第10章 助けるために!!
双子に呪文を唱えさせていたウッドナは邪悪な笑を浮かべていた。
なぜなら彼らはすでに意識も自我もない状態で魔法陣の真ん中で浮きながら呪文を唱えていて、最後は勝手に唱えるだけなのでウッドナは高をくくっていた、だがその時正面にある岩壁が大きな音を立てて崩れそこからカネリアと共に旅をしていた者達が現れ、さらにその最後尾にはファーナがいたので裏切られた事を悟ったウッドナは途端に怒りの表情へと変貌させ近くにいたフードの男達に、
「奴らを消せ、ファーナもだ!! 誰1人生きて返すなぁ‼」
と絶叫するように命令を送ると男達は一斉にケイケナ達の元へ駆け出し、フルトとキルト以外の5人は武器を構えると後ろでファーナが、
「彼らは魂の無い人形なので痛みを感じません、それと父がかけている呪文で全ての魔力を通さないので今からスナスさんに呪文を託します、それを使えば魔法も通る様になります!」
そう言った後スナスに呪文を口早に教え彼が唱えるとケイケナ達の身体全体が虹色に輝き、その後すぐにフードの男達が来たので先頭にいたラウスは1人の男を剣で肩を切りつけたが効き目がなく間を詰められたので蹴飛ばすと、次の男が来てその男と戦闘の後首を跳ねると男は身体を強張らせてから倒れ動かなくなったのでそれを見たラウスは、
「彼らの弱点は首です! 首を攻撃すれば倒せます!!」
と大声で伝えるとドナー達は戦う際首を狙い始めた。
その頃ウッドナは戦っている4人を邪悪な笑を浮かべながら眺めていると、一人だけ抜けている事に気付き視線を回して探していると後ろから、
「あの子達の呪文詠唱を止めさせて下さい」
と声がした途端大剣が首筋に当てられ顔から汗を流しながら両手を上げ様子を伺うと、後ろに立つ人物がドワーフ族の神官スナス・オーと言う事に気付いたウッドナは、神官が精神力には長けるが戦闘には不向きだと言う事も思い出しほくそ笑むと、隣に無言で立っている男に魔力を送り動かしスナスの首を狙わせたのだが、不意をつかれたスナスは咄嗟に身をかがめ攻撃をかわすと男の首を狙って戦いわずか数分で倒すと、その一部始終を顔面蒼白で見ていたウッドナにスナスは静かな口調で、
「あの子達の呪文詠唱を止めさせて下さい」
そう言いながら目の前に男の血がついた剣を突き付けると彼は乾いた悲鳴を上げスナスを見上げると、本気で首を狙っていることを悟ったウッドナは辺りを見渡すが他の男達は皆ケイケナ達に倒されウッドナただ一人だけとなっていて、
「くそっ! こんなはずではなかったのに!!」
と地団太を踏みながら悪態をついている間にも先程まで戦っていたケイケナ達が駆け付けて来て、囲まれたウッドナは項垂れて観念した後指を鳴らし魔法陣の効力を無効化すると、浮いていたカネリアとユレイヤはゆっくりと地面に降りて行き、気を失ったまま横たわるとケイケナとドナーが駆けつけカネリアはケイケナが、ユレイヤはドナーが抱き上げ名前を呼び続け5回程で2人は目を覚ますとカネリアが、
「……ケイ、ケナ?」
と名前を呼ぶと彼は涙が溢れるのを堪えきれず大粒の涙を流しながら、カネリアを抱き締め何度も名前を呼んでいてその様子を近づいて来た仲間達と微笑みながら見ていたユレイヤ達は、無事を確認してから話し合おうとした時突然ウッドナが耳が張り裂けそうな程の声で叫ぶと、次の瞬間彼が大きく開けた口から黒い煙のような物が出て来てそれはみるみる大きくなり三日月を横にした様な目と口が現れたと思えばあざ笑うように、
「あーあ、こいつ失敗しやがったなぁ……まあいい、お前らはこの俺様がまとめて始末してやるよ!」
と声を放つと煙の近くにいたユレイヤ・ケンナーが煙から現れた触手のようなもので弾き飛ばされ壁に衝突して気を失い、顔色を変えて彼を助けに行こうとしたラウスもその触手で弾かれ壁に叩きつけられ気を失い驚愕の表情でその一連を見ていたドナー達を煙はぐるりと見回してから、
「お前らは本当に弱いな! それなのにこいつときたらなんのにも役に立たねぇ、この俺様が手を貸してやってるのに、本当に情けねぇなぁ‼」
と高笑いをしている煙を遠目にスナスはカネリアとユレイヤに小さな声で、
「彼は恐らく魔界から来た悪魔でしょう、いつウッドナに宿ったのかは分かりませんがかなり強いようです、倒すには彼の黒魔術を遥かに凌ぐ〔光魔力〕です、おそらく私達3人でしたら倒せるはず!」
そう2人を見ながら言うと彼等が真剣な表情で頷くのを確認したスナスも頷き、
「では、お2人に悪魔を倒すための呪文をお教えします!! ですが5分ほどかかるのでその間兄さん達はヤツを食い止めていてください!」
と言ってから3人が呪文詠唱を始めドナーとケイケナは時間を稼ごうと奮闘していたのだが、4分ほどすると悪魔が呪文詠唱に気付き顔をしかめて、
「くそっ! この俺様を消そうなんて生ける者達の分際で生意気な!!」
そう言い3人を弾き飛ばすための触手を伸ばすが途中でラウスの剣がそれを断ち切り阻止すると、
「な、なにぃ! お前はさっき弾き飛ばしたはずっ!」
と言って壁際を見ると小さな光が二つありそれを見た悪魔は、
「くそ、くそっ! フェアリー族か! なめやがって‼」
そう悪態を付く悪魔をよそにフルトとキルトのフェアリーパウダーで回復したユレイヤ・ケンナーも参戦し、さらに困惑する悪魔に追い打ちをかけるように3人は最後の呪文である、
「『デヴル・ドゥ・リムーヴ!!』」
と大声で唱えると3人の頭上に光の塊が現れそれはみるみる内に大きくなっていき悪魔を包むと、断末魔のような声を上げながら悪魔は消え去った。
そして悪魔との戦いから数分後にウッドナはうめき声を上げながら目を覚ましその場に座り込むと、
「こ、ここはいったいどこなんだ……? 私は、何を……?」
と困惑の声と表情で辺りを見渡していると、
「お父さま!!」
そう大声を出しファーナは涙目で駆け寄ると彼女はウッドナを抱き締めたが彼はさらに驚きながら、
「ファ、ファーナ……なのか!? いつの間にこんなに大きくなっていたんだ⁈」
と尋ねるが涙を流すばかりの娘の頭を優しく撫でていると自分の周りに知らない様々な種族がいる事に気付いて目を見張るウッドナにドナーが近付き、
「あなたは悪魔に心を乗っ取られていたようですな」
そう微笑みながら言うのだがウッドナは何の事か分からずにいたので、
「も、もしよろしければ私に事の顛末を教えて頂けませんか?」
と言われドナーはまた悪魔が寄ってこないか心配になり迷ったのだがラウスが前に出て来て静かに、
「彼にはもう悪魔の力は宿らないでしょう、それに魔道はスナスさんが完全に塞いだようですので話しても大事ありません」
そう言って頷くのでドナーは真剣な面持ちでウッドナに向き直り、
「分かりました、全てお話します……ですがどこか落ち着く場所でしましょう」
と頷いて言ってからウッドナを立たせて全員で地下室を出ると客間に移ったカネリア達は、ファーナが入れた紅茶を飲みながらカネリアやドナーとファーナが今までの事を説明して、それを静かに聞いていたウッドナは驚愕の表情をしていたが最後には落ち込んだ様子で、
「そうですか、私がそんな事を……皆さんは命懸けでその悪魔と戦って下さったんですね……本当に申し訳ない、なんと礼を言えば良いのか……街の方々にも長年の苦痛を与えてしまった、私はいったいどうすればいいんだ……」
そう頭を抱えながら言うウッドナの手をユレイヤ・ケンナーが優しく包み込み、
「この街に居ればあなたの命が危険にさらされるかもしれない、もしあなた達が良ければ僕達の森へ来ませんか? そしてこの街であなたがまたやり直せるまで待って、その後街長としてまた暮らせば良い、どうでしょう?」
と彼は微笑みながら提案したのだがウッドナは迷いソファーの横に立つファーナを見つめると彼女も微笑みながら、
「確かに……私達の身は危険なのですし、そのお言葉に甘えませんか? それにエルフの方々なら悪魔からお父さまを守ってくれると私は思います」
そう言うとウッドナの迷いは吹っ切れたのかユレイヤ・ケンナーに向き直り包まれた手を取り、
「親子共々、お世話になります」
と言ってファーナと一緒に頭を下げると2人は握手をかわした。
その後騒動が収まり皆各々の森へ帰るため〔ラーナスの街〕を誰にも気付かれないように静かに出ると、まずエルフの森へ向うため《さとりの川》を船で渡ったのだがその船の上ではいつも物静かなユレイヤ・ファームが珍しく喜びいっぱいで騒ぎ、船が一度転覆しかけたので対岸へ着いた時ラウスにこっぴどく叱られて落ち込んでいる様子を見たカネリアは大笑いしていて、それに気付いたユレイヤは次の川を渡った後まで拗ねてカネリアを無視していたので、反省したカネリアはひたすら謝ったあとユレイヤは微笑みながら、
「仕方ないから、許してあげる」
と額を合わせながら言って仲直りをするとそれから2人はずっと手を繋いで〈あかりの森〉まで行き、11人を迎えに来た不愛想なエルフを見たユレイヤは目を輝かせながらそのエルフを質問攻めにし、何事にも動じないと思っていた彼をたじろがせていたが街へ入ればさすがに静かにしていて、それでも終始目を輝かせて落ち着きが無かったが女王の屋敷で食事を兼ねたパーティーが開かれると、普段のように落ち着き着飾った服を着てエルフ達の対応をしていて、その中でカネリアは1人壁に寄り添いブドウジュースを飲んでいるとファーナが横に来て微笑み話し合っていると、途中でカネリアが思い出したように旅の途中に見た夢の事を話すと彼女は、
「そうですか……母があなたの夢に出て来てそんな事を……」
そう言って白ワインの入ったグラスを傾け口に含むとカネリアはグラスを眺めながら、
「はい、でもその時目が覚めると何も思い出せなくて……悪魔が消えてから思い出したんです」
と言ってファーナの横顔を見ると彼女もカネリアを見つめ返し、
「おそらくそれはあなたが自身の危機と無意識に感じ取り忘れたのでしょうね……」
そう言ったあと嬉しそうにケイケナ達と肩を組み笑い合う父に目線を移しまた涙を流しながら、
「本当に、ありがとうございます……」
と呟いた後父の元へと行き酔って上機嫌のウッドナを抱きしめた。
その後エルフ王国に滞在して4日後にカネリア、ユレイヤ、ドナー、スナス、フルト、キルトは自分達の村へ帰るため王国を出て帰路についた。