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今回は説明回なので短くしました。
その日は、デュエル・オブ・カードマスター(通称DOC)の最新パック発売日であった。3年前に最初のシリーズが発売されてからその人気は衰えることなく今に至る。
「なあ、勝利。お前は何狙いだ?」
「もちろん【ジェルドーの騎士】だ」
「そっか、【傲慢の獣 エル】はどうするんだ?」
「俺のプレイスタイルには合わないと前にも言ったはずだぞ」
その高校生、穐谷柔侍と勇飛勝利も最新パックを買うため、学校からの帰りにCSドンマイに直行した。
「恭弥さん、パックの残ってる?」
「ああ、二人とも来ると思ってとってあるよ。ほら」
「ありがとう!! 勝人、早く開けようぜ!!」
「わかっているけど、少し落ち着けよ」
二人は店主の恭弥からパックを買い、フリースペースの椅子に腰かける。そこでパックを開け始める二人。
「おっしゃ!! これで大罪獣が全部そろった!! 俺のデッキは最強の力を手に入れた!!」
「そうか、僕の方は出てくる気配すらないな」
大罪獣とは、この最新パックで揃う七体の黒属性悪魔族のモンスターのことである。
柔侍は前のパックまでで六体までは揃えていたので、今回のがそろえばそのデッキが完成するのだ。
「喜ぶのは分かるが、店では静かにしろ。何回も言わせるな」
「おお、メンゴメンゴ」
「全く……」
「うん? なんだろこれ、ミスかな?」
勝利がパックから取り出したのは表に何も描かれていないカードだった。
「あれ、勝利のにも入ってたか?」
「えっ? 恭弥さん、他にも入っていたんですか?」
「ああ、これで七枚目だよ。全くこんなミス珍しいな」
「……今それ持ってますか?」
「ああ、返品でパックごと交換したからあるけど?」
「それ、まだ開けてないパックと交換で譲ってください」
「おっと、勝利はまだミスカード集めているのか?」
「ええ、なんか見ていると安心できるんですよ」
勝利はミスプリントやテキストの誤字脱字があるようないわゆるミスカードを集めるのも趣味だった。休みの日には一日中それをファイリングしたものを眺めることもざらだった。
もちろん実際プレイングすることも大好きなのだが。
「わかった今とってくる」
「またそんなものを……」
「いいだろ、僕の趣味なんだから」
「はん! だからお前はレアカードが当たんないんだよ」
「どうしたんだ? おかしいぞ」
「うるせー!! 俺に指図するな!!」
柔侍はいきなり吠えた。そこにミスカードを持って恭弥が戻ってくる。
「おい、店の中は静かにしろと何べんも言っている……」
「うるさい!! 俺様に指図するな!! こんな小さな店の店主の分際で!!!」
「!!!!」
「おい!! 今のは言い過ぎだぞ!! お前どうしたんだよ? さっきまで何ともなかったじゃないか!?」
「うるさいうるさいうるさい!!!」
そのまま柔侍は、今構築したばかりのデッキだけを持って店から飛び出した。
「おい!! 待てよ!!!」