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エッセイ集

偏見について〜刑務所にホモはいなかったそうです〜

 先日、刑務所を出た守田さん(仮名です)という方と話す機会がありました。失礼にならないよう、慎重に話をしましたが……実に興味深いものでしたね。

 その守田さんから聞いた話をまとめると、日常生活そのものは、さほど辛くはないようです。もっとも、お金の有る無しでだいぶ変わってくるとのことでしたが……基本的には食事も不味くはないし、作業も大変なものではないそうです。

 ただ、人間関係は本当に辛かった、とは言っていました。大の男(それも、強面の犯罪者です)が、泣きながら土下座させられるような場面に出くわすとか……もっとも某ブラック企業の人間関係に比べれば、まだマシかもしれませんが。


 刑務所の中の生活に関しては、詳しく書かれている書物は世の中にいくらでもあるので、ここでは触れません。私が守田さんと話していて一つ気になったのは、ホモに関する話です。


「ホモ? 俺の行った刑務所には居なかったし、そんな話も聞いてないよ。長期の刑務所ならともかく、俺の行ったのは懲役八年までの受刑者しか収容しない、初犯の刑務所だからね……ほとんどの奴が、二〜四年くらいで出ちまう。そんな時間じゃ、性癖は変わらないよ」


 言われてみれば、確かにその通りですよね。にもかかわらず、刑務所=ホモの巣窟というイメージは根強いようです。実際、刑務所にホモはいたと主張する人もいるようですし。

 まあ厳密に言うなら、居たとしてもおかしくはないでしょう。ただ、世間の人は……もともとがノンケであるにもかかわらず、刑務所に入るとホモになってしまうと信じている人も、少なからずいるようです。

 これは刑務所に限らず、男子校や軍隊といった男しかいないような所に必ずつきまとうデマのようですが……特に刑務所に関しては、まことしやかに言われている気がします。

 そこで私は考えました。私が実際に会い、そして話した人は「ホモはいない」と言いましたが……世間の「刑務所=ホモ」のイメージはどこから来たのだろうか、と。

 そして導き出した答えは……「ホモはいた、と答える方が話としては面白いから」です。

 例えば……。


A子「ねえ、刑務所にホモっていた?」

B夫「いなかったよ」

A子「ふーん」


 ここで話は終わります。これ以上、この話題では話が続きにくいですよね。ところが……。


A子「ねえ、刑務所にホモっていた?」

B夫「ホモ? ああ、いたよ。凄かったぜ。看守の目を盗んでヤりまくっててさ……無理やりヤられた奴もいたなあ」

A子「ええ……本当に……凄い所だね」

B夫「ああ、凄い所だったよ。ま、俺はやられなかったけどな。無理やりヤられそうになってた奴を助けたこともあったし……」

A子「へー、あんた凄いねえ」


 こっちの方が、話は盛り上がりますよね。しかも、自身の武勇伝をも織り混ぜることができます。

 皆さんの周りにもいるのではないでしょうか……苦労自慢をする人が。「昨日、二時間しか寝てないよ〜」などとわざとらしくボヤく寝てない自慢などは、その典型かと思います。

 刑務所が酷い場所であればあるほど、この苦労自慢が出来る訳ですね。こんな酷い場所で生活していた俺って凄いでしょ! というアピールが出来る訳です。

「刑務所? 毎日ケンカはあるし人は刺されるし極悪な看守がいるしホモがケツ狙うし、もう最悪だよ。ま、俺はそんな地獄で生き延びてきたけどね」

 実際にこういうことをキャバクラで言う人、いたそうです。恐らくは空想による創作か、あるいは妄想でしょうが……。

 さらに、ほとんどの人は刑務所にいた過去を隠そうとします。言うまでもなく、己れの過去を恥じているからですが……前述のようなタイプの人たちは、堂々と自分の過去を吹聴します。結果、そういった人たちの言葉の方が広まりやすい訳ですね。


 あと、刑務所=ホモの偏見が広まりやすい理由として……「犯罪者とは、穴さえあれば何にでも突っ込める獣のような連中」という印象を抱いている人が、少なからずいるのも一因かもしれません。

「どうせ犯罪者なんか、ヤりたくなりゃ男でもヤるような連中に決まってる。低能な人間のクズなんだし」

 こんな風に考えている人は多いのではないでしょうか。あるいは、無意識のうちにそう判断しているのではないかと思います。

 それは結局、犯罪者あるいは元犯罪者に対する偏見に基づいているものですよね。

 さらに言うなら、ホモに対する偏見もあるのではないでしょうか。

「あいつらは普段、男に飢えてる。だから刑務所に行けば、これ幸いとばかりにノンケの男もヤッちまうんだろう」

 こんな偏見……いや差別が、根底にあるのではないかと思うのです。

 言うまでもなく、人は性欲のみにて生きているわけではありません。ホモだろうとノンケだろうと同じことです。もちろん中には、見境なしに襲う輩もいるのかもしれませんが……それはもはや、心の病だとしか思えません。ホモとは完全に別の問題です。


 ここまで書いてきましたが……実のところ、私がインタビューした方が嘘をついているという可能性もあります(私はそうでないと信じていますが)。ひょっとしたら、刑務所はホモの巣窟であり、新入りはみんなケツを掘られてしまうというのが真実なのかもしれません。ことの真偽を知るには、最終的に刑務所に入るしかないわけですから……さすがに、そこまではしたくないですね。果たして、どちらの意見が真実なのか……それは皆さんの判断に委ねます。

 ただ……偏見にとらわれてしまい、また一部の特殊なタイプの人間の言うことだけを真に受けて物事を決めつけるのは、間違っているのではないでしょうか。自身の頭で考え、そして判断することは大切です。とまあ、ありきたりの結論ではありますが、ここで閉めさせていただきます。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 刑務所とホモという特殊な世界、少数の人間の話…と思わせておいて、 デマや偏見がなぜ、どのように発生するのか、と言う普遍的なテーマが説得力を持って描かれていて、大変面白いエッセイでした。 […
[一言] 題名に引かれて読んでみました。 刑務所=ホモなんて偏見が、世の中にはあるのですね。私の好きな某ジャンルにも、刑務所が舞台の話が結構ありまして…。 でも実際は違うんですね。 よく男子校や女子高…
2016/01/17 20:00 退会済み
管理
[一言]  数年で個人の性的嗜好は変化しない、というのはもっともですが、逆に言うと囚人の中にも一定の割合で同性愛者が混じっている理屈ですよね。  『フィリップ、君を愛してる!』(※妻子がいたゲイの男性…
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