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ファンタジーなら700年もひと昔  作者: 春花
エルフの旧友
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レイの今後

 魔法使いらしさを追求するのって、けっこう難しいですね。私自身、昨今の万能魔法使いにかなり影響されているな~って自覚しながら書いてます。

「おまえバカか! 今は昔と違うんだ! あんな大勢の前でアレを言おうとするか普通!? ネットですぐ拡散されちまうんだからな! ホント止めろよ、そういうこと!」

「失敬な。衛兵らしき彼らに僕とフィリオラの出会いを話し、友達だと理解してもらおうとしただけだ」

「思わせぶりな構成を取ってた時点で確信犯だろ」

 疲労タップリの体をドアから引きはがして、フィリオラは目元に手を当てる。そして、手の隙間からチラリとレイを見る。入念に上から下から何往復も。

 そして、諦めたかのように手を外して肩から脱力する。

「おまえな~、死んだと思っていたのにいきなりひょっこり出てくるなよ、心臓に悪い」

「ドラゴンに乗った登場がひょっこりか?」

「そういうことじゃねえよ……まあ、いい。とりあえず座れ。コーヒーでも淹れてやる」

 立派な部屋の真ん中にある応接用のソファ。本革のソファは座り心地バツグンで、レイなど座った瞬間驚いて立ち上がったほどだ。

 三人の前にあるテーブルにカップを置き、フィリオラはレイの対面に座る。

「しかし……どうやって生き返った?」

「生き返った訳じゃないんだ。実は――」

 実験によって時間移動したことを話すと、フィリオラはどう反応していいのか分からず、柔らかな背もたれに体を預けた。

「信じられないな」

 ため息交じりに呟くようだった。そして、遠い記憶を思い出して目を細める。

「おまえの家に遊びに行ったら、爆発でかなり吹っ飛んでいた。おまえの弟子と子どものドラゴンが途方に暮れていたから、仕方なく俺が片づけを手配して骨を拾ったんだけど……なら、あの骨は一体なんだったんだ?」

「家には色んな動物や鳥の骨格標本があったから、それじゃないか?」

 なんじゃそら。ガックリとしたフィリオラは、レイの隣にいるコスモスを見る。

「で、そのドラゴンはあの時の子どものドラゴンか?」

「そうだろうな。コスモスだ。フィリオラも何回か会ったろ」

「コスモスも覚えているよ、パパ」

「おまえの墓からずっと動かなかったぞ。俺と違って毎年参ってたみたいだし」

「この人、パパのお墓を壊されてすっごい怒ってた」

 いきなりばらされて、フィリオラはあわくって吹きだした。

「あ、あれは違う! 金のために自然破壊をするバカ共を怒るついでにちょっと言っただけだ! ついでだ、ついで!」

「そんなに恥ずかしがるなよ。素直に嬉しいぞ」

 苦虫を噛みつぶしたように顔をしかめて、フィリオラはソッポを向いた。

「あの~、けっこうすんなりとこの人の言うことを信じるんですね」

 カレアラの方を見て、嘆息しつつ手を軽く振る。

「信じざるを得ないよ。ホントにあの頃のままの姿だし、魔法をブーストさせられたあの魔法力は…………ちょっと待て。キミは誰だ?」

 ようやく、フィリオラはカレアラに気を向けた。

「私はカレアラです。メイジスタンプ学園、一年F組の生徒です」

 フィリオラに対して、カレアラはしっかり姿勢を正して自己紹介をする。

「メイジスタンプの? 何でレイと一緒にいるんだ?」

 カレアラは簡単に実習中にレイと出会い、助けられたことを説明した。そして、その恩を返すためここに案内し、巻き込まれてしまったと(最後はレイに向けて恨みがましく)語った。

 フィリオラはそれを聞いて楽しそうに笑う。

「笑い事じゃありません」

「レイはちょっととぼけた所があるからな~」

「フィリオラに言われたくない」

 ムッとして、レイはコーヒーを一口飲んで顔をしかめる。コスモスに砂糖を入れてもらって再度飲むと、納得したように頷いた。

 そして、カップを置いてからレイは真剣な顔でフィリオラに切り出した。

「僕はこの時代の常識もお金も持っていない。しばらくの間世話をしてくれないか?」

「イヤだ」

 情け容赦ない即答に、

「あ~、そういうこと言う!? 初めて会った時に奥さんに襲われて命からがら逃げていたのを助けてあげたっていうのに!」

「その話持ち出すなよ!」

「貞潔なエルフの女性が、いつまで経っても子作りに協力的じゃないのにキレて旦那を襲ったなんてビックリしたけど――聞いて納得! 結婚して百年以上経つのに仕事にかまけてろくに相手もしてなかったなんて! その年の内に仕込まないとちょん切られた上に離婚させられるキミに同情して、効果抜群の精力増強剤を作ってあげただろ!」

「その節は助かったよ! おかげでもう孫もいる!」

「それはおめでとう!」

 聞いてるだけで恥ずかしくなって頬を染めたカレアラが、パカンッとレイの頭を殴った。

 テーブルに手をつき、前のめりだった体を戻し、フィリオラはため息をついてコスモスを指さす。

「おまえがいるだけでそんなに喜んでいるそいつを見ろ」

 後頭部をさすりつつ、レイは隣のコスモスを見る。すると、彼女は屈託ない笑顔を返してくれる。

「俺の家に来たらそいつにあんまり構えないんじゃないのか? どうせおまえのことだ。知りたいことが多すぎるんだろ」

「…………」

 図星だった。一番構っている場面を想像してみると、読書しているレイの背中に引っ付くコスモス。レイは返す言葉もなく恨めしそうな視線をやるが、フィリオラは「ふふん」と勝ち誇ったように笑う。

「大人ぶって」

「大人だよ」

 そして、キラリと光ったフィリオラの瞳がカレアラの制服を捉えた。

「なぁレイ。常識を学びたいっていうんなら、誰かに教わったり本で知ったりするより、実際に体験した方がいい」

 フィリオラはズイッとレイに顔を寄せ、

「学校に通ってみないか?」

「学校?」

「ああ。俺が身元保証人になる。学費とか必要経費は追々払ってくれればいいさ。すぐそこのメイジスタンプ学園は全寮制だし、住む場所にも困らないぞ」

 自分の通う学園が出てきて、カレアラはギョッとした。

「学校か……通ったこともないな」

「ちょっと待ちな――待ってください! メイジスタンプにこんな学校にも通ったことがない古代人が入学できるわけありません! あそこは優秀な魔法使いを育てる由緒正しい実力主義の学園ですよ! バカにしないでください!」

 激昂して立ち上がったカレアラを、ポカーンと見上げるレイ。

 フィリオラは何が面白いのかニヤニヤと笑い、レイをバカにされたコスモスはスッと立ち上がる。

「殴る」

「やめなさい」

 レイに引き戻され、コスモスは頬を膨らませてソファに座り直す。

「そうだ。実力主義だ。だからこそ、実力があれば途中入学することができる。もちろん正規の入学試験よりもそのハードルは高い。俺も多少学園に寄付をしているからな。よく知っている」

「こいつがその高いハードルを越えられると?」

「いや。無理だろうな」

 あっさりとしたもんで、逆にカレアラは毒気を抜かれて脱力してしまった。

「…………まさか、寄付とあなたの力で不正入学……」

「まさかまさか」

 笑って手を横に振る。ますますカレアラは分からなかった。

「入学はきっと許可される。なぜならレイは魔法使いだからだ」

「そんなの、あの学園に通っている全員がそうですよ」

「そうか? 俺はここ二百年程、本物の魔法使いって奴を見た覚えがないけどな」

 カレアラは疑問符を頭上に浮かべる。

 まるでフィリオラの言っていることが分からなかった。現代では、魔法使いほど有名で人気のある職業はない。そのため魔法学校は数多く、魔法を仕事にしているプロの魔法使いはピンからキリまでたくさんいる。町で石を投げたら魔法使いに当たるほどだ。

「学園には話を通してなるべく早く試験をしてもらえるようにする。どうだ?」

 ニヤニヤと笑ったまま聞かれた。レイはムッとしたが、すぐに相好を崩した。

「七百年近く経っているのに、フィリオラには僕が何て答えるか分かっているんだな」

 予想していなかった強烈なピッチャーライナー。ぶち込まれたフィリオラは何のことやらとソッポを向く。

「お願いする」

「パパが受けるなら、コスモスも受ける!」

 声を出さず、フィリオラは了解と手をヒラヒラと振った。


 ビルの外に出て、カレアラは深く息をつく。どうやら有名人を目の前にして息が詰まっていたらしい。

「色々ありがとう。カレアラさん」

 振り返ると、レイがホウキを手に持っていた。

「助けてもらった恩を返しただけよ」

 素っ気ない対応に、レイは苦笑する。

「早くこの時代に慣れることね。とりあえず服装から何とかしたら。じゃ、さよなら」

 レイがいるせいで集まる視線から逃げるように、簡単な挨拶をしてカレアラは走っていった。

「それじゃ、コスモスの家に行くか」

「うん。今日は私がい~っぱい! おもてなしする!」

 ホウキにまたがるレイの背中に、コスモスは抱きついた。そして、二人は颯爽とホウキで飛び立った。

 その日、空を飛ぶ未確認生物の写真がたくさんネットに上がった。中でも、ホウキで飛び立つ瞬間の画像は話題を呼んだが、古めかしいいかにもな魔法使いの姿であったため、本物だと信じる者はいなかった。ちなみに、つばの広い三角帽子に隠れて、レイの顔は映っていなかった。


 夕食後にシャワーを浴びたカレアラは、ベッドに飛び込んだ。

 今日は本当に疲れた。クラスメイトに置き去りにされたことや、ドラゴンに襲われたことを思い出そうとしなければ思い出せないなんて、どういうことなんだか。全て、あの古代人で上書きされていた。

 転入試験を受けると言っていたが、絶対に受かるわけがない。昔と違って魔法は進化したのだ。科学と融合して最適化・効率化し、魔法使いが魔法を習得するのにかける時間はガクンと減った。そのため、魔法使いも体を鍛える余裕ができた。いまや魔法一辺倒の魔法使いなんていない。

 だから、試験では当然身体能力の高さも問われる。

 レイは明らかに体力が無かったし、体を鍛えているようには見えなかった。武器が扱えるようでもなかったし……もう会うことはないだろう。

 と、カレアラはホッとする結論を出した。

 その時、窓から音が聞こえた。風だろうと無視していると、規則正しいノックだと気づく。まさかそんなはずはない。この部屋は五階にあるのだ。しかも、そこの窓はベランダではなく、足場が無い所。空でも飛ばない限り――。

 カレアラは嫌な予感がした。確認をしたくなかったが、ノックは途切れない。

 ソロソロと静かに窓に近づき、カーテンを一気に開けた。

 そこにホウキに乗ったレイとコスモスがいた。なぜか黒焦げで。

 カレアラの顔を見たレイは嬉しそうに笑って、口をパクパクさせる。かすかに声が聞こえるが、何を言っているかは分からない。

 シャーっとカーテンを再び閉めると、またノックが始まった。

 イラついたカレアラはカーテンと窓を勢いよく開け、

「ようやく見つけ――」

 レイの胸ぐらを掴んで凄む。その視線の強さ――彼はみなまで言えなかった。

「あんた、何しに来たのよ」

「……まあ、聞いてほしい。コスモスが久しぶりに実験をしている姿を見たいって言うからちょっと簡単な実験をしたんだ。そしたら、途中でコスモスが背中に飛びついて薬品がドバっといっちゃって……コスモスの家が爆発しちゃった」

 テヘッと、親子そろって困った風の笑顔だ。

「…………で、何で私のところに来るのよ。会長のところに行けばいいでしょ」

「行ったよ。そしたらちょうどいいって言われて」

 ゴソゴソとレイは胸元から紙を取り出す。

「ちょうど明日に転入試験をするから、今日はあのカレアラって子の部屋に泊まらせてもらえって」

「ウソでしょ!? 早すぎるわよ!」

 レイの手から紙を奪い取ると二枚あった。一枚は転入試験の許可証。もう一枚は学園寮の道筋とカレアラの部屋番号。どうやって調べた!

 ピシッと怒りマークを頭に張りつけたカレアラはレイに紙を突き返し、

「知らないわよ! さっさと他に――」

 その時、ドアがノックされた音をカレアラは背中で聞いた。突拍子もないことに驚いた彼女は、慌ててレイとコスモスを部屋の中に引っ張りこみ、クローゼットの中に押し込んだ。

 そして、何食わぬ顔でドアを開けた。

 そこにいたのは、名前も知らない上級生の女子だった。

「何か幽霊が出たって騒いでいる子達がいて、念のため先生達が見回っているわ。変質者かもしれないし、一応戸締りはしっかりするように」

 それだけ言って、彼女は次の部屋に向かう――呆けるカレアラに気づかず。

(ちょっと待って。さっきあいつ何て言った? 『ようやく』?)

 バタンと強くドアを閉め、鍵をかけ、バタバタと部屋に戻ってクローゼットを開ける。押し込まれた状態のままでレイとコスモスがいた。

「あんた、もしかして他の部屋もノックしたんじゃないでしょうね!」

「外からだと部屋が分からなくって」

 ノックの音に気づいて恐る恐るカーテンを開けたら、顔が真っ黒でノスタルジックな恰好の魔法使いが窓の外に――ホラーだ。

 この二人を叩き出して万が一先生達に捕まったら、懐からカレアラの部屋番号が書かれた紙が出てくる。関係を追求されるし、今日の実習を担当した先生はレイがカレアラを助けた恩人だと知っている。邪推されるかもしれない。そんなのはイヤすぎる!

 項垂れて床に膝と手をついたカレアラは、ズドーンっと大きな影を背負った。

「とりあえず、シャワーで汚れを落としなさいよ」

 極度の疲労からか、もうなんか色々と諦めた。

「うん。一緒に入ろう、パパ」

 意気揚々とレイの手を引っ張って行くコスモス。カレアラの飛び蹴りが彼の背中に決まった。

「このド変態!」

「僕は一緒に入るつもりはなかった!」

 壁まで吹っ飛ばされたレイは、声高に叫んだ。

 転入試験まで早いな~と考えましたが、それほどフィリオラが早い所レイを学園に放り込みたかったと思ってください。押し付けられたカレアラは災難です。

 次回更新は気長にお待ちください。

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