紫煙2
なんなんだ、あいつは!住んでる場所や履修状況わかったり、台詞ハモったり!気持ち悪い!
僕は急いでレジデンス八道の階段を3つかけ上がると家の中に飛び込み、鍵をし、チェーンまでかけた。こんなに走ったのは小学校四年生の徒競走で一番を取ったとき以来かもしれない。というか、はじめて不審者に遭遇したかもしれない。3年間過ごしたこの家ともそろそろお別れか…。更新したのもっいなかったなぁ。
と、そこまで考え、ワンルームの隅においた座椅子に座りタバコに火を点け、ふと思い出した。
「明日世界は終わるのよ。」
妙に凄みのあった言葉だった。まるでホントに世界の終わるような…。
いや、なに考えているんだ。そんなわけない。タバコが不味い。火を点けたばかりのタバコを消し、そんな考えを払拭するかのように隣のベッドに飛び込んだ。
「纐纈…だっけ…。綺麗だったな。顔は良いのに…。」
少々無礼なことを呟き、何故か襲ってきた睡魔にその身を寄せた。
「結城くん。」
「っ?!はっ?!」
「どう「少々手荒な真似をしてしまったわ、先に謝っておくわ、ごめんなさい。」
どうしてお前がここにいる?!と言おうとしたが遮られてしまった。いったい何をした?
「あなた逃げるのだもの、家まで来てしまったじゃない。」
どうして俺のせいになる。
「一体、どうやって入ったんだ…?」
「そうね、簡単に言えば、屋上からこの部屋まで降りて窓を開けさせてもらったわ。」
ま、窓?閉めたよな?閉めたよな?
そこで僕は窓を、無様に割れた窓を、見てしまった。
「っ!なんてことしてくれる!」
「だから言ったでしょう、先に謝っておくわって。」
「損害賠償を請求する!ついでに建造物侵入と不法行為で牢屋にぶちこんでやる!」
「それは無理よ。ここは私の所有のアパートであり、あなたは賃借人。私が私のアパートに入って何が悪いっていうの?」
「そんなの無茶苦茶だ!だいたい大家は田舎に隠居したオッサンだ!今から大家に連絡してやる!」
「ふふっ。あなたは、本当に面白いわ。」
「なにがそんなに可笑しいんだ!」
「まぁ、どのみちこのとても綺麗とは言えない部屋から賃貸借契約書を見つけるのは大変でしょうね?代理店にまず連絡してみなさい。」
「…。」
僕はこの上から目線の命令女ー纐纈に言われた通り、代理店に電話した。そこで二週間前に大家が変わったこと、その旨を書いた通知書をアパートの掲示板に掲げたこと、その各々への通知は書簡としてすでに一月も前に送っていることを長々と説明された。そして、代理店の宅建主任者が言ったのは、このアパートは纐纈琴乃というのがその所有者であるということだった。
「理解してくれた?」
「…わかった、僕が悪かった。纐纈、お前のいう終末論万歳デタラメカルト教団に入信してやる。そうすればこの悪夢から目が覚めるんだろう。いや、まずその、俺のタバコを2本くわえて吸うの辞めろ!なんでドヤ顔してんだ!」
「ふふっ。いつも通りの、あなたね。」
いや、さすがに2本同時に吸うのは世界最強の男や浦安市に住んでるあの親父に似たものがあるぞ…。
あれ、そういえば…
「今、一体何時だ?」
「そうね、朝の9時半ってとこかしら?」
寝過ぎだ、いくらなんでも寝過ぎだ。
…って学校!寝坊じゃねえか!
「いや!まだ間に合う!」
「行かなくていいわよ。あなたは"今日"私と出会って、"明日"世界が終わりを迎えるのだから。」
「何をいってるんだ!」
「ちゃんと見なさい。今日の日付は11月6日の木曜日。あなたは1、2限の授業に行き、その後学友と昼食を食べ、いつものようにキャンパス外の人気のない喫茶店の隣の喫煙所で一服する。そして私と出会う予定なの。」
「あ…、なんで…。」
「そうね、最初から話しましょう。」
その後、纐纈の口から発せられた長々とした物語は、この清々しい秋の真っ青な空と太陽の輝きさえも目隠しをするように真っ黒なものだった。