第四章 ユレイヤは
カネリアとケイケナが〔ムーノラの街〕に着く前ファーム族の村を出て森を歩いている時、ユレイヤは自分が入れられている〈袋〉を自分の知っている呪文の全てを使い、破ろうとしてはいるのだがどんな呪文を使っても跳ね返され全く破れる気配はなく最後には疲れ果て眠ろうとしたその時、突然辺りが騒がしくなり人の〈話し声〉が多くなったのでユレイヤは外の音を聞き取ろうと耳を澄ませていると、突然下からの衝撃があり驚いて口を縛られているために濁った声をあげていると、周りの音がより大きくなりまた耳を澄ませると彼を誘拐した人間達の声がなにやら楽しそうに会話を始めたのだが、彼らの話はあまりわからなかった……と言うのも彼らは皆声を使い過ぎて出にくくなってしまった者のようなガラガラな声で、彼らの〈会話〉を聞き取るのは至難の業だったのだがいくつかわかった言葉があり、それは〔フェアリー族〕と〔エルフ族〕で、この二つの言葉を聞いたユレイヤはなぜかとてつもない睡魔に襲われすぐに眠りに落ちて行った。
ユレイヤは夢の中で白いモヤがかかったような場所にいて双子の妹が自分を助けるために旅に出たと言っていたので、始めは心配だったのだが彼女の話を聞いているうちにその想いに胸を打たれ、ファーム族の勇者と共になら大丈夫だろうと思い礼を言ってから、カネリアは勇者程ではないが弓が出来るし危険を承知で出てきているだろうと考え信じて待つことを決意し微笑むと、次の瞬間ユレイヤは目が覚め今入れられている〈袋〉に戻っている事に気が付くと、フードの男達はまた移動しているらしく〈声〉は聞こえなくなっていて、彼はまた〈袋〉の中で揺らされていて数日が経った頃でも彼らはまだ走っているのか、背中がどこかにぶつかっていてとても痛かったがそんな中でもユレイヤはなぜかまた睡魔に襲われ眠ってしまった。
次の夢で彼らは村の近くにある小川で逢っていて白いワンピースを着たカネリアは、少し興奮気味に昔よく遊んでくれたドナー・オーと言う名のドワーフが共に旅に出てくれると嬉しそうに話してくれていて、彼はそのドワーフをよく知っていたがユレイヤはあまり嬉しくなさそうに俯いて黙っているとカネリアに、
(どうしたの?)
そう尋ねられたユレイヤは、
(なんでもない、大丈夫だよ)
そう言ってまたカネリアを心配して言葉をかけると俯いていたが頷いてくれて、カネリアはいつも泣きそうになると俯く癖があってその度に自分が頭を撫でて励ましているのに、今はそれが出来ないむず痒さを覚えながらも微笑むとまた視界がぼやけ、目が覚めさらに時が経ち背中の痛みにも慣れてきた頃にまた下からの衝撃があり鈍い声を上げると、次に紐を解く音がして〈袋〉の口が下にさげられ目の前のロウソクの光に目を細めて慣らしてから辺りを見回すと、目の前には牢屋のような格子がありフードの男が鍵をかけ立ち去った後ユレイヤは部屋の真ん中に立ち、暗く湿ったこの場所がどこなのかを魔法で調べようとしたのだが牢屋全体から邪悪な気配を感じ不安になってすぐに魔法を止めると彼は立ち尽くしていた。
それから数日が経ち誰かがこの部屋の外へ繋がる扉を開けて入って来たので食事が来たのかと思い、横になっていたベッドに座ったのだが入って来た〈男〉は何も持っていなかったため警戒しながら〈男〉を見上げていると彼が、
「そんなに警戒しなくてもいい、私はただ話をしに来ただけだ」
と言っていたのだがユレイヤは警戒をとかずに、
「話……ですか?」
そう尋ねると〈男〉は真剣な面持ちで、
「単刀直入に言おう、君達は強大な魔力を持っているだろう? その魔力で私の〔願い〕を叶えて欲しいんだよ、君の妹と共に……」
と言われ驚いて目を見開いたのだがカネリアの危機を察したユレイヤは神妙な面持ちで、
「嫌だ、と言ったら?」
そう尋ね返すと〈男〉は、
「そうだね、君の村の人達や森を……全て焼き払うとしようか?」
と邪悪な笑みを浮かべて返されユレイヤは恐怖で固まると〈男〉がさらに、
「まぁ時間はたくさんある、考えていなさい」
そう言い放って〈男〉は気味の悪い笑い声を上げながら部屋から出て行き、その後ユレイヤはなぜこんな奴に捕まってしまったのかと後悔しながら一人で声を殺し泣いた。
そして一歩的な〔交渉〕の後ユレイヤは数日間考え、導き出した答えは〔従う〕というということで、あの〈男〉はきっと〔用事〕が済めば自分達を無事に村へ帰してくれるはずだと多少の希望を胸に抱いて再び部屋に来た〈男〉にユレイヤは、
「僕はあなたに従います……ですがあなたの用事が済めば、僕達を村へ帰して下さい!」
と勇気をだして言うと〈男〉はまた邪悪な笑みを浮かべながら、
「いいだろう、私の〔願い〕が叶えば君達を村へ帰してやる」
そう言うと右手を胸の高さまで上げ、
「だがまだ待ちなさい……準備が出来ていないからな、それを待つ事だ」
と言ってからまた不気味な笑い声を上げながら部屋を出て行き、その後ユレイヤはまた彼の願いについて考え事をしながら、
(準備? そんな大掛かりな〔願い〕なのか?)
そう考えるが次第にわからなくなってしまったのでユレイヤはすぐに違う事を考えようと、ベッドへ横になるとまたもや睡魔に襲われ眠ってしまった。