第8章 カネリアの行方
フードの男達に大きな袋の中に入れられ運ばれたカネリアが次に目を覚ました場所は、知らない屋敷の部屋にあるソファーの上で両手両足をきつく縛られていて、微かに兄がいる感じがするのだがはっきりとは分からず不安気に下を向いていると、突然部屋の扉が開き外から20代くらいの女性が入ってきてカネリアを涙目で見つめながら、
「ごめんなさい、こんな事になってしまって……父は本当はとても優しい人なの、母が亡くなってからいつの間にかこんな事を……許される事では無いことは分かっているの、罰は私も共に受ける覚悟よ、私は父を止められなかったけれど、せめてあなただけは逃げて欲しいの……」
震える声でそう言いながら足を縛っている縄を解こうとしている時後ろの扉が静かに開き男性の声で、
「何をしているんだ、ファーナ?」
と言われファーナと呼ばれた女性は驚きの表情で振り向くとすぐさま男性に近付き、
「お父さま、もう止めましょうこんな事は!! お母さまはもう亡くなったんです、今はお母さまより街の人達の事を考えなければいけないのに……」
そう言っている途中で〔男〕は女性の頬を強く叩き倒れた女性に、
「何を言っているんだ! これはお前のためにしている事なんだぞ!? お前は口を出すんじゃない!!」
と怒鳴りつけ今度は冷静な口調でドアを指差し、
「出て行きなさい」
そう言われると女性は痛む頬を押さえ涙を流しながら素直に部屋を出ていき、その後〔男〕はカネリアに近付いて目の前で片膝を折るようにすわると、
「私の屋敷へようこそ、カネリア・ファームよ」
と言って微笑むと、
「手荒い歓迎ですまないね、君の仲間を連れてくる事は出来なかったものでね」
そう優しげな顔から邪悪な笑みへと変貌させて言われたカネリアは恐怖で震えそうになるのを必死で堪えながら、
「兄さんを誘拐したのはあなたですか?」
努めて強気な口調で言うと〔男〕は、
「そうだよ」
と短く答えて頷くと、
「お兄さんに会いたいかい?」
そう尋ねられカネリアは困惑顔で〔男〕を見つめていると彼は邪悪な笑を崩さずに、
「すぐに合わせてやっても良いが、私の〔願い〕を叶えてくれると今ここで〔約束〕してくれるのならば、お兄さんの所へ連れて行ってあげるよ」
と言われ未だ困惑顔のカネリアは、
「あなたの〔願い〕って何ですか?」
そう尋ねると〔男〕は微笑みながら、
「簡単だ……私が描いた魔法陣の上で私が言う呪文を2人で繰り返し唱えてくれればいい、ちなみにこの女性を思い浮かべて唱えてくれ」
と小さな人物画を見せられたカネリアは突然頭の痛みに襲われ、何かを思い出しそうだったのだがなぜか頭の片隅に引っ掛かるだけで何も思い出せなかったので黙り込むとその様子に訝しんだ〔男〕は低い声で、
「どうしたんだ?」
そう聞かれハッと我に返ったカネリアは強気な口調で、
「……なんでもないです」
だけ答えると〔男〕は頷き、
「それで、どうする? 私の〔願い〕を叶えてくれるのかな?」
再度そう尋ねられたカネリアは本能的に兄のユレイヤにも危機が訪れる事を悟り彼女も低い声で、
「嫌だ、と言ったら?」
と尋ね返すと〔男〕は突然大きな声で笑いだし驚くカネリアを見つめながら、
「やはり双子だな……良いだろうその答えを言うよ、君達の村と森を焼き払うとしよう」
そう邪悪な笑を浮かべて言われたのでカネリアは背筋が凍るような思いで〔男〕を見つめていると、
「反応も同じか、まぁ双子だからな」
と小さく呟くと、
「もう一度聞く、答えは決まったか?」
そう尋ねられ苦渋の決断を強いられたカネリアは自分の事よりユレイヤや村と森を重視して口を結んだ後小さな声で、
「……あなたに従います」
そう言うと〔男〕は笑を深めて、
「よろしい、では君のお兄さんに会わせてあげよう」
と言うとカネリアの足の縄だけを解き、
「ついてきなさい」
そう言って前を歩いて行くので後ろ手で縛られたまま〔男〕に付いて行くカネリアはしばらく歩くと廊下の真ん中に地下へと続く階段が現れ、〔男〕が降りていくのでついて行くとその先に広い部屋があってカネリアはその部屋を驚きの表情で眺めていて、その理由が部屋の床に見たことのない絵のような線と文字が白い石で描かれていて、さらに見渡すと円の中央にユレイヤがフードの男達の前で立っていてそれに気付いたカネリアは、
「兄さん!!」
と喜びと安堵の声を上げると俯いていた彼もカネリアに気付き微笑んでくれていて、目に涙を浮べながら〔男〕達と共に近付くとユレイヤも後ろ手で縛られていて触れ合う事は出来なかったが、久しぶりに会った兄は少しやつれてはいたのだが元気そうだったのでさらに涙が溢れて来て話しをしようとしたのだが〔男〕が、
「感動の再開は後にしなさい、今は私の〔願い〕が先だ」
そう言ってフードの男達に命令して2人の腕を縛っていた縄を解かせ、彼は2人に手を繋ぐように指示してさらに絶対に話しをしないようにと言われ、緊張しながらも手を繋ぐと〔男〕達は魔法陣から出て少し離れた場所から、
「では始めるぞ」
と言われ2人は真剣な表情で頷くと〔男〕は古代から禁忌とされていた黒魔術の呪文を唱え始め、そうとは知らない2人も称え始めて数分後その呪文が中盤まできたその時だった。