く淡い髪が、苦しげに眠るレリック君の顔を撫でてさらさらと落ちていく。

 

 ……んん、オルリス兄様は男のはずなのに、なんか聖母のように見え、る……??

 

 目をゴシゴシしても、オルリス兄様から突然漂いだしたキラキラエフェクトが消えない。

 

「はい。これを飲んで……飲めますか?」

「ぐっ、ケホッ、けほ」

 

 オルリス兄様が鞄から取り出した小瓶の中身を飲ませられ、むせたレリック君は気がついたようだ。

 しかし目の前でどアップになった、目を潤ませた傾国の麗人の微笑みにフリーズした。

 

「あぁ、よかった……。痛いところは、ないですか?」

「へぁ、あ、は、は、はひ…………。っていやあの!!」

 

 低いが繊細なオルリス兄様の声が心配そうに響く。それに真っ赤になって惚けていたレリック君だったが、はっ!!と状況を思い出したように飛び退って金髪君の隣に土下座した。

 

「もっ、ももも申し訳ございませんっ!!俺のせいで、俺のせいで皆様を危険に晒しました!!お守りできなかった責任はどうか俺に償わせてくださいっ」

「何言ってんだ、償うなら何も出来なかった俺も一緒だ!」

「あ、アルフレド……!!」

 

 …………。

 

 落ち着け。

 

 異様な暑苦しさと思い込みで突っ走る二人に、もはやどう対処したらいいのか分からなくなったらしく。

 いよいよ半泣きになったオルリス兄様が、私とヴィル兄様の後ろにぴゃっと逃げ込んできた。


 それを二人でよしよししてあげると少し回復したのか、ぴるぴるしながら顔を覗かせ、なんとか声を発した。

 

「そ、そもそも罰するも何も無い、です。貴方達は越境馬車に、付随した護衛であって、アリスやオニキス様直属の護衛……とは少し、違うし。本来なら馬車で待機していても、良かったくらいなん、だし……えと……」

 

 そんな風に、いっぱいいっぱいになりながらレリック君と金髪君ことアルフレド君に優しい言葉を投げかけたオルリス兄様。

 

 すると、護衛二人はふわ……っ、と頬を染めてからお花エフェクトを盛大に散らした。 


 …………んん? 

 

「聖女様……!!」

 

 ………………んんん???

 

 聞き捨てならない謎単語が聞こえたところで、オニキスお兄様から冷静なツッコミが入った。

 

「まぁ、プランタを軽率に切りつけた事やあっさり操られた事については護衛ギルドに文句を言うが」

「ぐふぅっ」

 

 容赦ない一言に二人から間抜けな声が漏れた。

 

 後でヴィル兄様が解説してくれたのだが、そもそもこの二人は越境馬車を借りる際に付随してついてくる、対人の護衛とか御者みたいなものらしい。辺境ではまた別だが、皇都付近では一般的な存在だそうだ。

 なにしろ貴族は一般人より遥かに強い魔力を持っていることが普通で、そうでない馬車護衛より強い事が多いのだから頷ける。

 魔獣やプランタを発見したら報告だけして手を出さないものもいるそうで、貴族任せにしないで率先して狩りに行ったという点では意識の高い御者と言えるだろう。

 オニキスお兄様の馬車からは護衛が離れていないが、それが一般的なのである。

 

「そ、それはその……。俺らも貴族の端くれの端くれなので、勤めを果たしたいと…………お、お、思いましたのに、結果とんだ不始末を……!!」

 

 ……以下、再び護衛二人の熱血友情劇場とオルリス兄様聖女認定イベントが繰り返されたので、チョップで強制終了した旨を、ここに記しておく。

 

9/27修正点:チョップ相手はレリック君ではなく金髪君ですw間違えてしまいました。



護衛氏、クビは回避(笑)

説明会というかギャグ回というかなアレでした。


直前なので、宣伝を失礼しますね。


「転生したら乙女ゲーの世界?いえ、魔術を極めるのに忙しいのでそういうのは結構です。」1巻が9月29日発売です。

加筆しまくってますので、ぜひぜひお手に取ってくださいませ。

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