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ファンタジーなら700年もひと昔  作者: 春花
ここはどこ? いまはいつ?
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いまはいつ?

 魔法使いのレイは、童話の魔法使いとド○クエの魔法使いが合わさっていると思ってください。薬を作ったり変わった魔法や攻撃・補助系魔法を使えるけど、回復魔法は使えません。

「ちっ!」

 カレアラはすぐさま剣を抜いて駆けて行った。

「同種の別ドラゴンだったか。ちょっと安心したけど、乱暴者だったらマズイな」

 三角帽子を押さえながら、レイもカレアラの後を追った――足が遅くてドンドン距離は開いていったけど。

 カレアラは背後からドラゴンに迫る。跳躍して斬りかかる時、刃が雷をまとった。

 金属を釘で引っかいたような硬質の音が響き、銀の鱗には引っかき傷しかつかなかった。

 ギョロリとドラゴンの赤い目がカレアラを捉える。

「あんた達、合流場所で待ってなさいって言ったでしょ!」

 カレアラの怒声に、壁に追い詰められていた男女四人はビクついた。装備品はそれぞれ違ったが、服装は彼女と同じで白を基調としたものだ。

「大方、モンスターを引き受けた私を放って課題を達成して、自分達だけ合格しようという腹だったんでしょ、バカ! なんでこの洞窟に入ったのよ! ドラゴンの目撃情報があるから禁止されていたでしょ!」

 ドラゴンの掌がカレアラの頭上に落ちてきた。彼女は横っ飛びに逃げ、転がってクラスメイトに合流した。

「で!? どうして!」

 強く追求され、クラスメイトは申し訳なさそうに目をそらしながら、

「だって、ドラゴンの話は噂だし……」

「この洞窟の奥には珍しい薬草が生えてるって……誰かが」

「俺は……一応反対したんだぜ」

「私は待っていようって言ったわ」

 聞かなければよかった。聞いているだけで怒りが沸いてくる。

「消えろ!」

 図体のデカい男を蹴り飛ばし(逃げる道がある方へ)、カレアラは左手に電撃を溜める。

「デインブラスト!」

 掌から電撃を放ったが、ドラゴンの咆哮一つでかき消された。もちろん、銀の鱗には焦げ跡一つない。そのあまりの弱さに、カレアラは悔しそうに開いていた手を握った。

 また、ドラゴンの手が落ちてきた。

 それを避けながら、カレアラは不思議に思った。

(このドラゴンはどうしてブレスやテイルを使わないの? 腕を振り回す攻撃だけなら、逃げるのは難しくないのに)

 ドラゴンの腕はそれほどリーチがあるわけじゃない。大体の間合いは分かるし、小さい人間に当てようと思ったら先に前傾姿勢になるからタイミングも分かりやすい。

 あいつらが無事だったのは、ずっと手だけによる攻撃しかなかったからかもしれない。

 近くを通過した手の風圧に、カレアラの顔が歪む。その圧力……当たる気はしないがもし当たったら無事ではいられない。

 その時、ドラゴンとカレアラの間にようやく追いついたレイが割り込んだ。

 ぜぇぜぇと激しく呼吸をしているレイは、両腕をバンザイさせて掌をドラゴンに見せてから、両脇に手をはさんで背中を向けて片膝をつく。

 ドラゴンに背中を向けて膝をつくレイを見て、カレアラは罵声を上げる。

「何をやっているのよ! もういいからあんたもさっさと逃げなさいよ!」

 それに構わず、動かないレイは意味不明な声を上げた。その大きさに、近くにいたカレアラは思わず耳を塞いだ。

 その声の反響がおさまると、シンッと静まり返る。

 なぜか、ドラゴンも動きを止めていた。

 何だか分からないカレアラだったが、今がチャンスだと思って剣を握る手に力をこめ、

『久しぶりに礼儀を知る人間にあった』

 重厚な声でその場に縫い止められた。

 誰の声だと思ってカレアラがキョロキョロする中、レイがまた言葉になっていない声を上げる。

『私がここで穏やかに過ごしていたら、いきなり先程の人間達が悲鳴を上げ、私に攻撃を開始してきたのだ』

 レイが長く何事か語ると、ドラゴンは喉の奥で笑った。

『見え透いているが、中々上手いことを言う…………いいだろう。私にとって今日とこの場所は大切なものだ。荒らしたくはない』

 ここに至って、カレアラはこの声の主が分かった――目の前のドラゴンだ。そして、レイがドラゴンの言葉を話している。

『ただし、狼藉者に頭ぐらいは下げてもらいたい。奴らの仲間であるその者でいい』

 ドラゴンとレイの視線がカレアラに向けられる。

「わ、私!? え?」

「とにかく頭を下げる。心を込めて!」

 呆然としたカレアラだったが、言われるまま剣をおさめ、両手を体の前で軽く重ねて深く頭を下げた。

 それを見たドラゴンは小さく頷き、体を地面に下ろした。そのままもう、二人のことはほうった。

 ふぅ~っと大きく安堵したレイは、疑問符をやたらに頭上に浮かべているカレアラを見て嘆息し、前髪あたりを指でかく。

「まず掌を見せて武器を持ってないことを見せ、脇に挟むことで使わない意思を示す。背中を向けるのはブレス攻撃をしないため。人間は元々使えないけど、これはドラゴン同士が敵意の無いことを示す行動だ。跪くのは咄嗟の行動に出られないよう。つまり、こっちには一切の敵意がないと教えたんだ」

 説明を開始したが、カレアラはいまいち理解していないようだった。それでも一応、レイは続ける。

「それから挨拶。そして何が起こったのかを聞いた。それに対して僕は「非力でか弱い人間があなたのような強大な存在を目にしてしまえば、恐怖に駆られて我を忘れても仕方がありません。彼らの無礼はそのままあなたの偉大さと他を圧倒する存在の大きさを表しているのです」って言ったんだ」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

 一気に説明されて混乱しているようなので、レイは頭を抱えるカレアラが落ち着くまで待つ。

「あんたはドラゴンの言葉が話せるの!? あのドラゴンはモンスターじゃないの!? それならどうしてあのドラゴンは私達に話しかけてこなかったの!?」

 そこから? と思ってレイは膝から力が抜けてしまったが、剣士なら仕方がないかと思って丁寧に教える。

「あのね、ドラゴンは高位の存在で知能が高いんだ。おそらくキミはモンスターのドラゴンと龍族のドラゴンの区別がついていない。モンスターのドラゴンはトカゲの仲間だ。知能が低く寿命も短い。だが、龍族のドラゴンは亜人の仲間だ。知能が高く寿命も長い」

「それぐらいは知っているわよ! あんたはあの姿で区別がつくの!?」

「つくよ、当然。だって、根幹の種が違うんだから一目瞭然だよ」

 言われて、大きな瞳をさらに大きく丸くしてドラゴンを見るが、カレアラにはどこで判断すればいいのか全く分からなかった。

「…………龍族のドラゴン!」

 今度はドラゴンに声をかけるが、反応は一切しない。それでも、カレアラは言葉を続ける。

「どうして話しかけてくれなかったのよ!? 龍族だと分かったなら戦う必要なんてなかったでしょ!」

「高位のドラゴンが相手の言葉に合わせるのはドラゴンの言葉で話しかけた時だけだよ。彼らは自分達の言葉も話せない相手とは会話をしないんだ」

「そんな訳ないでしょ!」

 やたらに強く否定されて、レイは驚いた。

「今では人も亜人も共用語を使うわよ! 同じ町に住んでるんだから。私の学園にだって龍族やエルフ、その他の亜人が通っているわ。彼らはみんな人の言葉を話しているし、むしろその種の言葉なんてもう話せないって聞くわよ」

「亜人が通う学校!? 人間と一緒の!? 何それ? 聞いたことがない!」

「今では珍しくもないでしょ。私達はすぐそこのメイジスタンプ学園の生徒よ」

「メイジスタンプ? 聞いたことも無いな……どこの都にあるんだ?」

「だから、すぐそこだって! ふもとのメイジスタッシュにあるでしょ!?」

「メイジスタッシュ? ふもとの村はプルって名前のはずだけど」

「村!? しかもプルってどこ!? メイジスタッシュは政令指定都市でしょ?」

 二人は話していて、疑問符を上げる。何か話がかみ合っていない。

 レイはちょっと間を開ける――何かがおかしい。

(おかしいと言えば)

 思い出して、カレアラに非難の目を向ける。

「クラスメイトの中に魔法使いがいるって言っていたけど、いなかったじゃないか。キミみたいな剣士と違って魔法使いなら最低限モンスターか龍族かの区別ぐらいはつく。ドラゴンの言葉を知らなかったとしても、戦うことぐらいは回避できたはずだ」

 スパンッと、いきなりレイの三角帽子が飛んだ。彼が全く反応できない早業で、カレアラが剣を抜いたのだ。

「私は、魔法使いよ!」

「……………………」

 何度も言おう。レイの目の前にいるカレアラの装備は軽鎧姿に両刃の剣。

「そんなわけがあるか!」

「何を根拠に否定するのよ! 言っておくけど私だけじゃないわよ! さっきいた全員が魔法使いなんだからね!」

 遠目ではあるが、レイはカレアラのクラスメイトを見ていた。

 大剣を持つ全鎧姿。手甲を装備するズボンスタイル。ダガーを腰につけた腹出しの身軽な軽装。長い鉄の筒を持つ迷彩服…………戦士、武道家、盗賊、最後は分からないが、それ以外の何があると言うのか。

「…………」

 言葉もなく呆けているレイのそばに、大きな水滴が落ちた。

 二人が見上げると、ドラゴンの目から涙が零れている。

『今日は……私の恩人の命日……そして、ここは……私と恩人の思い出の場所……』

「あ……そうだったんだ……」

 故人をしのんでいた所を邪魔してしまったのを知り、カレアラはドラゴンの怒りは最もだと自分を恥じた。

『礼儀を知る人間……名前は?』

「レイ=ロッド」

『!』

 答えた瞬間にドラゴンが輝き出し、あまりの眩しさにレイとカレアラは目をつぶった。

「パパ~!」

 高く幼い声の主に押し倒され、レイは背中を打った衝撃に咳き込みつつ目を開けた。

 自分の胸に抱きつき、スンスンと鼻を鳴らして顔を見せる――短めの銀髪に赤い瞳。そして薄緑のローブを着た――可愛らしい少女。

 レイは龍族のドラゴンが人間の姿も取れることを知っているのでそうは驚かないが、彼女にかけられた単語には驚いていた。

「パパ?」

 自分を指さしながら尋ねると、感極まって声も出せないのか少女は何度も力強く頷く。

 落ち着くまで待ってから、レイと少女は起き上がる。でも、少女はハートマークを頭上に浮かべ、レイの腰に抱きついて離れない。あれほど巨大なドラゴンだったのに、身長はレイの胸辺りまでしかない。

「知り合いなの?」

 カレアラに聞かれ、レイは困った表情を浮かべて後ろ髪をかく。

「いや、ちょっと覚えが……」

 申し訳なさそうに歯切れが悪いレイを、少女は頬を膨らませて見上げる。

「パパの前で人になったのは初めてだけどちゃんと分かってよ。コスモスだよ」

「コスモス……コスモスだって!?」

 愕然としたレイは、木の杖をポトッと落としてしまった。

「ウソだよね!? だってコスモスは昨日までこんな小さくて、まだ子どものドラゴンで、人になれるのはまだ数百年は先のはず!」

 レイが両手で作った大きさは大げさに小さすぎたが、彼の記憶にあるコスモスというドラゴンは銀色の鱗を持つ子どもで、ドラゴンの姿で彼の腰ほどの大きさしかなかった。

 怪我をして群れからはぐれたのを見つけ、秋だったのでコスモスと名付け、この洞窟で人目につかないようリハビリで飛行の練習とかをしていた。確かにコスモスはレイのことを「パパ」と呼んで懐いていた。

「今日はパパの六七四回忌。またパパに会えるなんて……こんなに嬉しいことはない!」

 コスモスの言葉に、レイとカレアラはあんぐりと大口を開ける。

「ろ、ろっぴゃく……」

「ななじゅう……よん……」

 二人はお互いに顔を見合わせる。そして、レイから質問を口にする。

「今はカリウス何年だ?」

「カリウス……産業革命以前の年よね……ちょっと待ってて。今、携帯で調べる」

 カレアラは先程通信に使っていた小箱を取り出し、表面に指先をあてて動かす。

「カリウスに直すと今は一九三五年。現在の暦トゥーラでは五五六年……だけど」

 地形は変わっていない。しかし、それ以外のものは何もかも見覚えが無い。その理由が分かった。空間移動どころの話ではなかった。

「……随分と古めかしい変な恰好をしているな~っとは思ったけど、もしかして……」

 一つ間を開けて二人は正反対の単語で、

「あんた……過去から来たの!?」

「僕……未来に来ちゃったの?」

 同じ意味の結論を出した。

 こちらの作品は暇を見つけて少しずつ更新していく予定なので、次回更新は未定です。不定期更新になってしまいますが、ネット小説大賞の締め切りには間に合わせたいです。

 次回予告。町に出て驚き、知り合いのエルフに会いに行く話です。気長にお待ちください。

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