123 スキタイの羊
静かに停車した馬車の中に、微かな緊張が走った。私を抱えるヴィル兄様の手に少し力が入る。
場所は街と街の間で、遠くに農地が見えるような場所だ。そんな街道で停車するのは、大抵問題が起きた時と相場が決まっている。
小窓を開けたコニーが御者と護衛と話している。車内に頭を引っ込めたその顔は少し青い。
「ま……魔獣が出たようです。街道沿いに……」
「!」
領都に近い場所でも、全く出ない訳では無いらしい。噂をすれば影か。
しかしぶっちゃけコニーの言葉よりも、それを聞いたオルリス兄様が一瞬で魔術師モードになった方に驚いた。切れ長の目がすうっと細くなり、雰囲気が鋭くなる。
普段はおっとりゆっくりな話し方も、このモードになるとテキパキとした印象になる。
「護衛はなんと?」
「まだプランタだから危険はないですが、念の為に魔術師の方にもひとり来て欲しいと言ってますぅ……」
「分かった、僕が出るね」
「えっ、オルリス兄様!?」
兄様が馬車から出ると聞いて驚く。しかし、プランタだからまず危険はないよとオルリス兄様は微笑んだ。
「そうなのですか……? ぷ、プランタってなんですか?」
「ん? あぁ、第一学年は魔獣学はやらないんだっけ」
これまた知らない単語を問うと、ヴィル兄様が答えてくれた。
「魔物や魔獣がどうやって生まれるかは知ってる?」
「いえ……親が子を産むのではないのですか?」
「ううん、違うよ。あれらは家畜と違って親を持たないんだ。その代わり、植物に寄生するようにして地中から生まれてくるんだよ。で、まだ寄生したままの、目覚める前の状態をプランタって言うんだ」
ヴィル兄様の説明を聞いて脳裏に浮かんだのは、前世でいう「バロメッツ」の姿だった。
正式な名前は「プランタ・タルタリカ・バロメッツ」、別名スキタイの羊とも言う。
植物の先端に小さな羊が眠ったように宿っているイラストを、植物史の本で見たことがあった。
「プランタを見かけたら必ず狩らないといけないんだ。魔物として開花する前なら平民に任せてもいいのだけれど、その衝撃で目覚めてしまうこともあるからね。これは強い魔力を持つことが多い、貴族の義務のひとつとして決められているんだよ」
教えられた情報を咀嚼する。
衛石の加護が強い街中で産まれることはほとんどないにしても、思ったより身近な存在だったようだ。
「ヴィル、アリスを見ていてね」
「分かりました、兄上」
そんな短いやり取りをして頷きあったバージル兄弟。
馬車から出ようと立ち上がったオルリス兄様が、安心させるように私の頭を撫でた。
……が、私は、その手をはっしと掴んだ。
「オルリス兄様。……私も、連れて行ってくださいませんか?」
「え……ええ!?」
真剣な声でそう言った私に、馬車の中に兄弟とコニーの驚きの声がハモった。
ばしばし出したかった設定を放出中w
バロメッツは検索すると可愛い絵が出てきますよ。綿花のことを誤って伝えたものが元らしいです。
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