ちっぽけな僕らは(2)
彼らが言うことも分からないでもないが――なんかムカつく。
腹の奥で怒りがわいてきたのに気付き、慌てて息を吸い込み落ち着かせた。
「バカだなーお前ら。大貴怒らせたら死ぬぞ」
唐突に笑いを堪えた声で大和が言い、皆の視線が彼へ移る。
「どういうこと?」
「菜月に手を出せば空手仕込みの蹴りが飛んでくるぞってこと。大貴にとって菜月は大事で大事でしょうがない相手だっ――うおっ」
大貴は履いていたスリッパを大和目掛けて投げつけたが、あっさり避けられた。
その上、大和も他の生徒も更にニヤニヤ笑い出した。
「なんだ、やっぱそうなのかー」
「幼馴染みって最強だよな。あー羨ましい」
彼らはちらちらと大貴を見ながら口々に言う。その視線に耐え兼ね、大貴は思わず怒鳴った。
「こっち見んな!」
「あははマジうけるんですけど、栗原顔真っ赤」
ゲラゲラと笑い声を上げる彼らに言葉を失い、大貴はついには蹲って低く唸った。
「もー……蹴り倒してやりたい」
「南を?」
「そう」
「南くーん、ご指名ですよー」と田神がふざけて南を呼ぶ。
「南くんはゲームに夢中ですよー」
そう答えた声は、ここにいる生徒以外のものだった。
全員が口を閉じ、笑い声が止み、部屋は一瞬で静まり返った。
息を呑みつつ振り返ると、そこには壁に寄り掛かって腕を組む佐々木の姿がある。
「ちょっ、先生なんで……えー!?」
「どうやって入って……!?」
突然の佐々木の出現に皆がパニック状態で、誰もゲーム機を隠そうとすらしない。
佐々木は不敵な笑みを見せ、指に挟んだカードキーを見せた。
「先生たちにはマスターキーってのがあるんだよねぇ。そんでお前らの部屋がうるさいって他の生徒が言ってきたから見に来てみれば、と。さてさて、どうしようか。ひーふーみー、七名の諸君」
「うわーん、先生見逃して!」
田神とゲーム機を持ち込んだ吉川が土下座する勢いで謝り始めた。
ほんの出来心だったんです、とか、まだ始めたばかりなんです、とか、訳の分からないことを言う二人に他の生徒も加勢するが、大貴は面倒なので何も言わなかった。
すると佐々木が腰に手を当て、大きく頷いた。
「よしよし、お前らの言い分はわかった」
「え、じゃあ許してくれ――」
「没収だ」
「えええええ」
大貴と大和以外の全員が大いに嘆き崩れ、佐々木は更に追い討ちをかける。
「あと全員俺の部屋に来い。説教だ」
「えーっ」
「……俺何もしてないのに」
こればかりは大貴もささやかに抗議したが、佐々木につっぱねられた。
「ここにいる時点で同罪。さあゲーム機を片付けろ、そして運べ。俺の部屋で遊ぶぞ――おっと違った、俺の部屋で説教だぞー」
「遊ぶのかよ!」
相変わらずの緩い喋り方で言う佐々木に、部屋中から突っ込みが入った。
しかし生徒たちは素直にゲーム機を鞄に詰め、佐々木の部屋に行く準備を始める。
「先生マリオ好き?」
「ああ小さい頃からやってるしな、パーティあるか?」
「あるある」
「よーし、勝負だな」
佐々木も生徒のようにわくわくしているのが窺え、大貴は思わず笑ってしまった。
それから先生一人に生徒七人は、夜更けまでゲームで大盛り上がりするのだった。
部屋に帰ってベッドに潜り込んでいたら、不意に大和が口を開いた。
「お前さぁ、菜月に告ったりしないの?」
「は……はあ?」
大貴は仰天して隣のベッドに横になっている大和を凝視した。彼は腕を立てて頭を支え、ニヤリと笑う。
「いつまでも悠長にしてると、誰かに持ってかれるぞ」
「も、持ってかれるとか……別に菜月は俺んじゃないし」
「ふぅん。でもお前、菜月がいなくなったら耐えられないだろ?」
「それは……」
視線をそらし口ごもっていると、急に大和の声が低くなった。
「お前ってホント……」
「え?」と振り返ったら、大和は一瞬躊躇うように閉口した。
「……なんつーか、前から思ってたんだけどさ、お前らってちょっと依存しあってるよな」