表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/24

ひとりじゃつかめないもの(5)

「ここまででいいよ。じゃ、気を付けて戻れよ」


「あ、南くん――」


 思わず大和のシャツの裾を掴んでしまい、光はハッとした。

 彼を呼び止めて自分は何と言おうとしたのか。

 それを考えて余りの恥ずかしさに閉口した。でも手はシャツを握りしめたまま、くっついてしまったかのように離せなかった。


 自分の不可解な行動に戸惑い、どうしようどうしようと考えていたら、不意に大和の腕が伸びてきて抱きしめられた。

 突然のことに最初は身体を固くした光だったが、徐々に力を抜き、しばらく身を委ねていた。


 どうして、分かったのだろう。自分が、こうして、抱きしめてほしかったことを。


「あまり気に病むなよ。寝れなくなるぞ」


「……うん、ありがと」


 大和の腕の中で光はくすりと笑った。

 自分が何を考えているのか、不思議と彼には分かってしまうようだ。


「今日は南くんが来てくれてよかった。栗原くんたちも心強かったと思うよ」


「そうだといいけど」


 素っ気なく言って大和は身体を離した。

 彼の温かさが遠ざかるのを少し名残惜しく思ったが、光は顔を上げて照れ臭さに笑みをこぼした。

 すると突然、大和の両手に顔を挟まれ、更には頬に――いや唇の端にキスを落とされた。

 それはほんの一瞬の出来事で、光は何が起こったのか分からなかった。

 大和の顔がすぐそこにあり、そして彼の口がニヤリと弧を描く。


「今日はこれで我慢する」


「え、ええ?」


 困惑する光を離し、彼は踵を返して行ってしまった。


 一人残された光は、呆然とそこに立ち尽くしていた。


 震える手で唇の端をそっと撫でる。

 大和の唇がここに触れた。その感触を思い出すと喉の奥から変な声が出そうになった。いや、むしろ叫びたかった。


――顔熱い……。


 頭から湯気が出ているのではと思えるくらい、身体中が熱を帯びている。


 今日は別の意味で眠れなくなりそうだ。そう思いながら、光はふらふらと夢見心地で帰路を辿った。



 そして案の定、光は布団にくるまって、夜遅くまで奇妙な声を発し続けていたのだった。




『ひとりじゃつかめないもの』 おわり

(一人じゃつかめないものは、君と)


 本編(#05辺り)から省いた内容をいくつか入れさせてもらいました。本編に出せない設定もいくつか。

 書いていて楽しかったです奥村家。

 大和も光もなんだか素直になってきていて、成長してるんだなーと思いました。

 あ、大和は長男(一番上)です。光も長女(一番上)。ちなみに大貴は二番目、菜月は一人っ子です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ