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122 衛石

「……それで、イヴァン様がじりじりと近寄ってから猫の子に飛びかかったんだけど、ふざけてただけみたいでね。そのまま芝生の上でゴロゴロと猫と戯れ始めて……」


 可愛すギルティか。

 

 兄様秘蔵のケモっ子エピソードに釣られて抱っこでそのままそちらへ移動させられた私は、そんなお話を身悶えしながら堪能していた。ヴィル兄様も満足げなので、どうやら私がオルリス兄様を独り占めしていなければいいらしい。

 

 しかしなんというか、学期末前後からバージル兄弟と私の距離が物理的に近い気がする。お父様並に近い。

 

 まぁ、護衛対象である貴族……特にローヴァインの子供が大人の護衛に抱っこされたり、身の安全のために寄り添って歩くのは、実はわりと見かける光景だったりするので、問題は無いのだが。

 

 意外とこの世界では「貴族だから節度を」とか「気軽に身を寄せるのは御法度」という風潮は少ない。

 そんな事を言っていては、魔法とか魔獣とか犯罪者とか、予想もつかないところから襲いかかってくる、思いがけない危険から対象を守れないからだ。

 

 思い返してみると、入学してからというもの。

 暴走したり暴走に巻き込まれたり、夜に刃傷沙汰に遭遇したり決闘したりと、危険な事が多かった。後からまとめて話を知ったオルリス兄様が真っ青になって倒れそうになったと聞いて、酷く申し訳なく思ったものだ。

 さらに辿れば、ルージ事件もある。

 

 しかも今は旅行中なので、無意識に手を離したくない、近くに置きたいと思われているのかもしれなかった。


 その表れの一環として、オルリス兄様は時おり、馬車の窓から外をじっと眺めていた。

 私を抱っこしている時はヴィル兄様がそうしていたので、特に示し合わせている様子はないが、二人とも交代で外を警戒しているようだ。

 この馬車とハイメ兄妹が乗る馬車には外側に護衛も同乗しているのだが、気になるのだろう。

 

「オルリス兄様、今はどのあたりですか?」

「うーん……皇都と、ハイメ領の境目を超えてから時間が経っているから、領都の近くまで来ているよ。地名で言うと、クラルスの辺りかな」

「へぇ……」

 

 一度だけハイメのお城には行ったが、その時は道中ほとんど寝かされていたので土地勘はまったく持てなかった。

 私はまだ地名を言われてもピンと来ないが、二人は親族としてハイメ城に訪れた事があるので分かるらしい。

 

「それなら安心ですねぇ」

 

 静かにしていたコニーが、ほっとした様子で胸をなで下ろした。武器や魔術を扱えないコニーがそうなるのも無理はない。

 

 というのも、この世界の。

 いわゆる魔物・魔獣の生息地というのは、領と領の間であるとか、国と国の間であることが殆どだからだ。

 

衛石(えいせき)の加護の範囲から出ることなんて、一般の人はあまり無いからね。緊張するのも無理ないか」

 

 ヴィル兄様がそう言うと、コニーは頷いた。

 

「貴族の馬車には小衛石が付いていると聞きましたし、危険なことは滅多にないと知っているのですけど……やっぱり、少し緊張しますぅ……」

「小衛石?」

 

 知らないファンタジー用語にぴんと反応すると、オルリス兄様がこちらを向いた。

 

「衛石は知っているのかな?」

「はい。国や領地の中心部にほぼあるという、魔物避け……ですよね?」


 これはスーライトお姉様のブートキャンプで履修済みだ。

 私が答えると、うん、と微笑んだ兄様はゆっくりとした口調で説明を再開した。

 

「衛石は持ち運びできないから、その代わりに魔よけとして持ち歩くのが小衛石と言うんだよ。かなり高価だからこういう越境馬車にしか使わないんだけどね。衛石とは素材からなにから別物らしいけど、効能が似てるから名前も似てるのかも、だね」


 おお、と聞き入ってしまった。否応なしにテンションが上がる。

 なんというか、ファンタジーな世界ならではのアイテムだ。

 

 ちなみに、この世界の魔物が領地の間や国境にしか出現しないのは、基本的に「衛石の加護の範囲から遠ざかった場所にそれらが現れる」という法則のためだ。たまにまぐれはあるそうだが。

 

 皇都の中心部に大衛石と呼ばれるものがあり、それは国土全体に及ぶほど、薄く広い加護を。

 そして各領地にある衛石が、領都を中心に中規模な加護の手を広げているという。

 つまり、領地と領地の間には弱めの魔物が。そして大衛石と衛石両方の加護から外れる国境付近には、より強大な魔物が発生する可能性がある、ということである。

 

 この衛石たちは人工物ではなく、大昔からそこにあったものだそうで。

 その影響範囲に合わせて今の国々の国境が引かれた、と言っても過言ではないそうだ。

 

「私達は加護の中で暮らしていますけれど、確かそうじゃない国や、移動民族もいるのですよね?」

「うん。どんな暮らしなのか、僕達にはあまり想像がつかないけどね」

 

 ヴィル兄様がそう言うと、コニーが激しく同意した。そうだよね、相当な自衛手段がないと無理だよね。

 

 ……そんな話をしていた時。

 

 馬車が突然、静かに止まった。

 

お外に出たので、詳しい話を出しました。イメージが伝わるか不安ですが……(;`・ω・´)

しかし、こういうファンタジーな感じは書いていて本当に楽しいw

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