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カネリア冒険記  作者: 桜本 結芽
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第一章 旅立ち

 ここは〖しんせいの森〗の奥深い場所にあるファーム族の村で、そこには森の木で出来た大きな門がありこの門は滅多に上がることはなく、村人が狩りに出る時にだけ上がりいざ中へ入るとこれも木で出来た二階建ての家がファーム族一人通れる間隔で建っていて、建物の大きさは我々人間の暮らす家の二分の一程度で、どの家にも(つる)科の植物が壁に絡んでいてその建物群の一番奥に唯一四階建ての屋敷がありそこがファーム族村長の家で今回の主人公カネリア・ファームの家だ。


 ――さて、ここからカネリアの身に起きる旅路や出来事を、私達は一部始終見るとしよう――


 早朝、目を覚ましたカネリアはベッドの上で自慢の赤い髪を後ろに払い、一度伸びをして新鮮な空気を吸た後ベッドから立ち上がり着替えて髪をくくってから、二階にある自分の部屋からキッチンがある一階へ行くため階段を降りていくと、母が朝食で出す鹿肉ソーセージを焼いていて父は屋敷の裏で丹精込めて育てた野菜のサラダを食べ、双子の兄ユレイヤは母が焼いたパンをかじっておりそれを見たカネリアは嬉しくなり笑顔で、

 「おはよう!」

 そう元気に挨拶をすると父と母、ユレイヤも彼女に振り向き、

 「おはよう」

 と返事を返しそれを満面の笑みで見つめてからカネリアは顔を洗おうと家の裏手にある井戸まで歩いて行き、水を汲んで冷たい水で顔を洗ってから村の女性達が木の繊維で編んだタオルで拭いていると、突然家の中から慌ただしい足音と母の悲鳴や父の怒鳴り声が響いてきたので胸騒ぎがしたカネリアは、大急ぎで中庭を通り家へ向かいたどり着くと、中は荒らされ所々家具が倒されており家の中を見たカネリアは始め何が起きたのか分からず、呆然と辺りを見回していると震えていたのだが父と母は無事な事にホッとして二人に近付くのも束の間、ユレイヤがいない事に気付いたカネリアは母に、

 「に……兄さんは?」

 そう震える声で尋ねると母は動揺を隠しきれず泣きながら、

 「連れて行かれた……でも奴らカネリアの事も探していたの……もしかしたらあなた達の〈力〉を知っているのかもしれない!」

 その話を聞いたカネリアは背筋が凍るような感覚に襲われたのだがそれとは別の〈感覚〉もあり、

 (兄さんはまだ遠くへは連れ去られてはいない! 今なら……)

 そう強く思い未だに泣き崩れる母を元気付けるように背中をさすって、

 「母さん、私が兄さんを連れて帰ってくるわ!」

 と言うなり急いで戸棚を開け乾燥肉やパンなどを取り出して布に包んでいき、それらを鞄に詰め込んで旅の支度を始めその姿を見た父が慌てて、

 「やめなさいカネリア! あいつらはとても強いんだぞ! お前には無理だ!」

 そう必死で説得をする父も構わず無言で支度を進めるカネリアに、

 「お前が行くことはないだろう!!」

 と最後に声を荒げる父にカネリアはふと支度をしている手を止め静かな口調で、

 「私じゃないとダメなの、今兄さんはまだ遠くへは連れ去られてはいない……今しかないの!」

 カネリアの兄を助けたいと必死に思う熱意に押された父は一つため息をついてから、

 「わかった! その代わりこの村一番の勇者を連れて行きなさい! いいな、無理はするな弓を持って行け! だがな、弓も勇者もだめなら逃げるんだぞ! いいな?」

 と強く念押ししてカネリアが頷くのを確認すると父も頷き、旅の支度を手伝いユレイヤが連れ去られてから五分後、支度が終えると家を静かに出てカネリアは村一番の勇者の家に行きドアを叩いてドアを開けた勇者は驚きの表情になっていて、その理由とは長旅用のマントを身にまとい大きな荷物を持った格好のカネリアがそこに立っていたからで、村一番の勇者ことケイケナ・ファームはカネリアの真剣な表情を見て瞬時に何かあったと悟り、彼女を家に招き入れこれは絶対内密にと強く念押しされてから話を聞いて、村の一大事との事でケイケナも急いで旅の準備に取り掛かりさらに五分後、二人は家族に暫くの別れを静かに告げて門をくぐり森の中へと入っていった。


 森の中へ入りしばらくの間二人は黙って歩いていたのだがケイケナが突然、

 「長と先生はおそって来たフードの人間達の顔は見たって言っていたのか?」

 そう話しかけてきたのでカネリアは困惑気味に、

 「それが……あいつらはフードを深く被っていて顔は見ていないみたいなの」

 その答えを聞いた彼は信じられないといったようにため息をついて、天を仰ぐような仕草をしながら空を見上げていたのだが暫くして、

 「それじゃあ、探す事が出来ないんじゃないのか?」

 半ば諦めたような表情と声でカネリアの方を見るが、彼女はとても自信ありげにガッツポーズをしながらケイケナを見つめ返し、

 「大丈夫! 私と兄さんは心で繋がっているから、夢の中で兄さんが今どこにいるか聞いてみるわ!」

 とても元気に説明しているのだがケイケナは、

 「本当か?」

 そう言ってあまり信じていない様にカネリアを見つめ返していた。


 その日の夜二人は村から東へ五キロほど歩いた森の中で野宿をする事に決め、支度をして夕食を済ませると見張りを先にどちらにするかを話し合っていると、突然近くの茂みが一箇所大きく動き出し、二人は驚いたのだが冷静に音をたてず焚き火に砂をかけて消してから弓を引き絞り、いつでも攻撃ができる体勢をしてそのまま待っていると、茂みの中から狩りの途中らしい人間族が6名ほど現れ始め二人は警戒しながら人間達を見上げていたのだが、彼らは特に驚いたのか口を開け目を見張っていてその後すぐに我に返った一番年長者らしき男性が大声で、

 「こ、こりゃ珍しい! ファーム族じゃないか!」

 その言葉で我に返ったのか後ろにいた5人ほどの男性達が一斉に二人を見ようと前に出てきたので、ケイケナがカネリアを庇うように前へ出るとその人達は女の子がいるという事に気付き、落ち着きを取り戻し足を止めそれを見計らったカネリアがすかさず、

 「すみません! この近くでフードを深く被った人間族の集団を見ませんでしたか?」

 と尋ねると一人の男性が驚いた顔で、

 「何かあったのか?」

 そう尋ね返されたのでカネリアは咄嗟に嘘をつく事を決めて、

 「実はその人達に私達が命懸けで狩った鹿を横取りされたんです!」

 そう言うと先ほどとは違う40代程の男性は唸ってからとても残念そうに、

 「この辺りでは見てないなぁ」

 と言われカネリアは落ち込み肩を落としていたのだが、20代と思われる若い男性がふと小声で、

 「そういえば森の北東へ出る方向で白いフードを深く被った奴らが凄い速さで走って行っていたのを見たなぁ」

 それを聞いたカネリアは飛びついて服にしがみつくと男性は始め怯んだが、

 「それで?!」

 と先を促す彼女に気圧され、

 「た、確か……そいつらの一人は大きな袋を担いでいたんだけど、何が入っているのか知らないがすごく動いていたよ」

 そう答えたがさらに興奮気味に尋ねられたので、

 「お、俺はそれしか知らないんだ……」

 と臆するように言う男性の服を離したカネリアは、すでに森の北東へ行く出口に向かう道を考えていて近くで黙って立って聞いていたケイケナに、

 「ここでの野宿は止めるわよ!」

 そう言うとケイケナは頷き二人は毛布を片付け、出かける支度をしていると一番年長者らしき男性が、

 「い、今から北東の森へ進むのかい? ここらは頻繁に大狼も出てくるし今はうろつかないほうが……」

 と途中で言葉を切ると先ほど話していた男性や後ろの男性達が顔面蒼白でカネリア達の後ろを見ていたので、二人は恐る恐る振り向くとそこには体長が五メートルはありそうな大狼が牙を剥いて目をギラつかせてそこにいて、かなりの空腹なのか気が立っていて低い声で唸っていたが、次の瞬間素早く前に出たのはケイケナで、彼は見えないほどの素早さで背中から弓を掴みとり矢をつがえ木を伝って飛び行くと、弓を引き絞って大狼の目を狙い撃つが跳ね返されてしまい、彼は小さく舌打ちしてからまた驚きの速さで次の矢をつがえ放つとそれが左目に刺さり、大狼は苦悶と怒りの混じった声でひとつ吠えると矢を放った者を踏み潰そうと立ち上がったのだが、その瞬間を待っていたケイケナは三本目の矢を放ちそれが心臓へ深く刺さり、大狼は一つ吠えるとひっくり返るようにして倒れ絶命した。


 それは一分も経っていない一瞬の出来事で、一連の動きをを呆然と見ていたカネリアはふと、何度か聞いた村の噂を思い出しそれは、

 『ケイケナが何度も一人で大狼を狩った』

 というもので、

 「あの噂は本当だったのね……」

 そうカネリアが驚愕の表情で呟くのが聞こえた彼は息を整えてから、

 「お前は信じていなかったのかよ?」

 と肩を落として言うとカネリアは口を尖らせながら、

 「だって、大狼は出会ったら最後生きては帰れないって兄さんが言っていたもの」

 カネリアはそう反論したが近くで息絶えている大狼をもう一度見てから、まだ信じられないといった様子でケイケナ話しかけようとしたのだが、

 「兄ちゃん凄いなぁ!! あんなに大きな奴を見ても怯まないで立ち向かうなんて! 弓が得意なのかい?」

 そう自分よりも大きな人間の男性達に大興奮で詰め寄られたケイケナは一度少し怯んだがすぐに、

 「はい!! 実は俺ファーム族の村長に勇者と呼ばれているんです!」

 と言って少し小鼻を膨らませながら胸を張るケイケナを見て、こんな時にまでその話をするのかと次はカネリアが脱力していた。


 その後人間の男性達に大狼の肉を譲り二人はその場で野宿をする事にし、先にカネリアが見張りをすると決めケイケナは眠りにつき、月が天高く昇っている時間にケイケナはカネリアと見張りを交代するため、夜風の寒さに見を震わせながら起き上がり焚火の前で毛布を肩にかけ倒木に座るカネリアと見張りを変わり、眠りについたカネリアは夢の中でユレイヤに逢っていて二人は白い服を身にまとい、濃く白いモヤがかかる中で互いに向き合って右手を合わせていて、

 (兄さん、今どこにいるの? 私は今勇者のケイケナと一緒に兄さんを探しているの)

 と少し悲しげに尋ねるカネリアを見つめてユレイヤが、

 (わからない……でも街にいるのはわかるんだ、沢山の人の話し声が聞こえるし奴らエルフ族やフェアリー族がどうとかって言っていたけど、でもやめた方がいいよ……カネリアまで捕まったら元も子もないんだよ?)

 そう優しく諭すのだが、

 (それでも、兄さんを連れ戻したいの!)

 と強く言うカネリアにユレイヤは、

 (ありがとう……)

 そう悲しげに微笑みながら言いカネリアはその微笑みを見た途端、胸が締め付けられたようになりその瞬間視界が歪み、次に見えたのは心配そうな面持ちのケイケナが眉をひそめながら、

 「大丈夫か? 何度も起こしたんだけど全く起きないから心配だったんだ」

 そう言うと先に立ち上がり手を差し出してカネリアを座らせて食事を済ますと、旅の支度を素早く終わらせて二人は再び歩き出した。


 その日二人は黙々と歩いていたのだがカネリアは意を決した様に、

 「兄さんはどこかの街にいるかも知れないみたいなの、だから近くの街へ行ってみましょう!」

 そう言うとケイケナが急に立ち止まり、

 「何でそう思うんだ?」

 真剣な顔付きで尋ねられたカネリアは慌てながら、

 「わ、私と兄さんは心で繋がっているっていってたでしょ? だから夢に出てきたのよ!」

 そう説明するのだがケイケナはあまり信じていないような顔つきだったので、誰にも言わないようにと強く念押ししてから昨夜夢の中でユレイヤに逢って話したことを説明し、彼は聞いているうちにますます真剣な顔になり、

 「ユレイヤさんが夢に出てきて今どこかの街にいるかもしれないって言っていたんだな?」

 と尋ねられたのでカネリアは同じく真剣な顔で頷くとそれを見た彼は、

 「じゃあこの近くの街へ行くか!!」

 そう片方の口元を吊り上げ右拳を左手に打ち付けながら大声で言うと、それに応えるようにカネリアも笑顔で頷きながら、

 「うん、この近くの街だと確か森の北東出口付近にある〖ムーノラ街〗よね! それにあの人間達が言っていた方向でもあるし、行ってみましょう‼」

 「そうするか!」

 と二人は笑顔で頷き合い再び歩き出し二人は黙々と歩き続け夕方には森を抜けると、しばらく歩いて行き途中で一夜を迎え昼頃には森から1番近いの街である〖ムーノラの街〗へとたどり着いた。

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