プロローグ 悪巧み
――この世界には【生命の池】を中心で八方に6本の川が流れていて、その川の近くには様々な種族が暮らしている――
《こうきの川》と《かたくなの川》の間には〖くらやみの森〗で密かに暮らすフェアリー族、《こうきの川》の東側近くには陰鬱な人間族の大きな集落〖ラーナスの街〗があり、《さとりの川》と《しゅうちの川》の間には未だに謎の多いエルフ族の王国がある〖あかりの森〗があり、そして《しゅうちの川》と《しっとの川》の間には〖にくしみの森〗の中で何百年といがみ合っている獰猛なトロール族と、狡猾なノーム族が暮らし、《かたくなの川》と《けんじつの川》の間には何千年もの間〖ドワーフの穴〗と言われる洞窟を掘って暮らしているドワーフ族、そして《けんじつの川》が間に流れている〖しんせいの森〗には今回の主人公がいるファーム族が暮らしていて、彼らファーム族のその容姿は大人でも人間の三分の二ほどの体長で尖った耳に硬い肌と強い好奇心といった様々な種族の特徴を持っていて、その理由は何千年もの間多種多様な種族が混ざり合い、こういう容姿になったといわれファーム族の苗字は村の者全て同じなのだ。
そして彼等ファーム族には密かな噂がありそれは村長の子供は稀に生まれつき強力な魔法を使える者が誕生するという事で、そのためファーム族は森の奥で隠れて暮らしておりさらに今の村長の子供がその噂に出て来る者達で、村の人々は魔法を使う者が悪用されないようにさらに密かに隠れて暮していた。
だが、とある場所で何者かが悪巧みを考えていた。
「……では、その手筈で頼むぞ」
その人物は自室で目の前に跪く白いフードの男達に命令をしてから片手を上げ行け、と合図を送ると男達は深く一礼し音も立てずに部屋から出て行くと、先ほど命令を出していた男はワインの入ったグラスを口に当て傾けると一気に飲み干し、始めは静かに笑っていたのだが次第に声が大きくなり最後には高笑いになっていて不気味な笑みを浮かべながら、
「もうすぐだ……もうすぐ私の願いが叶う、待ち続けたこの二十年間! やっと……やっとだ!」
彼は大きな声で独り言を呟いてから窓の外を見やると、先ほど部屋を出たフードの男達はすでに屋敷の外へと出ていたのだが、それを驚きもせずに目を細めて眺めた後空を見上げると時はもう真夜中だろうか月が天高く昇っていて、窓辺に立つ〖ラーナスの街〗の街長ウッドナ・ノルディは月を眺めながら再度自分で注いだワインを口に含みその味を楽しんでから片腕を上げ、光り輝く月を握り潰す仕草をするとまた口元を綻ばせていた。
その様子を少し開けたドアの外からウッドナの一人娘ファーナ・ノルディが悲し気で切なげな面持ちで見つめていて、彼女はとある理由で父の願いを知っているのだがこの計画には反対で、いくら自身の願いのためとはいえあんなことをする父を見たくはない、母が20年前に病で亡くなってからというもの父は豹変してしまった。
それに今回の計画がもし失敗に終われば厳しい罰が与えられ、さらにはこの街から追い出されるかもしれないそうなれば父は……
彼女はそれを恐れているのだが協力する訳にもいかず迷い大きなため息をついた。