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8 呪


 気分は決戦。私、アリスの頭の中ではホラ貝の音がブオーブオーと鳴り響いている。者共であえ!であえ!

 

 そう、早速今日の夜に毒婦退治と洒落こむことになったのだ。

 

 時間が経てば経つほど、私の身の危険が高まる。だからこそ短期決戦で行くことにした。

 

 え?ルージを解雇して追い出せば良い話じゃないかって?

 

 それがそうもいかないのだ。

 

 何故なら、ルージは呪を使っていると言うのがお父様の見立てだからである。

 呪とは、魔法の一種である。魔法より原始的で、個人によりルールや形の違うものをそう呼ぶそうだ。

 

 ルージほど悪質で行動的な犯人の動きに、何故お父様や執事が気付けなかったのか。

 更に、私は何故両親の元へ逃げたり真実を確かめようとしなかったのか。お父様とお母様はもともと内気なタイプでもないのに、何故ここまでこじれてしまっているのか。

 

 そこに思考誘導系の呪が関係している可能性が高いらしい。

 

 ここにきて、ウキウキファンタジー要素の登場である。全然嬉しくないが。

 

 今私の横で待機しているアルフォンスさんによると、瞳になんらかの誓約をかけていると予想されるそうだ。

 というのも記憶にある限り、私もお父様もアルフォンスさんも、ルージと目が合ったことがない。(私の場合は脅された時を除く)

 

 これは貴族と平民など身分の差が激しい場合おかしな事ではないのだが、ルージは没落しているとはいえ男爵家の血を引く娘なのだそうだ。

 少なくとも5年以上屋敷に勤めているのに目も合ったことがないというのは考えてみれば不自然だと言うのが見解の一致だった。

 

「しかしやはり、決め手はお嬢様が脅されたときの状況ですね。目を合わせた時お嬢様はあれの瞳に恐怖を感じ、黒いモヤに纏わりつかれるように感じたと仰っていましたが、それは恐らく呪の気配でしょう」

 

 アルフォンスさんは悔しそうに言う。

 私もそれに同意する。

 

 しかし呪が使われているとしても、なぜ追放してしまうのはダメなのか?国外とかに追い出して距離を稼いでもダメなのか。

 お父様は作戦を粗方決めてすぐ、私に任せておきなさいと胸を張ってお部屋から出ていってしまったので、その事をアルフォンスさんに聞いてみる。

 

「呪とは命の繋がりでもあります。もし追放したとしたら、恨みからお嬢様にかけた呪が強化されたり最悪の場合命に関わる可能性もあるのです」

 

 ひぇっと声が出た。なんだそれ生き霊の祟りみたいだな!

 

 アルフォンスさんは怯えた私を安心させるように、形のよい眉を下げて微笑んだ。

 

「ご安心ください。もしもの時は我が命に代えてもお守りしますよ」

 

「あ、あぅ……」

 

アルフォンスさんのイケメン執事発言に思わずたじろぐ。生執事すごい。

 

「それに、今はお嬢様の精神力が呪に勝っておりますが、体調や精神の不調でいつ呪が効果を取り戻すとも分かりません。私や旦那様にしても、お嬢様の回復に強い衝撃を受けたお陰で今は正気ですが、いつまた思考に制限を受けるかわかりません。解呪するにこしたことはありませんよ」

 

 まぁ、それもそうだ。

 もうほとんど分からないとはいえ、心を落ち着けて内面を探ってみると、あの時感じた黒いモヤモヤのようなものが僅かにあった。これが恐らくそうなのだろう。


 さてさて、計画はざっくりとこうだ。

 

 夕食の後、お父様はいつも書斎に移るので、そこで第一の罠を仕掛ける。その時間はルージがお茶汲みすることが多いそうだ。

 そして二人きりになった時に誘惑して、深夜にお父様の寝室に来るよう誘導する。

 

 ちなみにお父様は一度お母様のお部屋に行ってから書斎に移ると言っていたけど……ちょっとそこは心配である。お母様に何を言うんだろう?

 

 まぁともかく、頃合いを見て私はアルフォンスさんの影に隠れてお父様の寝室へ向かうことになっている。そして続き間に隠れて、お父様の合図に合わせて罠にかかったルージの前に登場する予定となっている。

 

 何故書斎で決着をつけず寝室まで呼び出すのかというと、ルージを喜ばせて油断させるためだ。なにかハッタリをかますらしい。

 そしてもうひとつの理由は、お父様の部屋にしっかりと仕掛けた魔法に嵌めるため。呪を暴くための罠とお父様は言っていたが、これはまぁファンタジーなあれだろう。

 

 現状を整理するため、しばらくアルフォンスさんと話をしていた私はいつの間にか眠っていた。どうやら幼女の体力でいきなり色々し過ぎたためらしい。

 

 アルフォンスさんに見守られながら眠り、ほぼ流動食の夕食を少しだけ取ってまたうつらうつらとした頃、部屋にノックの音が響いた。

 

「アリス、入るよ」

 

「お父様!どうぞ」

 

 静かにドアを開けて入ってきた父は、私の姿を見てゆるりと微笑んだ。

 

「ああ、お前の近くはほっとするな……いやぁ、あれは酷かった」

 

 そう言うと父はどかりと椅子に座って疲れた顔をした。どうやら書斎での罠は成功したようだ。

 

「呪を自覚して気付かれぬよう抵抗してみれば、思考誘導と同時にとんでもない穢れを感じたよ。あんなのが家の中にいたのに気付かなかったとは信じられない」

 

 おお、やっぱあれはキツいよね。

 

「私も旦那様も魔力抵抗はかなり高い方ですが、それを掻い潜ってくるほどですからね。秘めた執念もそれなりでしょう」

 

 アルフォンスさんも想像して顔をしかめている。

 

「ともかく、仕掛ける。1時間後に寝室に来てくれ」

 

 私とアルフォンスさんは覚悟を決めた顔で頷いた。

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