第二十七話
「駄目か……」
石室はほとんど埋まっていた。
二人は奇跡的に生きていた。纏身はすでに解けている。
しかし、崩れた陵墓に完全に閉じ込められていた。酸素とて、いつなくなるかわからない。真っ暗な空間。ほとんど何も見えない。
「姫子、そこにいるな?」
「はい」
「ま、大丈夫だよ。皆が必ず助けに来てくれる」
すみれと啓介の気配がない。あの二人は無事でいるはずだ。きっと助けを呼んでくれる。
「はい……」
声を頼りに、ヒノは姫子の横に座る。
「…………」
「…………」
「オレ、さ」
ヒノが沈黙を破った。
「しきたりなんか無視してもいーやって思ってた。学校行って、彼女作って、好きに遊んでればいいと思ってた。適当に周囲に合わせて、なじんで、ずっとうまくやってたから」
たわいもない生活を、夢見ていた。
「それから……彼女にするなら、オレの理想どおりの女の子がいいって」
黒くて長い髪。
大きな瞳。
鈴のような声。
「君は、オレの理想どおりだ」
「ヒノ、さん……」
「初めて会った時から好きになった」
ヒノは告白した。
「でも言えなかった。しきたりの結婚はイヤだって、ずっと言ってたから」
「ヒノさん……」
「ごめん」
そして謝った。
「わたしも」
今度は姫子の番だった。
「わたしも、初めてお会いした時から……」
かき消えた言葉の続きは、言わずともわかる。
好きだった、と。
姫子の心を、ヒノは感じた。
「嬉しかった。この人が旦那さまなら、どんなに幸せかって。相性がよくて、仮祝言もできて、そうなれたらいいって、ずっとずっと祈ってました」
「姫子……」
「出られますよね? ヒノさんと、一緒に、出て……」
姫子が涙声になる。ぐす、ぐす、としゃくりあげる音がする。
ヒノは姫子を抱き寄せた。
「ヒノさん、ヒノさん……」
泣きながら、姫子はヒノにすがりついた。
「大丈夫、オレはここにいる」
ヒノは姫子をしっかりと抱きしめた。
「ヒノ、さ……」
二人の唇が重なった。
しきたりも、術も関係ない。
おたがいの想いを伝えるためだけのキス。
「好きだ、姫子」
「わたしも……好きです、ヒノさん」
暗闇で感じる体温と、息づかい。
だんだん、眠気が襲ってくる。
「ヒノさん、わたし、眠い……」
「ああ……」
二人は深い眠りについた。
初出:2015年01月27日




