第二十二話
一艘の船で帰港する。
重傷を負った明紀兼が、しばらく入院することになった。
「いやー危なかったけど、何とかなったねぇ」
明紀兼は病院のベッドの上でへらへらと笑った。
「別に自宅療養でもよかったんじゃないかなぁ?」
「島へ帰ってきたときくらい、きちんと療養せい」
喜代輔が呆れる。
「まったく……全身に穴やら切り傷やらこさえて何が自宅療養だよ」
「だって病院って苦手なんだもん。骨は無事だったんだからオッケーじゃない」
「明紀兼さん」
「あ、はい……」
すかさず夕香子がたしなめる。
明紀兼はシュッと首を引っ込めた。完全に尻に敷かれている。
「……親父、今回のこと、どう思う?」
「どう、とは?」
「あのミズチが人だったってことだよ」
「うん、あれだけのものを造るなら、まず歴史ある呪術を継承した術者がいるはずだ。それこそ、四方神一族のように。短く見積もっても、四百年くらいかな」
「四百年……」
かつて人為的に造られた異能集団――四方神一族。
彼らには及ばずとも、長い歴史を持つ異能の一族はいる。中には千年以上前の氏族を名乗る術者もいる。そうした者が、ミズチを造り出す能力を持っていてもおかしくはない。
「あのミズチは『騙された』と言っていた」
「人間を騙すなんて簡単さ。聞いた話じゃ、ミズチが出る少し前、人の姿をした妖怪が入りこんだというじゃないか」
「彼も騙されて妖怪に?」
「真相は、早暁君の箱の中だけどね」
「早暁さん……」
そういえば、今日は顔を見ていない。彼は、嵐が止んだら島を去ると言っていた。魔封じの箱を盗まれ、悪用された責を負うと言って――。
「ところで、大臣はどうしてるの?」
「今はホテルで優雅に視察日程でも決めてるところでしょうよ」
「でも、誰が着いていくんだ?」
全員が首をかしげた。
「子飼いのオルギム・アームズは壊滅状態。四方神会は視察には基本反対。今なら追い返せるんじゃない?」
「…………」
「そもそも、他人に御陵島をまかせなければ……こんなことには」
明紀兼がうつむく。やはり彼もまた朱雀島の人間だ。御陵島への畏敬の念は、心の奥底から抱いている。
「ミズチの驚異は去っても、また新たな脅威が迫るような気がしてならないよ」
「なんかこんがらがってきた……」
ヒノが病室の壁に身を預ける。
「結局オレ、戦ってないしさー……」
「馬鹿者。嵐の中、船を出しただけでも勇士と言えるわい」
「匹夫の勇、って言われそうだけど」
「貴人の義務じゃと思え」
「そうですよ、ヒノさん!」
いじけるヒノに、姫子が赤くなりつつ言った。
「あの時……『オレにつかまってろ』って言ってくれたヒノさん、カッコよかったです!」
「何、そんなこと言ったの!?」
すみれが高い声を上げた。
「ちょ、姫子!」
ヒノが赤くなる。
「啓介、それマジ?」
「そういえばマジだったね」
「全員、ニヤつくな!」
真っ赤になったヒノと姫子を見て、さらに全員がニヤつく。
「ハーイ! 皆サン、お待たせしましタネ」
明るい声がした。
「ク、クリス!?」
「アラ? なんか場違いデシたカネ?」
キリシト教会のシスター、クリスティーナだ。今はシスター服ではなく、観光客風のラフな私服だった。
「嵐が止んでなによりデス。こうシテお話もできマスシ」
持ってきた花束をサッとヒノに押しつけ、鞄から封筒を取り出す。
「皆サン、コノ事件、人為の力を感じマス。これが証明デス」
「祖父さま!」
「うむ、クリスには色々と仕事を頼んでおった。これがその結果……じゃな?」
「ハイ」
クリスの青い瞳に、鋭い光が宿る。
「心シテ読んでくだサイ。島にいる本当の敵ハ……」
初出:2015年乙未01月22日




