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間違いだらけのタンテイさん  作者: 河崎 奏
4/4

見知らぬ指摘

あー!

やっとですよ

やっと更新できました。


年末から3度に渡りデータがそれはそれは飛んじゃって…

4


夕刻の防災無線がカラスの子を奏でている。家の近所の公園には飛ばない野球ボールと地面に転がった紅い金属バット、それと僕。そして優しい女性が言う。

「もう、大丈夫だよ」

幼い僕の頭を女性の手が優しく撫でた。その面影はなんだか知っている気がして。


唐突にまどろみは破壊された。


梅雨の時期に入った。教室で放課後、雨が止むのを待ちながら居眠りをしていた僕は信じられないほどに文字通り、見知らぬ女子生徒に叩き起こされた。

机に突っ伏して寝ていたのだが、いささか骨ばったげんこつに似た拳を後頭部に一撃貰い、僕はまるでバネを仕掛けたピエロのように飛び起きる。

人が気持ちよく寝ている時になんて奴だと思って見てみるとやっぱり知らない奴。

癖のないショートヘアーに気の強そうなつり目が印象的な女。僕のイメージだと女子生徒というには少々背が高く、僕とそう変わらないように思える。

実際僕は座って相手は立っているわけだから身長など正確には測れないのだが。

この時の僕は無理矢理起こされてすこぶる機嫌が悪かった。

一体どこのやつなんだ。苛立って名札を見れば偶然に驚くほかなかった。

静かに唸り、言う。

「あんたか、笹木ってのは」

確認と精一杯、嫌悪という毒を込めて。

「悪かったね、寝起きのところ」

低めの声で放たれたそれに僕は顔をしかめる。お前が起こしたんだろう。それでも構わず笹木は喋り続ける。

「単刀直入に用を言わせてもらうよ。あんたがあたしを犯人じゃないかって疑ってるやつよね。だけどあたしは犯人じゃない。あんたんとこの答案を盗んだところであたしに得はない」

そうだ。ごもっとも。

こちらもいつもよりいくらか声を低めて話す。

「ああ、確かに僕はあんたを疑っていた。可能な条件を満たしている人間は残念ながらあんたしかいないんだ」

僕は立ち上がった。期待はずれだが思った通り、立ち上がっても目線はあまり変わらない。

「僕は正直ものすごく迷惑をしている。クラスでもすっかり犯人扱いだ。犯人には早々に自首してもらわないといけない」

寝起きで機嫌が悪く余裕がなかった心に少し余裕が生まれてきた。

「そんなのあたしは知らない。それは単なる一般人に話しているのと変わらない」

笹木は目を細め、ため息をついた。

「別に僕はあんたを犯人だって決め付けているわけではない。ただ、小田切に聞きに行ってもらったのはあくまで確認だ」

「確認?」

「ああ。誰が犯人か考える時に現場に行った人間を探るのは自然なことだろ。僕は手始めに一番単純なことから始めただけだ。そして目撃証言からあんたに行き着いた。だけど考えてみれば見られるリスクを負ってまで、盗みに行くものでもないと思ってな」

それとなく、窓の外に視線を移す。

梅雨の雨が降る音と匂い、雨粒で表面が光っている芝生があった。

「結局、何が言いたいの?」

そうだな、そう言い僕は腕を組む。腰を窓枠に落ち着かせ再び笹木を見た。

「あんたは犯人じゃないと僕は思う。ということだ。改めて考えて見ると少し考えが足りなかったと今は思っている。だってそうだろう。人は嘘をつけば必ずどこかでボロが出る。そのボロを隠す手立てのないこの教室で、しかも疑っている人間の目の前で堂々話すとはリスクが大きすぎて到底、割りに合わない」

一呼吸置く。

僕は無意識に自分が受けた不条理を他人に課していた。僕自身、誰かの責任を自分に押し付けられるのは嫌だし、それは笹木も同じだろう。だから僕はできるだけ飾らず誠実に言葉を作った。

「申し訳ない。疑ってしまって」

平手打ちの一つは食らうだろうか。いや、それでも軽いほうか。どちらにせよそれを甘んじて受ける覚悟はできている。しかし予想は外れ、

「まぁ、犯人じゃないって思ってんならあたしはそれでいいけど」

あれ?平手打ちは?と危うく口に出すところだった。いや、別にして欲しいわけではないけれど。

笹木は僕から目を離し窓の外を見る。

僕もつられて見てみると雨はさっきよりも弱まり傘がなくても帰ることができるまでになっていた。

そういえば茜に買い物を任されていたような…時刻は5時を回っていた。

用が終わった笹木はそれから何も言わずに踵を返す。教室を出て行く間際、

「伊瀬谷、だっけ。一つ聞きたいことがあるんだけど」

半身を引いて振り返った。

「あんた、噂では女が苦手っていって有名だけどあたしから見るとそうは思えない。本当はどうなってんの?」

反射的に顔がこわばる。混乱した頭の中で苦手になるきっかけを作った事件が走馬灯のようにフラッシュバックした。

あんなことはもうごめんだ。

あの事件から僕はできるだけ女とは関わらないって決めている。

それは一言で表すと

「僕は女性が苦手だ」

「小田切さんに頼みごとをして、あたしと平気で話して謝りすらした。生物係は白鳥先生と普通よりも関わる機会が多いわ。それでもあんたは苦手って自信を持って言えるの?」

返事はいらないと目で言い笹木は去って行った。

雨は完全に上がって日差しが出てきた。


総面積に東京ドームという単位が用いられる学校から帰るために僕は未だ見えない校門に向かって歩いていた。

「今から帰るの?」

右後方から声がした。

「あなたも大変ね、核心に迫られて少し焦った?」

それは白鳥だった。

「なんですか、盗み聞きでもしてたんですか?」

「あはは、ごめんって。けど私もあの子のいうことわかる気がする」

ああ、やだな。白鳥は続けた。

「あなたのこだわりって何?」

今日何度目かの渋面を作り心中で愚痴をこぼした。

「なんて日だ。とか思ってる?」

そこが僕が白鳥の一番大嫌いだと思っているところだ。人の心を読んでなんでも知ってるみたいに振舞ってきやがる。

白鳥に向き直り対戦の姿勢を取ってから僕は言う。

「話の繋がりが見えないんですが。なんなんですか」

当回しに教えないと言ったつもりなのだが、白鳥は知ってか知らずか相変わらず「繋がりはなくはないのよ。私が考えるに伊瀬谷のこだわりというか癖って逃げることなんじゃないかって思うのよ。それにこだわりすぎてすごく不自然になってる。心当たりない?」

「なんでそんなことーー」

「あなたの間違いを指摘してるのよ。ああやっていつまでも逃げたりすると、そのうちに本当に物に対して本気になれなくなる。立ち向かえなくなる」

いつの間にかたたえていた微笑みは消え、その目には目に鋭さが宿っていた。

しかし沈黙はそう長くは続かない。

西日が眩しくなり僕が目を細めた時、白鳥は挨拶を言い残しすたすたと校舎に引き上げて行った。

いつなん時も取り残されるのは僕なのだ。

今回もありがとうございます


みなさんには何かこだわりってありますか?

私は不要に自分の心情を言葉にしないことですね。


次回もいつになるかわかりませんがよろしくお願いします

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