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沈む影

作者: 牛方巴

 薄暗い部屋に、私が一人。

 ベッドサイドの小さなランプだけがぼんやりと光を放っている。

 お気に入りの抱き枕を抱きしめながら、私はお酒を呑んでいた。


 ここのところ、代わり映えのしない毎日が続いている。

 任された仕事を、マニュアル通りに、淡々とこなすだけ。カタカタと文字を打ち込んでいけば、ほら完成。難しくない。誰にでもできる。

 その簡単な仕事を、毎日毎日繰り返す。毎日決まった時間に起きる。毎日決まった電車に乗る。毎日決まった時間に出勤する。毎日ピッタリの時間仕事をして、毎日決まった時間に退勤する。

 毎日毎日。まるでロボットのように。


 繰り返しというものは、意外に疲れを生むようで。

 いつもと同じ時間に帰宅した私は、電気もつけず、ご飯も食べずにベッドに倒れこんだ。

 抱き枕を抱いて、横向きに寝転がる。社会人を始めた時に買った赤いチェックの抱き枕は、かなり色が褪せてきた。

 2、3時間もその体勢のまま動かなかった。

 眼は開いていた。ゆっくりと呼吸をしていた。同じリズムで、決まった速度で。


 時計の短針が10を指した頃、私はゆっくりと体を起こした。

 簡素なキッチンに置かれた簡素な冷蔵庫からカップの日本酒を取り出す。ベッドに腰掛けて蓋を開けた。

 ベッドサイドのランプをつけると、床に私の影が映った。気のせいだろうか、影にも疲労が滲んで見える。

 

 つまらない毎日も、少しの楽しみがあれば乗り切れると、昔母が言っていた。

 例えば、毎日にちょっとした変化を見つけるとか。

 でも、変わらない毎日の中の変化を見つけたって、私は少しも明るくならない。

 帰宅途中の道に桜が咲いていた。隣の席の人が結婚した。部長がコンタクトを付け始めた。

 ちょっとした変化なんていくらでも見つかる。でも、それは私を楽しませてはくれない。

 

 気づけばカップは空っぽだった。ベッドサイドのテーブルにカップを置く。

 何もせず、そのまま、ただ座っている。抱き枕から柔軟剤の匂いがした。

 ふと、ランプの足に結ばれた桜色のリボンに目が行った。

 こんなものいつ買ったっけ。蝶結びの下のひらひらとした部分を触る。古くもないし新しくもない、滑らかなリボンに指を滑らせる。

 買った記憶があるような、ないような。

 

 何回かリボンを指に巻きつけたりしているうちに、ふっと眠気が襲ってきた。

 時計の短針は11を指している。いつも通り、就寝の時間。

 カチッと紐を引っ張ると、明かりが消えた。布団を被り、いつもと同じ仰向けになる。

 瞼を閉じる。

 意識がどんどん遠くなる。

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