道(2)
日は完全に沈み、地平がほんのり明るいだけで辺りは暗闇そのものだった。
「――ん」
大和は左手を差し出した。少年が顔を上げて首を傾げる。
「脚にくっつかれてると歩きにくい」
大和がそう言うと少年は慌てて脚から離れ、すぐさま差し出された大和の手にしがみついた。大和はやれやれと肩をすくめた。
「お前名前は?」
「…………しのぶ」
手を繋いだまま大和は道を右に折れた。街灯がぽつぽつと姿を現した。しのぶは足を速めて大和を見上げた。
「……お兄ちゃんは?」
「ん?大和」
大和が見下ろすと、しのぶは「やまとお兄ちゃん」と嬉しそうに笑った。大和も少しだけ笑ってみせた。そして前方を指差す。
「ほらそこ、公園」
「忍ーっ!」
突然、大和が指差した公園の方から女性の声がした。目をやると、制服姿の少女が走ってこちらに向かってきている。
「お姉ちゃん!」
しのぶが涙声で叫び、大和の手を離れて姉へ駆け寄り、抱きついた。しのぶの小さな身体を受け止め、少女はその場にしゃがむ。
「どこ行ってたの! 待っててねって言ったでしょ!」
「だってお姉ちゃんがいなくなるからぁ……っ」
忍がワッと泣き出した。姉はハンカチを取り出し忍の顔を拭いてやった。
「ごめんごめん、怖かったね。帰ろ」
姉は立ち上がり、忍の手を取った。すると、忍は何かを思い出したように振り返った。
そこには誰もいない。
忍は首を傾げた。
「どうしたの?」
「お兄ちゃんがここまでつれてきてくれたの」
「お兄ちゃん? そういえば誰かいたね」
姉は背筋を伸ばして通りを見渡した。やはり誰もいない。
「どんなお兄ちゃんだった?」
「えっとね、やまとお兄ちゃんっていって、あたまが金色だった!」
嬉しそうに言う弟を見つめ、姉は息を飲んだ。
「それって不良の……」
「ふりょーってなにー?」
「ちょっと……忍何もされてない!? 怪我は!?」
姉は両手で忍の顔を包んだ。忍はきょとんとしている。
「怪我はないね、帰るよ!」
忍の腕をグイと引っ張り、姉は歩き出した。忍は駆け足で追い掛け、不思議そうに姉を見上げた。
「やまとお兄ちゃん、やさしかったよ?」
「う……そうかもしれないけど」
忍を連れて来てくれたのは、話から察するに、最近噂で聞いた隣町の不良の学生だ。しかし本当にその人だとしたら、噂は間違いなのかもしれない。
忍が姉の手をクイクイと引っ張る。
「ひかりお姉ちゃんのすきなひと?」
「な、何てこと言うのこの子は! 会ったこともないわよ!」
忍がケラケラと笑い声を上げる。光はため息を吐いた。
「ま、子供から好かれる人に悪い人はいないって言うしね……」
「うん、やまとお兄ちゃんいいひと」
忍がニコリと笑い、光も優しく微笑んだ。
まさか数年後、出会う事になるとも知らずに。
『道』 おわり
大和はいいやつ。