夏祭りが終わっても続くものは?
夏祭りが終わった。
人々は夜店を覗きながら家へと足を進める。
二人もまた夜店を見ながら歩いていたが、何を買うでもなく、会話をするのでもなく、ただ黙々と一緒に歩いていた。
夜店はなくなり、今度は住宅が並ぶ道を歩いて行く。
前後を歩いている家族やカップルは、会話をしながら歩き、じゃれ合ってくっついたり離れたりしている。
それに比べて二人ときたら、くっつく訳でもなく離れる訳でもなく同じ距離を保ちながら無言で歩き続けていた。
二人はまだ若く、互いの距離を見る限りまだ付き合って間もないカップルのようだ。
10分ほど歩き続けて、前後にいた家族やカップルがいなくなった頃、やっと男が口を開いた。
「宿題どのくらい進んだ?」
女は答える。
「練習問題は全部やったけど、読書感想文はまだ。どの本にしようか迷ってしまって」
二人は学生のようだ。
「課題図書にすればいいじゃん」
男は持っていた水風船の結びめ部分を持って水風船を振り回す。
女は袋に入ったリンゴ飴を手にぶら提げている。
「課題図書が5冊もあるから迷っているの」
「迷った時は一番最初のにすれば楽じゃね?」
それを聞いて女は浴衣の下にある下駄でアスファルトを強めに踏んだ。カラコロンと景気のよい音がする。
「単純ね」
女は、髪をまとめてゴムで留めて上に上げている。髪を結うほどではないが、浴衣に合うように彼女なりに髪をまとめ上げたようだ。顔はほんのりと薄く化粧をしている。
「単純って言うなよ。感じ悪いな」
男も浴衣を着ている。ただし、頭は坊主で体育系のクラブをしている雰囲気だ。
どうやら二人は中学生のようだ。
女は急に俯いた。ゴムで留めてある髪が上下に動く。
「ごめん」
しおらしく謝る彼女に、男は急にたじろいだ。
「謝るなって。今日のお前。なんか、らしくない」
女としては聞きたくなかった言葉のようで、彼女の下駄は動きを止めてしまう。
「だって、嫌われたくないんだもん」
「嫌いになる訳ないじゃん。なんでそっちの考えになるの?」
男の下駄も止まった。
「だって」
街灯の下で見る彼女の瞳はキラキラと輝いて見える。
男はドキッとした思いを飲み込んでから彼女の言葉を繰り返す。
「だって。何?」
「だって、知明はさぁー」
女は口を尖らせてから言葉を続けた。
「ほかの女ばかり見て、私を見てくれないじゃない」
「それは――」
男は横を向いた。また水風船を振り回す。そして呟くようにぼそりと言った。
「沙弥香が化粧なんかしてくるからだよ」
女は一歩前に出る。
「え? 聞こえなかった。なんて言ったの?」
「もう言わない」
男は歩き出す。
女は男を追いかける。
「なんて言ったのか教えてよ」
「ダメ。教えない」
「なんでよ?」
女が男に追いついて浴衣の袖を掴んだ時、男は振り向いて女に顔を近づけた。
女にとっては突然。男にとっては必然。一瞬の出来事だったが、互いの唇が触れ合ったのは言うまでもない。
硬直した女に男は言う。
「きれいになったお前が悪いんだ」
と。