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第二十四話

「クリス、君の話は本当なのか?」

「モウ、ズットその話ですネ! 本当ですヨ!」

 港に急ぐ車の中で、ヒノとクリスは何度も問答していた。

「ソレより、情報ノ報酬、ホントでしょうネ!」

「ああ、本当だったら教会で挙げてやるよ!」

 クリスは巧みなハンドルさばきを見せながら、調査結果を再度告げる。

「相武家は、美黒家カラ分家したトコロ、真実デス! かなり昔のハナシですガネ!」

 車は港へと滑り込んだ。

 クリス、ヒノ、姫子は走り出した。

 目的の男は、すぐに見つかった。小型船を出す準備をしていた。

「これはこれは……若に姫子さん、それにクリスさんも」

 早暁がほほえむ。

「これから、最後のご挨拶に伺おうかと思っていたのですが……なぜお三方で?」

 歩み寄ろうとした早暁の足下に、ガスンッと何かが尽き立った。

 太い釘だ。それが、複数枚の資料を貫いている。

「聖釘使い……クリスさん、少し荒っぽいのでは?」

「その聖人面、モハヤ通用しまセンネ。アナタと相武の関係、モウ調べまシタ!」

 クリスは鋭く指摘する。

「ソモソモ、伊吹優秀に退魔の依頼を出したノモ、オルギム・アームズの関係者でシタ! 彼を妖怪化させたのハ、相武の者デスネ! そしてソノ裏に、常に美黒の影アリ!」

「…………」

「穢れた魂を持つ者、去るがいいネ!」

「去るのは貴様だ!」

 カッと早暁が咆吼した。その手に、箱がある。

「その箱は!」

「我が功徳力、加持力、および法界力をもて、願わくば如意宝となさん!」

 早暁の手の中で、箱がクルクルと回転する。

「集!」

 ヒノはハッとして、姫子とクリスをかばう。あの箱の中は――。

 だが、魔封じは発動しなかった。代わりに黒い風が発生し、箱を中心に渦を巻く。

「こ、れは……〈ケガレ〉か!」

 魔封じの箱に向けて、朱雀島中から〈ケガレ〉が風状になって集まってくる。それは大臣たちが泊まっていたホテルの方角からも。

「早暁さん、どういうことだ!? その箱は盗まれたんじゃなかったのか!?」

「盗まれるわけないでしょう? 隠していただけですよ」

 クスッと早暁が笑う。

「さあ、邪魔者は退場なさい!」

「クリス、姫子、避けろ!」

「願わくば如意宝となさん! 解!」

 箱の中から、大量の〈ケガレ〉が放出された。それはタール状の波となって押し寄せ、クリスに激突する。

「きゃアッ!」

「クリス!」

「クリスさん!」

「あなたはこっちです!」

「ッ!」

 〈ケガレ〉が大波のごとくうねる。ヒノはとっさに姫子を抱えて飛んだ――が、波の端が姫子の足首を捕らえる。

「うおっ!」

「きゃあああっ!」

 空中でバランスを崩し、ヒノは姫子を離してしまう。

 姫子は引きずられ、早暁の腕の中に収まった。

「やっ……いやぁ!」

「姫子!」

 すぐさま体勢を立て直そうとしたヒノの首に、黒い波が絡まった。

「ウグァッ……!」

 首を絞められ、息がつまる。

「姫子さん、あのまま彼をくびり殺してもいいのですよ?」

「あ……ああ……」

 姫子が抵抗をやめる。

 同時に、ヒノの息が戻る。だが〈ケガレ〉は紐状になったまま、彼の首にべっとりと貼り付いている。

「早暁さん、馬鹿なことはやめてくれ」

 あえぎながら、ヒノは早暁に願った。

「いいえ。目的を達するまでは、こうするしかありません」

 早暁がほほえむ。まるで悪いことは何一つしていないというように。

「姫子さんが必要なんです。傷つけたりはしません。お約束します」

 姫子を抱えたまま、早暁は船上へ飛ぶ。

「私は御陵島へ向かいます。ご一緒なさりたいなら、どうぞ」

 共に来いと言われている――その意味を、ヒノは必死で理解しようとした。

 拒否すれば、早暁はヒノを殺し、姫子を連れ去るだろう。そもそも最初からその方が圧倒的に有利であろうに、早暁はそうしない。何故だ。

 おそらく、姫子にとっての人質だ。ヒノがいれば、姫子は容易に言うことを聞くだろう。早暁はそう考えているに違いない。

「姫子……」

 何もできない自分がくやしかった。

 だがチャンスはある。生きている限り、事態を好転させるチャンスはあるはずだ。

「わかった――行くよ」

「ヒノさん! 駄目デス!」

 〈ケガレ〉に絡みつかれたままのクリスが叫ぶ。

「ごめん」

 自然と言葉が出た。

「オレは、姫子を見捨てられない」

 ヒノはゆっくりゆっくり船に近づき、乗る。

 早暁は箱を湖に投げ捨てた。船のエンジンをかける。もちろん姫子を抱えたまま、だ。

 青い空の下、一艘の船が御陵島へと航海を始めた。

初出:2015年01月24日

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