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モノクローム(11)

 伯母の家を出てこっちに戻ってきて以来、亮とは会っていない。年に二、三回メールのやりとりをする程度だ。

 祖母と会う時に亮も誘ったのだが、彼の都合が悪くていつも会わず仕舞いだった。もしかしたら遠慮されているのかも、と残念に思ったこともあった。


 それに亮から結婚報告のはがきが届いて、素直に祝福する自分と、どこか寂しく思う自分がいた。

 朱那も去年、亮に結婚報告のはがきは送ったのだが、彼からのメールには“おめでとう”としか書かれていなかった。


 彼も少しは寂しい気持ちになってくれただろうか。


――なんでこんなこと考えるてるんだろ。


 朱那は微かに笑った。

 こういうことを話したら嘉仁はヤキモチを焼いて拗ねるんだろうな、と考えたら余計におかしくなった。


 自分も大切な人を見つけて幸せになり、同様に亮も幸せになった。それでいいんだ。


 ちらと視線を上げて大貴を見たら、彼は穏やかな表情ではがきを眺めていた。

 大きくなったな、とぼんやり考えた。


 朱那の後をついてきていた頃の面影は全くなく、二十歳目前の男の子になっている。

 落ち着いていて優しい性格なのは昔から変わらないけれど、そこに頼もしさがプラスされて男らしくなったと思う。

 もっと大人になっていく彼を、これからも見守っていきたいと切に願った。側で見守ることができなかった両親のためにも。


 朱那は身体を起こし、両手で頬杖をつく。


「大貴」


「ん?」


「あんた菜月ちゃんと結婚しないの?」


「……なんでそんなこといきなり」


 大貴はたじろぎ、視線をそらす。朱那は更に顔を寄せた。


「結婚したいと思ってる?」


「あのね、俺あと五年は学生だし。結婚とかまだ考えてない」


「そんなことどうでもいい。結婚したいかしたくないか、今の気持ちはどっち」


「……………………したいとは思ってる」


 恥ずかしそうに大貴が言い、朱那はふふっと微笑んだ。


「そっかそっか。おじさんに頼み込むときは私も協力するからね」


 そう言ってグッと親指を立てると、大貴はうなだれて髪を振っていた。

 そして湯呑みを空にして、逃げるように立ち上がる。


「もう寝る。俺の部屋そのまま?」


「うん、布団もたまに干しといたよ」


「それはどうも」


 素っ気なく言って居間を出る大貴の後ろを、朱那はついて行った。

 階段を上がり、大貴が入った部屋に朱那も足を踏み入れようとしたら、振り返った大貴にドアを押さえられた。


「なんでついてきてんの、寝室行けよ」


「えー。姉ちゃんと一緒に寝よう」


「いやです」


「なんでー? 昔は一緒の布団で寝てたのにぃ」


 むうと頬を膨らませると、大貴に呆れたようなため息を吐かれた。


「何歳になったと思ってんの……もう、寝るなら布団持ってきてよ。同じベッドは勘弁して」


「やったー」


 へへと笑って布団を取りに引き返そうとしたら、急に大貴に呼び止められた。


「やっぱいい、俺が取りに行く。隣の部屋にあるよな」


 そう言って彼は朱那を置いて隣の部屋へ向かった。

 大貴の背を眺め、朱那は微笑んで自身の腹をゆっくり撫でる。


「優しい叔父ちゃんだねぇ」


 腹の我が子に小さく語りかけて、朱那は先に部屋に入った。


 現在八週目。つわりは酷いが、順調に育っている。


 母が大貴を産んだときの記憶は、今はもうぼんやりとしてしまっていた。

 けれど、あの時の満ち足りた幸福感を自分も味わえるのかと思うと――もう既に幸せすぎてもったいないぐらいなのだが、つわりも苦ではなかった。この子が生まれてくるのが心から楽しみだった。


 嘉仁は既に名付けの本を何冊も買ってきて、時間があればそれとにらめっこしている。どうやら出張先にも持っていっているようだった。

 菜月も遊びに来るたびに「名前どうするの?」と興味津々に尋ねてくるし、誠と純子も初孫だなんて冗談のように言っては笑っている――いや実は結構本気で既にベビー服などを買っているかもしれない。


 朱那はくすりと笑い、窓辺に立って星の瞬く夜空を見上げた。


 外の世界は楽しいことばかりではないかもしれないけれど、あなたを救って、守ってくれる人はたくさんいる。あなたの幸せを願ってくれる人は、たくさんいる。

 だから男の子でも女の子でも、元気に生まれてきてくれれば、それだけでいい。


――私もお母さんになるのかぁ。


 少しくすぐったく思いながら、朱那は微笑んでカーテンを閉じた。




モノクローム 終

 自分の中でちゃんと消化したくて書きました。

 書いていて、色々と辛かったです。

 なんでこんなに栗原姉弟を苦しめようとするのか、自分でも不思議です。

 あまりに救いがなさ過ぎて、生まれたのが亮でした。お陰で亮を書くのが楽しかったです。出番は少なかったけど、つむぎもそうです。

 そういえば、本編で菜月が言っていたこと(朱那たちが伯母の家で何をされていたか等)とだいぶ差異があるのですが、それは大貴が意図的に濁して伝えたのではないかな、というのが作者の意見です。

 大貴(朱那も)は菜月に心配をかけるようなことはわざわざ言わないだろうなと、私は思っています。そんで後から菜月に知られて「なんでその時に教えてくれなかったの、バカ!」って怒られるんですね、わかります。

 ていうか大貴って繊細だなぁ、いや繊細というより、敏感なのかもしれない。大貴はものすごいお姉ちゃんっ子です。

 あ、佐々木の名前、初公開でした笑


 朱那も大貴もなんとか幸せにしてあげられたので満足です。

 番外編はもうひとつ考えていますが、現在書けそうにないのでひとまずこちらも完結にしておきます。

 お付き合い下さりありがとうございました。

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